チーム『クロノス』の二人
完全に台詞が一致するという、あまりに奇妙な体験だったので、その女性プレイヤーの方を見たが、その女性プレイヤーは白と黒を基調としたローブを身にまとい、そのローブのフードで頭を覆い隠している。頭にはイルカの形を模した髪飾りをつけていた。
「おっと、奇妙な偶然もあるものだね。まさか全く同じ台詞を言うとは」
「てことは君もあのアニメを見てたってことか」
「奇遇だね。その通りだよ」
そのアニメとはペンギンの三兄弟が都会を舞台にどんちゃん騒ぎを巻き起こすという子供向けのショートクレイアニメで、上の兄弟たちの言い争いがあまりにも子供向け番組には適さないような物言いばかりだったので変に話題になっていた。
少し前に放送されていたのだが、俺もこの女性プレイヤーもそれを見ていたらしい。さっきの台詞はその三兄弟の一番下の弟が、二人の喧嘩を止める際に使うものとなる。
当然ながら、シグねぇも見ていた世代であり、毎回のように飛び出してくるその台詞は耳馴染みがあったようで、言い合いを止めてこっちを見ていた。
「あら、ユーくん! ごめんね、私ったらついカッとなっちゃって……」
「あまり売り文句に買い言葉は良くないよ」
俺がそう言うと、流石に反省した様子で項垂れるシグねぇ。
そういえば珍しくその横にハルとユキが居ないが、どうやら今日は美晴と紗雪は護身のために月に2回ほど習っている太極拳教室の日だったらしく、そもそもログインしていないようだ。
行きたくないと駄々をこねていたらしいが、それならゲーム禁止にするとおばさんが言ったことで、素直に行ったらしい。まぁ、そうなるよな。
一方、ナギサの方もさっきの女性プレイヤーに注意を受けていた。
「全く、君は一応有名なんだからあまり粗相をしちゃダメじゃないか」
「いや、アイツとは白黒はっきりつけなきゃいけないのよ!」
「そういうのがあまり良くないって言ってるの。分かってる? 君の評判が悪いと、僕が君をチームに引き入れたこと、カナタ以外のメンバーに文句言われるんだからね?」
「わ、分かったわよオルカ……。せっかく『クロノス』の一員になったのだもの。簡単に手放す気はないわ」
「だったら言動に気をつけること。悪い意味で有名になっても、君がつらいだけなんだからね?」
「ねぇ、オルカって私のお母さんなのかしら?」
「……何を言ってるんだい君は?」
向こうは向こうで何やら話しているが、どうやら彼女たちはあの『クロノス』のチームメンバーのようであった。
エリアボスの初討伐など様々な所で話題になっている『クロノス』だが、現在では一人を除いてチームメンバーの5人がユニークジョブになっているらしい。
そして、オルカと呼ばれた女性。もしかしなくても、従魔士スレによく顔を出していたオルカで間違いないだろう。掲示板の人物も、自身が『クロノス』であることを言っていたし。
となると、彼女が例の妖精をテイムしたことでユニークジョブである
うーむ、じっくり精霊や妖精の違いとかの話をしてみたいものの、まだ俺以外で精霊をテイムしたプレイヤーは確認されていないから、あんまりがっつり行くのは憚れるな……。
すると、ナギサに反省させて話を終わらせたオルカはスタスタとこちらの方に近寄ってくる。
「やぁ、さっきはうちのナギサが済まなかったねシグ。もし次に噛み付いてきたらしっかりお灸を据えてやってほしい」
「まぁ、オルカちゃんがそう言うなら……わかったわ」
どうやらオルカはシグねぇとも知り合いのようだ。まぁ、掲示板でもβテスターだって言ってたし、キャンティさんのβテストでの姿であるガタゴロウさんとも仲良さそうだったし、かなり顔が広いんだろうな。
だからこそ、『クロノス』の一員なのかもしれない。
因みに『クロノス』からイベントに参加しているのはナギサ一人のようだ。他のメンバーは都合が合わなかったり、意見の違いから参加を見合わせていたりしているらしい。
オルカは最近ジョブチェンジしてまだ実力が伴っていないことから参加していないようだった。おそらく今日はナギサの応援に来たのだろう。
そうしたらこんなところで騒動を起こしているので目も当てられなくなって出てきてしまった……という流れのようだ。
「それと、君が例の……成程ね、たしかに面白そうだ」
そして、オルカはこちらの方を見るとグレイとミュアの姿を見て、何かを納得したように頷く。
例の、と言ったことはまたNPCテイマーとかそういう事なんだろうか。
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕はオルカ。君も従魔士で掲示板を見てたなら知ってるかもしれないけど、
「あぁ。よろしく。俺はユーク。見ての通り、普通の
「ふぅん。普通の
オルカは俺と握手しながら、何やら呟いていたがなにか気になったのだろうか。
そして俺とオルカはここで会ったのもなにかの縁ということで、フレンド登録を済ませた。また従魔士(といっても彼女はその派生のユニークジョブだが)のフレンドが増えた。
そして、周囲が参加者や観戦者などで混み合って来たことでそろそろ移動する必要が出てきたので、ここでオルカたちとは別れることとなる。
そんな去り際、オルカはふと俺の方に何かを伝えようと近付いてきた。
「取り敢えず、一つアドバイス。精霊の姿隠しはコロシアムでは無効化されるだろうから気をつけて。それじゃあ、またね」
そう言って先に歩いていたナギサの方へと向かっていくオルカ。……はて、俺はオルカに
今となってはよく分からないものの、『クロノス』に入るだけの実力があろう彼女の底知れぬものを感じ取ってしまった。……うん、後でちゃんと聞こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます