新しい仲間を紹介しよう


「――ということで、新しく俺の獣魔なかまになったカリュアだ。みんな、仲良くしてやってくれ」

「――――!!」〔ますたーとミュアの、じゅうま、カリュア。よろしく〕


 再ログイン後、既に集まっていた他のメンバーと合流した俺は早速、つい先程仲間になったばかりのカリュアを紹介する。


 カリュアは笑顔のまま右手を高々と上げ、勢いよく横に振り出す。残念ながらその声は【テレパス】の効果持ちの俺か精霊としての契約主のミュアしか聞こえていない。


 そんな辿々しい仕草を眺めて、女性陣はメロメロになっている。


「やーん! 何この可愛い子! ゼファーも可愛いけど、やっぱり女の子の姿の子は更に可愛いわね!」


 特にリーサはカリュアの姿を見て昂ぶる思いを隠しきれずにいた。……後ろでフィーネが睨んでいるけど知らないぞ?


 対してレンの方は頭を抱えていた。まぁ、言わんとしていることは分かるぞ。


「……グレイといい、お前はホントに規格外だな! 何だよ、アルラウネのレア個体って! 誰も見たこともないモンスターに出会って、その上テイムするとか、何なんだよホントにもう……」


 流石に思いの方は抱えきれなかったのか、勢いよく吐露していく。


 とはいえ、カリュアと出会えたのはメルカの店で買ったお香の効果なので、元を辿ればメルカに原因がある。そう、俺は悪くない。


 因みにカリュアの俺に対する呼び方はそのまま『マスター』となっているが、ミュアの方はミュア本人が変更を希望したので名前呼びになっている。分かりづらかったからな。


 また、クラウスと出会ったことも共有しておく。一応、チームなので仮に不利益になりそうな事があれば、把握しておいてもらう必要があるだろう。


 ……まぁ、ミュアとゼファーのことは遅かれ早かれバレることなので特に問題はなさそうだったが。


「クラウス? クラウスってまさかあの『破壊僧』か? ……いやまぁ、あの人なら変に言いふらすことはないから問題無いだろ」

「やっぱ、レンも知ってたんだな」

「まぁあの暴れっぷりだからな。βテスターならだいたいみんな知ってるさ」


 そのままレンは「一緒にパーティーを組みたいとは思わないが、一度会ってはみたいな」とポツリと呟いていた。


 取り敢えず全員と合流したが、依頼主であるメリッサとは9時に会うことになっている。


 一応、8時過ぎの今、噴水の前に集まってはいるがまだ依頼主らしき姿は当然ながら見当たらない。


 まだしばらく時間があるため、サザンカさんがリーサやナサの装備を、【裁縫】のアビリティレベル上げついでに強化したいと告げる。


 確かにリーサやナサの装備はイアンの防具店で購入したときのままだからな。二人の宝具は特に服飾系の防具が多いので【裁縫】のレベル上げには丁度いいだろう。


 元の防具の性能がいいので、たとえ【裁縫】のレベルが低くてもそれなりにちゃんとしたものが出来上がるはずだ。


 そのことは俺たちがサイモンさんに装備の強化を依頼した時に確認済みだ。あの時、サイモンさんは【裁縫】を取ったばかりだったらしいのだが、それでも十分な性能にはなっていたからな。


 取り敢えず、大丈夫だと告げておく。俺の装備も強化してもらいたかったが、まだこの周辺で手に入る強化素材を見つけてないので無理だろう。


「そうだ。サザンカさんに装備のことで頼みたいんだけど、腰か手の防具でSTRが上がるタイプのものを作ってもらえないかな? 胴と脚防具を変えたらSTRの補正が無くなって、魔杖を使うときのダメージが低くなってね」

「……構わないけど、私の場合は高い効果を求めるなら何かしらのステータスを切る必要があるけれど、ユークくんはどのステータスなら問題なさそう?」


 サザンカさんの装備制作はプラス補正をかなり上げる変わりにマイナス補正が付くタイプのものだ。他の生産職が作った装備でもたまに見かけるが、サザンカさんの場合はその差がかなり大きい。


 俺の場合、MPとINTは精霊術を使う以上、下げるわけにはいかない。また、VITやMINなどの耐久系のステータスも出来るならこれよりは下げたくはない。


 そうなるとAGIとDEXなのだが、その中でならカリュアの【技量補正】で200上がっているDEXなら少し下がっても問題はないだろう。


 多少テイミングはしづらくなるだろうが、上がる前の段階で希少種なドライアドをテイムできたのだから、問題はないと思う。


「取り敢えず、DEXなら200くらいまでなら下がっても大丈夫かな」

「分かったわ。……取り敢えず、ユークくんの戦闘スタイルに合わせて調整してみるわ。イベント前日までには完成できるよう頑張ってみるわ」

「よろしく頼みます! ……これ、取り敢えずさっきまでの戦闘で手に入れた素材です。使えそうなら使ってください。お金は完成品と交換で渡します」

「ありがとう。……うん、これなら十分いい装備が作れそうよ」


 俺からエリアボスのものも含めた各種素材を受け取ったサザンカさんと女性陣は一旦クラフトハウスの方へと消えていく。


 残った俺たちとレンは仕方なく街の中をブラブラと歩くこととなる。


 ……その間にドライアドのことについて聞きたいというプレイヤーが何人か近寄ってきたが、そういうプレイヤーはグレイが睨みつけるとそそくさと消えていった。


 中には従魔士も居たみたいだけど、グレイには判別つかないんだ。済まない。


 そんな中で、一人だけグレイの威嚇にも挫けずに勇気を持って話しかけてきた同い年くらいの従魔士の男性プレイヤーがいた。どうやら同じ学校の友達やネット内の友人と一緒にプレイしているらしい。


 簡単に俺達の説明をした後に彼らの自己紹介を聞くことにした。


「あの! 僕、サトルっていいます! 従魔士テイマーです! コイツは僕の相棒のシャインとソニアです!」

「俺はジュン、軽装戦士ライトファイターで一応、チームリーダーです」

「私はミッチェルです! 神官プリーストです!! こんなかわいいモンスターがいたんですね!」

「僕はサーヤ。狩人ハンターだよ。シルバーアッシュウルフ……かっこいい……」


 彼らのチームである『深奥の冒険団』は男女二人ずつのこの4人で構成されている。


 4人だけのパーティーでよくあのブラッディハウルベアを突破できたものだと感心したが、その従魔を見せてもらって納得した。


 そう、サトルはあのフラッシュバードをテイムしていた従魔士だったのだ。


 シャインという名前だが、今は進化してシャインバードとなっている。眩き閃光は光属性の力として覚醒しており、攻守ともにかなりの力を持つ。


 正直、第一エリアでテイム可能なモンスターの中ではトップレベルの力を持つと言っても過言ではないだろう。まぁ、ゼファーやミュアみたいな規格外もあるが、これは例外となる。


 更にもう一体のソニアは草原エリアと森林エリアの境目付近、ルプス牧場近くに出現するフォレストディアーが進化したルーンディアーだった。


 こちらは進化したことで【ルーン魔術】が得意なモンスターとなるので、後衛職が狩人のサーヤしかいない彼らのチームではかなり役に立っただろう。


 他にも何体かテイムしているようだが、使役獣のパーティー制限で今のところはこの2体を連れ歩いているようだ。


 パーティーメンバーも全員がクラス2にも関わらず、しっかりエリアボスを倒して来ていることから、従魔を抜きにしてもかなりの実力を持っていることは確かなようだ。レベルもサトル以外は全員レベル20後半なのでその頑張りが伺える。


 因みにサトルのリアルフレンドはジュンだけで、ミッチェルとサーヤはネットで仲の良かった友達らしい。会うまではまさか女性だとは思ってなかったらしいが、こうして仲良くプレイしているらしい。


「けど、凄いですね。シルバーアッシュウルフだけじゃなくて、ドライアド? までテイムするなんて」

「まぁ、色々苦労はしたけどな。ま、みんないいやつらだぜ。グレイなんて、俺のことを『主殿』って呼んでくるからな」

「えっ、グレイって喋るんですか?」

「いや? 【テレパス】って従魔士のジョブアビリティで声が聞こえるんだ。サトルもそうだろ?」

「は、はぁ……」


 何やら歯切れが悪い返事だったが、まぁ気にしないことにしよう。


 その後、とても話が弾んだのでついつい色んなことを喋ってしまった気がする。……が、まぁゼファーやミュアについては喋ってないので問題はないだろう。多分。


 そんな話をしていたらそろそろ時間が近づいてきたので、彼らとフレンドコードを交換してから別れを告げた。やはり同じ従魔士や同い年くらいのプレイヤーとは仲良くしないとね。


 しかし、カリュアに対して絶対に守ってあげないといけない感が俺を始めとして従魔たちにも高まってきたようだが、これが保護欲というものなのだろうか?


 ……その問いかけには誰も答えてくれなさそうだ。


 ――――――――――――――――

(9/22)サザンカに依頼する場面でユークが素材を渡す部分が抜けていたので加筆しました。

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