名付け

 その後、意識を取り戻したのはある程度MPが回復してからだった。


 ミュアも当然ながらモンスターリンクの効果で共有化しているので、同時に気絶していた。


 俺たちが気絶している間にゼファーかグレイによって縛られていた状態から開放されたであろう ドライアドが俺のそばに座っている。その顔はずっと気絶してたであろう俺を見つめており、とても不安そうな表情をしていた。


〈ドライアドをテイムしました。名前をつけてください〉


 そこにいつものアナウンスが鳴り響く。


 気絶する前の幻かもしれないと身構えていたがやはり無事にドライアドのテイムには成功していたらしい。


 ……まぁ、その直後に俺たちがぶっ倒れているから本当に無事であるとは言い難いが。


「名前……名前か……。どういうのがいいと思うか、ミュア?」

「へっ? わ、私ですか!? えっ、えーっと……そうですね……」


 突然命名を振られた事で驚きを隠せないミュア。


 見た目が女の子なので、女性の方がよりちゃんと名付けができると踏んで振ってみたのだが、予想外にテンパっているミュアを見ることができた。


 それからしばらく頭を悩ませていたミュアであったが、ようやく妙案を思いついたのか相槌を打つ。


「『カリュア』なんていかがでしょう。エルフの古い言葉で『胡桃の精』というのです。樹精のドライアドにはピッタリだと思いません?」


 成程。確か、エルフ族のバックボーンはギリシャ神話やケルト神話のお話を参考にしているらしいので、おそらくはそれらの神話の中にそういうものが存在しているのだろうな。


 俺はそういう神様の名前はメジャーなものしか知らないのでよく分からないが、名前の響きとしては良さそうだ。


「あぁ、いいと思うぞ。よし、じゃあ今日からお前は『カリュア』だな! よろしく頼むぞ!」

「――――!!〔わぁい。よろしく。ますたーとますたー〕」


 そう言うとドライアド改めカリュアは嬉しそうに笑顔を浮かべてバンザイのポーズを取る。


 テレパスの効果で声が聞こえるが、容姿に違わず幼い感じで辿々しい感じだ。


 グレイに続いて喋れないモンスターが従魔となったが、なまじ人と同じ姿をしているのである意味その動作で他の人には意志を伝えられそうだ。


 因みにゼファーが言うにはドライアドは中位精霊の一種らしい。ユーリカのエコーと同じクラスとなる。人型に近いが、あくまで植物系モンスターの姿だから問題ないのだろう。喋れるのは上位精霊でも限られた存在だけらしいしな。


 ただ進化すれば精霊としてのクラスが変化するものも居るらしいので、カリュアも進化すればもしかしたらゼファーみたいに喋れるようになるのかもしれないな。


 しかし、『ますたーと』とは? まるで契約者が二人いるような感じなんだが……。


〈『名付け』の効果により、特殊使役キャラ:ミュアとドライアド:カリュアとの間に疑似契約が結ばれました。以降、プレイヤー:ユークが連れ歩いていない状態の時に限り、『精霊召喚』でドライアド:カリュアを呼び出すことが可能となります〉


 次いで再び鳴り響くアナウンスにより、カリュアとミュアとの間にも契約が結ばれたことが告げられる。成程、だからマスターとマスターだったのか。同じ呼び方だと分かりにくいな!


 これは前例がないので完全に俺の憶測でしかないのだが、もしかしたらエルフ系の特殊使役キャラが従魔の名前を考案する場合、その従魔が精霊種の場合は擬似的に契約を結ぶことができるのかもしれない。


 確かに最初、【精霊召喚】のアビリティを見たときに、そもそもミュアはどうやって精霊と契約するのだろうとは思っていたのだが、こういう手段もあったようだ。


 ……まぁ、実際にはこの近くにあるらしい精霊の泉というものもあるしいので、手段自体はいくらでもあるのだろう。対応する精霊石を手に入れれば、例の隠しダンジョンで契約することもできるだろうし。


 因みに『精霊召喚』スキルで召喚した精霊は一時的な呼び出しとなるので、連れ歩き数や使役モンスターの制限などには関与しない扱いとなる。


〈契約効果により、特殊使役キャラ:ミュアはアビリティ【精霊術】を習得しました。以降、プレイヤー:ユークならびに特殊使役キャラ:ミュアはドライアド:カリュアの持つ『精霊術・樹』を使用可能となります〉


 そしてカリュアが覚えている樹属性の精霊術を使用可能となったこともアナウンスされる。樹霊ということでもしかしたら精霊術を覚えているかもとは思っていたが、どうやらちゃんと覚えていたらしい。


 さて、ひとまずアナウンスも終わったので、ここいらでカリュアのステータスの内容を確認してみよう。


 ――――――――――――――――――


 名前:カリュア

 レベル:25

 種族:ドライアド【レア】

 状態:従魔

 契約者:ユーク・ミュア


 HP:400 / 400

 MP:300 / 300

 STR:150【×1.5→225】

 VIT:50【×1.5→75】

 INT:150【×1.5→225】

 MIN:50【×1.5→75】

 AGI:150【×1.5→225】

 DEX:400【×1.5→600 ※貸与:-200×2→200】


・アビリティ

【精霊術・樹】【技量貸与】【臆病】【友愛の精霊】【精霊変化】【レア個体】【樹精】

・スキル

精霊術・樹(『樹痺の粉塵パラライズ・フレア』『誘眠の粉塵スリーピング・フレア』『樹種の弾丸シード・バレット』『蔦精の壁盾アイヴィー・ウォール』)・『精霊変化』

・アーツ

『蔦の鞭』『根張り』


 ――――――――――――――――――


 レベルが下がるのはグレイと同じなので置いておくとして、ステータスとしてはHPとDEXが高い傾向にあるが、かなりバランスの取れたステータスとなっている。それでも俺より素のSTR値は高いのだが……。


