救う者の目
〈緊急クエスト『デスト・スカルスパイダーからの護衛』の特殊クリア条件を満たしました〉
〈デンジャラスクエストを推奨レベルよりかなり低いレベルでクリアしました。参加したプレイヤー並びに特殊使役キャラ:ミュアに称号『危険を生き延びた者』が与えられます〉
〈特別サポートNPC:アドミスがパーティーに加わりました〉
放心していた俺たちの耳に緊急クエストが終わったことがアナウンスされる。
特殊クリアと言っているが、どう考えてもアドミスの存在のせい……だよな?
ていうか、デンジャラスクエストってなんだよと思ったら、クエストのボスと戦闘した場合の推奨レベルが、フィールドの平均推奨レベルよりもかなり高めに設定されているクエストのことのようだ。
要するにさっきのデスト・スカルスパイダーは戦闘してクリアも可能だが、その場合はかなり高いレベルが必要となるらしい。まぁ、相手は普通にこのエリアのカンストレベルだったからな。
やはり逃げ切るだけではクリア条件は満たせなかったということか。
取り敢えず称号効果については後で確認するとして、今はカリュアに蔦を外すように頼んでからグレイから降りて、アドミスの方に向かうことにした。
この中では俺や俺の従魔しかアドミスのことは知らない。だから、他のみんなはいきなり現れてレベル45のデスト・スカルスパイダーを一刀両断したこの男が何者なのか気になって仕方ないだろう。
「アドミス! なんでアンタがここに居るんだ!? 確か、冒険者ギルドに居たはずだろう?」
「ハッハッハッ! それがな、ユークよ。実はエミリアのやつがな……」
高笑いしたかと思ったら急に気落ちするアドミス。その話によると、ここにアドミスがいるのはだいたいエミリアのせいらしい。
俺たちの専属ギルド職員になると宣言していたエミリアは、俺に第二の街に到着したら連絡をするようにと言っていた。俺も取り敢えず連絡だけはする予定だった。
しかし、ふとエミリアは別に待たなくても先に行ってしまえばいいのではないかと閃き、思い立ったが吉日と思ったのが俺たちがちょうどエリアボスと戦っているタイミング。
エミリアははじまりの街の冒険者ギルドのギルドマスターに転属願いを叩きつけて、その足で第二の街へと移動することにしたらしい。
他の受付嬢たちからは笑顔で送り出されたが、ギルドマスターはあまりの勢いに何も言い返せなかったらしい。おいギルマス。
転移用のワープゲートは来訪者や冒険者などしか使用できないようになっているため、エミリアは自力で移動する必要があり、その護衛としてアドミスは無理やり引っ張り出されたのだという。
ちょうど開拓の村に派遣されていたAランク冒険者の一部がはじまりの街に戻って来ていたのもあって、二人の引き継ぎはスムーズに終わり、夜にはアドミスとエミリアは第二の街へと出発し、一晩かけて辿り着いたのだという。いや、行動力よ。
その後、エミリアと共に第二の街に入ろうとしていたアドミスであったが、ふと自身の持つアビリティ【天啓】の効果によって、何か悪しきものが暴れている事を感じ取る。
そして、エミリアを置いて急ぎその方向に向かって移動した結果、デスト・スカルスパイダーに襲われる寸前だった俺たちを発見した……というのがここまでの一連の流れだったようだ。
いや、何というか……物凄いご都合主義的展開だなオイ。まぁ、嫌いじゃないけど。
ていうか、その説明だとエミリア怒ってない? 大丈夫?
