走れ!

「行くぞッ! 『テンプルガードナー』! 『タフネスボディ』ッ! 『シールドエリア』!」


 オークラさんは【ヘイト集中】でマキナテック・ガーディアンの敵意を集めながら、『テンプルガードナー』と『タフネスボディ』の2つの神殿騎士のジョブアーツ、そして盾術スキルの『シールドエリア』でマキナテック・ガーディアンからの攻撃に備える。


 タフネスボディは自身の耐久系のステータスを一定時間引き上げる効果がある。


 またシールドエリアは一定範囲に自身が盾を掲げている時と同じ状態を形成するスキルで、ただ単に盾で守っている状態だけでなく、『テンプルガードナー』のノックバック耐性とスタン耐性の効果もその場の全員に与えていた。


『――――――――ッッッッ!!!!』


 シールドエリアによる青白い結界が展開された時、マキナテック・ガーディアンは声にならない咆哮を上げる。それなりに離れていた俺たちが痺れるくらいだったので、あの場に居れば間違いなくスタン状態になっていただろう。


 しかし結果として、解き放たれたマキナテック・ガーディアンの咆哮によるスタンは、シールドエリアの効果により防がれることとなる。そして役目を終えた結界はそのまま消失する。


 次の瞬間には、レンが目に止まらぬ速さで前に飛び出し、2本の剣を構えながらマキナテック・ガーディアンの右足に向けて飛びかかる。そのまますれ違いざまに斬りつけ、一切止まることなく相手の攻撃範囲から離脱する。


 マキナテック・ガーディアンに与えたダメージ量はさほどではないが、それでも意識を完全に俺たちの方向から背けることには成功する。


 ユーリカやケイルもヘイト値を集めすぎないよう、ほどほどの間隔で矢を放っていく。ユーリカは【曲射術】のアーツである『カーブショット』、ケイルは【狙撃術】のアーツである『スナイプショット』を用いている。


 軌道が直線的でないからか、マキナテック・ガーディアンも二人の方向には攻撃をしてこない。

 基本的に全ての攻撃に関してはレンを狙ったもの以外は全てオークラさんが耐えている。少しずつダメージを食らっているものの、何とか耐久できている状態だった。


「今だ! リック! ユークくん! リーサくん!」


 マキナテック・ガーディアンの方向が完全に背後の機械触手から離れたその瞬間、オークラの声と共に駆け出す俺とリック。先に走っていくのはリックだ。流石にAGIの差もあるし、戦闘フィールドだから【早移動】の効果も出ない。


「『分身』っ! 『インビジブル』!」


 リックがスキルの発動を宣言すると、その場でリックが二手に分かれ、片方の姿が消える。おそらく分身の方を陽動にして先に進むことになる。


 俺も『姿隠し』を発動し、透明化していたゼファーと共に先へ進む。


 そんな様子をリーサとフィーネが心配そうに見つめていた。


 リックの分身がマキナテック・ガーディアンの背後を通った瞬間、それまでオークラさんたちの方に攻撃していたマキナテック・ガーディアンの頭が180度回転し、分身の姿を目視する。そして、口を大きく開くと、先程と同じく咆哮をかき鳴らす。


 瞬間、分身は攻撃をもらった判定を受けて消滅し、スタン状態になったリックの姿が出現する。俺の場合は、『姿隠し』は解除されなかったが【緑の息吹】のベールが弾け飛んだ。


 そして無防備になったリックに向けて、マキナテック・ガーディアンの瞳から放たれる光線は誰も遮ることもできずに、一瞬にしてリックの姿を包み込む。


 爆発とともにHPを全損し、【根性】で耐えきったリックであったが、ダメージの反動でまともに動けない。


 オークラさんたちが必死にヘイトを稼ごうとするが、そちらには目もくれない。代わりにミサイルのようなものが肩から放たれ、無差別に攻撃していく。その攻撃は流石のオークラさんでも、庇いきれずにユーリカやケイルも被弾する。ユーリカはHPが高いのでかろうじて生き残るが、ケイルは一発もらって吹き飛んだまま意識を失ってしまう。流石に生きてはいるが、このままでは危険だ。


 リーサにアイコンタクトを飛ばし、フィーネにケイルを回収してもらう。


 オークラさんは自身を盾で守るのに必死であり、またレンも避けるので手一杯だ。


 俺はリックが目で「走れ!」と言っていると感じ、そのまま走っていく。その瞬間、リックは叩き潰され、蘇生待ち状態になる。


 流石に近づくと、『姿隠し』状態でもマキナテック・ガーディアンはこちらに気づく。そして次に俺の方へと狙いを定め、拳を振り上げる。


 流石にあれを食らうと不味いと思い、『姿隠し』を解除して精霊術スキル『緑風の弾丸』を足元へと放つ。着弾の勢いを利用して自身を前方へと飛ばし、マキナテック・ガーディアンからの攻撃を回避する。


 着弾時の衝撃により割とシャレにならないダメージを受けてしまうが、なんとかなるだろう。


 俺のAGIは確かに少ないが、あれを見てから避けること自体は……うん、何とか出来そうだ。大振りだから初速が遅い。その時点でだいたいの軌道は決まるので、その時点で走って避けられなさそうならば、『緑風の弾丸』で吹っ飛んで回避する。


 その繰り返しで、何とか機械触手の近くまで近付くことができた。我ながら中々ぶっ飛んだやり方だが、これしか方法はない。既に変に破片が当たったからか、右足の感覚が鈍ってきた。


 どうだ? ――まだ走れる? だったら大丈夫!

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