 案の定、想定した通り耐久系の数値は低いものの、それでもゼファーやグレイたちとどっこいどっこいといった感じだ。全体的にINTとSTRのどちらかに特化している傾向にあったうちの従魔の中ではかなりのバランス型といえるだろう。


 アビリティ関係は前述の精霊術の他に【技量貸与】という、契約主に対して自身のDEXの数値を分け与える効果のアビリティを有している。現在のカリュアの契約主は俺とミュアの二人なので、1/3ずつ分けてから貸し与えることになるようだ。


 この効果は基本的に俺が連れ歩いている間は常時発動しており、現時点では俺とミュアに200ずつ貸し与えている状態なので、実際にカリュアのDEXは200しかないことになる。


 そして【臆病】はカリュアの性格を元にしているアビリティのようだが、効果としては慎重に行動するようになるために命中精度がかなり上がるが、逆に恐怖状態やそこからの混乱状態になりやすくなるというものだ。


 メリットとデメリットがはっきりしているが、恐怖状態は基本的にはゴースト系のモンスターと戦うときにしか起きないレベルのものなので、ほぼ問題ないだろう。


 【友愛の精霊】はゼファーが持つ【親愛の精霊】の下位互換のようなものだ。ゼファーほどの信頼度ではないものの、それなりには信頼してくれてい事を示している。基本的にどちらもしっかり命令は聞いてくれるようなので、性能としては大して差はない。


 グレイもだが、あれだけ命懸けの戦いをしていたというのにテイムされると忠誠心を持っていたり、友愛だったりと、よく懐いてくれているのは何故なのだろうか……。


 強者であるレア個体故に自らを制したものには服従とかそういうものなのだろうか? 疑問は尽きない。


 あとはゼファーと同じ効果不明の【精霊変化】と、グレイも持つ【レア個体】のアビリティとなる。おそらくカリュアもグレイ同様、【レア個体】で獲得したレアアビリティの数で進化可能になるのだろう。


 因みに【樹精】については樹に宿る精霊たる樹精であることを示すアビリティなので、特にそれといった効果は今のところはない。これはミュアの【精霊姫】と同じようなものになる。


 実際に覚えている精霊術スキルは相手を麻痺状態にする『樹痺の粉塵パラライズ・フレア』と睡眠状態にする『誘眠の粉塵スリーピング・フレア』の状態異常付与のニ種類、そして現時点では唯一の攻撃系スキルである『樹種の弾丸シード・バレット』、そして防御系スキルである『蔦精の壁盾アイヴィー・ウォール』の4種類となる。レベルの割には少ない気もするが、初期レベルと考えるとこんなものだろう。


 俺が戦闘開始直後に受けたのは『誘眠の粉塵スリーピング・フレア』だったみたいだな。そして攻撃を耐えるときに使った蔦の盾は『蔦精の壁盾アイヴィー・ウォール』だったのだろう。


 習得しているアーツは、背中に生えている蔦を鞭として扱うことができる『蔦の鞭』と、脚や蔦を地面に差し込む事で継続的にHPとMPを回復することができる『根張り』の2種類となる。どちらもモンスター時にドライアドが使用してきた行動だな。


 『根張り』は使用中に行動不可になってしまうが、モンスター時と比べると継続回復になっている他、HPだけでなくMPも回復するので、これで味方の回復効果を持つスキルや他の状態異常系のスキルを覚えるとかなり心強い味方となってくれるだろう。


 総じて攻撃よりは状態異常などの妨害に特化しているタイプと言えるだろう。まぁ、耐久系のステータスは低いのだが、そこは他の従魔や俺のジョブスキルやジョブアーツで対応できるだろう 。


「さて、そろそろ時間も怪しいから一旦、開拓の村に戻るか。グレイなら俺とミュア、それとカリュアを乗せて帰れそうか?」

「ガウア!〔お安い御用です、主殿!〕」


 そう言うとグレイは【体格変化☆】の効果で少しだけ大きくなると、地面に伏せ、俺たちが跨るのを待つ。サイズが大きくなったことで俺とミュアが乗っても全く問題ないし、間にカリュアが入っても全然大丈夫だ。


 因みにゼファーは自分で飛べるので問題ないだろう。仮に俺の頭に乗ったとしてもそんなに重さは変わらない。


 そして俺たちはグレイに乗って勢いよく開拓の村へと戻っていった。


 ……結果として更に大きくなったグレイの姿でめちゃくちゃ目立った挙げ句、ドライアドという誰も見たこともない新種のモンスターを連れていることからかなり人目を引く事となったのだが、もう気にしないことにしよう。


 結果としてミュアやゼファーに目がいかなくなる可能性が高いしな。


 そして忘れないうちにギルド支所に寄って、マッドプラント系の討伐の報告と泥喰樹の荒蔦の納品を済ませ、依頼を完了した。追加報酬は一体につき1000FGとまぁ本来の報酬の頭割りと変わらなかったものの、要らない素材の売却分も含めればそれなりに稼げたので良しとしよう。


 ……まぁ、護衛の依頼はこれからなんだけどな。


 時刻は7時ちょっと前。俺はカリュアたちのことを再びミュアに任せてからログアウトする。次はみんなと合流するため、8時に再開だ。

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