殲滅姫と従魔士と生ける伝説

 6階層から、ちらほら他のプレイヤーも見かけるようになった。まぁ、ここからがダンジョン攻略の本番だというものだから、人がいるのも仕方がないだろう。


 ゼファーは戦闘時以外は姿を消して貰うことにした。もしうっかり戦闘中に見られてしまったときは……まぁその時は仕方がないだろう。


 とはいえ、ぶっちゃけ俺の出番はほとんど無かったので問題はなかった。さっきのボス戦を任せたから、後は大暴れしていいだろうと言わんばかりにシグねぇを始めとしてハルやユキが一気に戦闘を行った為に手出しする隙さえ無かったのだ。


 その分、さっきのフロアボス攻略の疲れは取れたので助かりはしたのだが。


 そして、そんな勢いで攻略を進めていって辿り着いた第8階層。そこで俺たちはあるパーティーに絡まれていた。


「あらぁ? そこにいるのはシグじゃありませんことぉ? またまた、小さなお子様を連れちゃって……お散歩ですかぁ?」


 あからさまにこちらに対して喧嘩腰で話しかけてきた真っ赤な髪の女性プレイヤー。エルフ耳があるため、エルフ族であることは確かだ。装備もその髪色に合わせたのかと言わんばかりに真っ赤だ。ローブのような外套を纏っていることから、おそらくは魔術士系統のジョブであろうとは思うが、一体なんの因縁があってシグねぇに絡んでくるのかは不明だ。ただまぁ、なんとなく分かりそうではある。


 お子様呼ばわりのハルとユキは、ムッとした表情を浮かべるが相手の力量を見定めたのか我慢している。


 そんな真っ赤な女性プレイヤーの両隣には、背の高い黒髪短髪の男前な顔付きの女性プレイヤーと背の低い茶髪ツインテールの童顔な女性プレイヤーが、二人共その言動にドン引きしたような表情のまま立っている。


 キリッとした表情の黒髪の女性プレイヤーは女性ではあるが男性用の装備を身にまとっている。かなり似合っているので、まさに男装の麗人というべきだろうか。背後には狼と梟の姿がある。狼はアッシュウルフだろうが、梟の方はフォレストオウルの進化後だろうか? どうやらこちらは俺と同じ従魔士のようだ。


 そしてツインテールの女性プレイヤーは背もかなり低く、中学生のハルとユキとどっこいどっこいといったところか。服装は黒髪の女性プレイヤーの装備の女性版といった感じだ。ややファンシーみがある装備だが、背丈や童顔な顔つきにツインテールと相まってこちらもよく似合っている。その背後には彼女と同じくらいの背丈の角が生えたウサギの獣人みたいなモンスター……ラピッドラビットの姿があった。レア個体の連れ歩きは俺を除けば初めて見る。


「……あら、久しぶりねナギサ。まぁ、お散歩といえばそうなのかしら。私達は楽しく敵を倒しながら、歩いているだけなのだから」


 そう告げてシグねぇはニコリと笑顔を浮かべる。顔は笑っているけど、目が笑ってないってやつだこれ……。


 そんなシグねぇの言い返しを聞いて、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる真っ赤な女性プレイヤーことナギサ。


 なんか話が進まなさそうなので、シグねぇに誰なのかを聞いてみる。


「……あの子はβテスト時代から色々と因縁をつけてくるプレイヤーなの。迷惑この上ないわ」

「ハッ! このアタシが! あんたのことをライバルとして認めてあげてるのよ! 感謝なさい!!」


 いや、ライバルってそういうもんじゃないだろう……。どうにも犬猿の仲って感じだな。


 随分と高飛車な様子だが、隣のプレイヤーの様子を見る限り、止めることはできないようだ。


 聞けばβテストの際に『殲滅姫』と呼ばれていた、それなりに有名なプレイヤーとのことらしい。同じ魔術士系統のジョブでβテストのバトル大会で優勝してトップ知名度を誇るシグねぇを一方的にライバル視しているとのこと。対するシグねぇも売られた喧嘩は買って倍返しする性格なので、火に油を注いで大炎上寸前な状態だ。


 実はシグねぇ、普段は温和だがガチで怒らせるとマジで怖い。それを日常から目にしているであろうハルとユキはその一触即発状態にドキドキハラハラ状態であった。まぁこの2人の場合は普段の行いが悪いのだが。