「まぁ、何はともあれ助かったよ。ありがとう」
「困っている者を救うのが『
そう言って高笑いし出すアドミス。あんた、こういうキャラだったっけ? と思ったが、どうやら妹の前では少しだけお兄さんぶっていて、こっちが本性らしい。まぁ、例の戦闘前とかは今と似たようなテンションだった気がする。覚えてないけど。
圧倒的強者、高笑い好き説が俺の中でふと出てしまったが、圧倒的強者がアドミスしか出会っていないことから説は立証されなかった。
さて、冗談はさておき。俺はいまだポカンとしていたチームメンバーにアドミスの事を紹介する。レンには俺がSランク冒険者にボコボコにされた旨を説明していたため、「これがSランク……」と納得しているのかどうなのかよく分からない発言をしていた。
その後、俺とレン、そしてアドミスは他のみんなからは離れて今回の話をまとめることにした。
「さて、先程のデスト・スカルスパイダーだが、幾らここがモンスターの巣の近くとは言っても、こんなこのエリアでも高レベルのモンスターが現れるとは思えん。おそらくは何者かに使われたモンスターだろうな」
「ということは、従魔士かなにかなのか?」
「いや、従魔士にあの手のモンスターを扱うのは難しいということはユーク、お前がよく分かっているのではないか?」
そうアドミスに言い返されて、確かにと考えてしまう。あれだけの巨大だと確実にボスモンスターなのだが、従魔士はボスモンスターなどの特殊なモンスターに関してはテイムすることができない。
勿論、進化することでボスモンスターと同じ種族になるテイムモンスターもいるにはいるのだが、少なくともデスト・スカルスパイダーに進化する蜘蛛型モンスターはアドミスは知らないという。
そうなると、あのデスト・スカルスパイダーをどうやって使役したのかという疑問が出てくるのだが、その点はアドミスには察しがついているようだった。
「おそらくは
何やらおぞましげなジョブの名前が聞こえたが、これも初めて聞くジョブとなる。おそらくは
どうやら虫型のモンスターに対して、特定の相手を襲わせるよう暗示をかけることができるというものらしい。それを複数人で、ボスモンスターをけしかけたのだとか。
「おそらくはメリッサを狙ったものなんだろうな……彼女が急いで第二の街に向かわなければならず、なおかつここを通らなくてはならないと知っている奴が、彼女を確実に始末するために……」
レンがそこまで言ったところで、俺は離れた場所でグレイたちと戯れているメリッサを見る。
いったい何があったのかは分からないが、集団モンスター戦といい、このデスト・スカルスパイダーといい、メリッサに対する殺意のレベルが尋常じゃない。
「彼女は何かしらの事情を抱え込んでいるのかもしれないな。見たところ、赤の貴族のようだしな」
「赤……? まぁ、それよりもアドミス。もし、お前さえ良かったら、彼女の身辺を護衛してもらえないか? 俺たちは来訪者だからずっと彼女を見て回るってことはできないし」
「ふむ。それは俺をSランク冒険者だと知って、依頼を出すということでいいのか?」
そう言われると、少し言葉が詰まる。そうだ、今気軽に話しているが目の前の相手はSランク冒険者であり、指名依頼をするのであればそれ相応の報酬を渡さなければならない。そしてそれはかなり破格のものとなるだろう。
少し悩んだものの、メリッサのことを思うとどうしても無視できなかった。たとえゲームの中のNPCだとしても、こうして半日も付き合いがなかったとしても、見殺しにはしたくないというのが俺の思いだ。
レンの方を見ると、そっちもどうやら俺と同じ思いのようだ。
「……フッ、いい目をしてるな。それこそ世界を救う者の目だ。『男子三日会わざれば、
「アドミス……」
この中世なのかよく分からないファンタジー世界に住まうNPCが普通にそういう格言を使うと、途端に現実っぽい感じがして何だかモヤッとするのだが、まぁゲームだから仕方ないか。
「取り敢えず、あの子のことは任せたまえ。人助けに金など取らん。この『ガラティーン』が在る限り、悪党には指一本触れさせんよ」
そう言って、虚空から取り出した例の大剣――どうやらかの円卓騎士の一人であるガウェインが使っていた聖剣と同じ名前の武器らしい――を構え、アドミスはメリッサの護衛を引き受けてくれた。
……これ、武器構える必要あった?
まぁそんなことはさておき、後はメリッサに諸々の真実というか、本当のことをいい加減聞かないといけないな……。
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