機械仕掛けの守護者王

 ――マキナテック・ガーディアン。


 その姿は巨大な鎧を身に纏った人型の超巨大な機械戦士というところか。結構かっこよさそうな見た目だったが、その機械の継ぎ目には肉塊らしきものが繋ぎ止めてある。どうやら、機械を組み込んで作り出されたキメラのようだ。


 そのレベルは案の定不明。しかし、このクエストのボスともいうべき存在だからか、俺たちが道中で戦ったモンスターよりも遥かに強そうだし、フライ・ハイの構えからして、彼らが戦った守護者ガーディアンともやはり一線を画すらしい。


 ケイルに言わせれば「あんなやつ、こんなところに居ていいやつじゃない」とのこと。具体的には語らないが、第一エリアの適正は軽く越しているということなのだろう。


 俺は、そんなマキナテック・ガーディアンの背後に、機械の触手によって雁字搦めに固定された調査員らしい人影を発見する。エルフ族のようだが、その髪の色は透き通るような銀色だった。


 そのことを言うと疑問符を浮かべられたが、レンが「こいつ目だけはめちゃくちゃいい」と告げ、なおかつ【鷹の目】を持つユーリカが目を凝らして確認してようやく信じてもらえた。


 とにかく、今回は敵を倒すことが目的ではない。敵を倒すよりも前に、まずは彼女をあそこから救い出す必要がある。


 しかし、その目の前の敵はまだこちらに気づいてはいないとはいえ、戦闘圏内に入り込めば確実に気付かれるだろう。そうなると果たして回り込めるかどうか……。


「取り敢えず、俺が先制で引き付けて、レン、ユーリカ、オークラであいつを抑える。その間にユーク、リック、リーサで調査員の救助に向かえ」


 ケイルが弓を番えながら語る。


 俺とリックは一定時間、もしくは攻撃するまで姿を隠すことができるスキルを持っているため、それなりの敵であれば敵の注意を惹かずに行動できる。


 また、リーサの場合はフィーネに抱えて貰えば俺以上のスピードで移動できるため、一応こちらの方に回ることとなった。


 流石にあのボスとの戦いにリーサが巻き込まれると普通に死に戻りする可能性が高い。幾らユニークジョブと戦闘人形フィーネで高い戦闘能力を持ったとしても、所詮はレベル10程度なのだ。耐久関連のステータスもそこまで高いわけではないので、フィーネがあのボスの一撃を食らっただけでリーサのHPが全損する可能性すらある。


 まぁ、それを言い出したらこっちも普通に攻撃される可能性があるから、危険度は変わらないのだが。とはいえ、積極的に攻撃が来る場所に比べたらまだマシな方だろう。ヤバそうならそこで待機する他ない。


「分かった。俺たちは取り敢えずケイルやレンたちが仕掛けるまで待機だな。今のうちにリーサは継続回復薬を飲んどけ」

「はーい。でもあれちょっと味がねぇ……美味しいんだけど飽きるというか……」

「あら、その意見は後でアトリちゃんに、伝えておくわ。ここまで飲み続けてくれるお客も居ないだろうしね」


 ユーリカはそう言って知り合いの調薬士のプレイヤー、アトリに味の評価を伝えることを告げる。まぁ、これからお世話になるかもしれないから味は妥協しちゃダメだな。


「さて、お喋りはそこまでにして……私たちは、そろそろ行こうか」


 オークラが大盾を構えて前に出る。それにユーリカ、レン、ケイルが続く。


 またマキナテック・ガーディアンの戦闘フィールドは展開しないが、それでもケイルが先制を放てば直ぐにでも展開する。今のうちにどうやってあの場所に近づくのか、考えなければならない。


「で、どうする? ケイルはあぁ言ってたけど、多分だけどオイラの『インビジブル』だとあいつとのレベル差がありすぎて気付かれるぜ?」

「そうだな、多分俺の『姿隠し』も姿はかくせるけど気配は隠せない筈だから、結果は同じかもしれない」


 俺とリックは互いに悩んでしまう。肝心の姿を消して動くスキルが、相手に通用しない可能性があるからだ。


「もし可能性があるとすれば、敵に気づかれてもそのまま直進できるかどうか、だな。オイラの場合、『分身』を使っておけば一時的にダメージを庇って貰えるが、基本的に同じ場所に出現するからあのデカい腕だと同時にダメージを食らいそうだな。まぁ【不屈】に【根性】があるから何回かは耐えられるだろうけど、それでいけるかどうか……」


 【不屈】は俺も持ってるが、あれは確率だからな……。因みに【根性】はHP100%からの全損の場合、確定でHPが1残るという仕様だが、残ったからといってそのまま追撃されれば蘇生待ち状態になる。


 今のところ蘇生役はこのパーティーにはいないし、蘇生薬も見つかってないため、蘇生待ち状態は死に戻りへの待ち時間のようなものとなる。


「俺の場合は……一応【緑の息吹】で一撃は耐久できるから、そのまま行くことはできるな。【不屈】も発動さえすればなんとか」


 それを聞いたリックから、何故ユーリカと同じエルフ族の種族アビリティを覚えているのかと聞かれたのでランダムアビリティで覚えたと答えた。


 意外とランダムで他種族の種族アビリティを引き当てたのは居ないようで、どうやらかなりのレアケースのようだ。基本的には自分の種族の種族アビリティが優先されるらしい。


 どうやら、ユーリカもランダムで【緑の息吹】を引き当てていたらしい。まぁ、あっちはあっちで攻撃が当たらないので使わないらしいが。


「だとすると、まずはオイラが先に行ってみて、駄目ならユークに任せるって感じだな。リーサは最後まで待機で。じゃあ取り敢えず、いざという時の為にコレを二人に渡しとくぜ」


 そう言ってリックは、俺とリーサにとあるアイテムを見せる。これはレベル上げの最中にホーンラビットからドロップしたという『身代わりうさぎ』というレアアイテムであった。


 名前の通り、これを所有していると一定値以上のダメージを肩代わりしてくれる。今までリックはダメージをほとんど受けていなかったため、それなりの数が残っていたらしく、それを俺とリーサに渡してくれたという話だ。


「リック……サンキューな。絶対このクエスト、クリアしようぜ!」

「おうよ! ……っと、そろそろあっちが攻撃を仕掛けるみたいだな。ヤツの注意が向こうに向いたら動くぜ」


 そうリックが告げると、ちょうどケイルがマキナテック・ガーディアンに向けて矢を放った瞬間であった。

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