 ここで俺が変にしゃしゃり出ても巻き込まれて死に戻りしかねないので、取り敢えずナギサの対応はシグねぇたちに任せることにしよう。どうせしばらくは言い合いをするだけだろうし。俺としては同じ従魔士のプレイヤーと初めて会ったので、色々情報を交換したい。


 ふと黒髪の女性プレイヤーを見ると、俺の後ろの方に視点が移っている。振り返ればそこにはグレイの姿がある。あぁ、そっちか。ゼファーはまだ見えない状態のままのようだ。


 まぁ確かに珍しいよなレア個体。そっちのパーティーの方にもいるけど。


「……あっ、すまない。ずっと見つめてしまっていたな」

「あ、いや気にしないでいいよ。俺も、そっちの従魔が気になってたし」


 そう話すと、ふと黒髪の女性プレイヤーが笑顔を浮かべる。まぁ自分の従魔が気になると言われれば嬉しくなるよな、従魔士なら。


「あ、自己紹介がまだだったね。私の名前はヨハネスだ。従魔士だね。手当り次第にテイムしてるから、まだ育ちきってはいないけど……コイツはグレイッシュオウルの『カザマル』、そしてこいつはアッシュウルフの『ランマル』だよ。それでこの人は……」

「自己紹介くらい自分でできるよ、ヨハネス。……えっと、私はキャンティよ。……まぁ、従魔士相手だったら『ガタゴロウ』って名前を言ったほうが早いかしら?」


 ……はい?

 えっ、ガタゴロウってあのガタゴロウ?


「……どのガタゴロウを想像してるのか知らないけど、βテスト唯一の従魔士のガタゴロウだったら私よ。まぁ、流石に名前は変えたけどね。やっぱりこういうのは適当に決めるものじゃないわね」

「うーん、私はあの名前も姉さんのセンスが光ってて、いいと思うんだがなぁ」

「……バカにしてるのかしら?」


 ガタゴロウさん改め、キャンティ(最初はさん付けしようとしたが、本人に断られた)はどうやらヨハネス(こっちもさん付けはこそばゆいと言われて呼び捨てとなった)という従魔士のプレイヤーと姉妹のようだ。


「えーっと、俺はユーク。見ての通り従魔士だよ。こいつは見ての通りのシルバーアッシュウルフの『グレイ』だ。まさか、あのガタゴロウさんと会えるなんて思わなかったよ」

「まぁ、今はただのキャンティなんだけど」


 俺も倣って挨拶をする。ホントに会うことになるなんて思ってなかったから、なんと言っていいのか分からない。


 取り敢えず幾つか話をしていたが、なんとキャンティは従魔士ではないらしい。なんでもレベル10のうちにテイミングが出来なかったらしく、仕方なくランダムで習得できていた【木工術】から、クラス2の木工作士ウッドクラフターになったのだとか。


 何故その選択なのかというと、どうせレベルを上げるのなら従魔士で使いそうなステータスを上げておきたいということで、習得可能なジョブの中で唯一MPとDEXがレベルアップで上昇するジョブだったのが木工作士だった、ということらしい。


 確かにこの2つのステータスは従魔士ならば取り敢えず上げておきたいステータスではある。そもそもモンスターメインで戦わせるならSTRもINTも無理に上げる必要はないからな。……あれ?


 ……まぁ結果として、テイミング自体はジョブ習得後にあそこでシグねぇとバチバチやってるナギサらの協力もあって成功したということらしい。そのうちの一体がレア個体のラピッドラビットなのだから流石と言うしかない。他にもテイムしたモンスターは居るらしいが、従魔士以外は一体しか連れ歩けないので、今回は一番強いモンスターということで連れてきたらしい。


「しかし、村でシルバーアッシュウルフをテイムしたプレイヤーが居たから、ダンジョンで会えればとは思っていたが、まさか本当に会うことになるとは思わなかったな」

「フッ、ヨハネスったら村で話しかければいいのにもたついてたから、貴方がログアウトしちゃってて残念がってたのよ」

「ね、姉さん! そういうことは言うなよ!」


 キャンティがからかうと、ヨハネスは顔を真っ赤にして言い返す。いや、言い返しにもなってないな。昼前にサザンカさんと居たところを見られていたのだろうか。


 シルバーアッシュウルフについて気になるということは、やはり噂になっているんだろうな。まぁレア個体だからなぁ。俺も目の前のラピッドラビットをテイムしたキャンティ以外にテイムしているプレイヤーは見ていない。


 しばらくどうやってテイムしたのかを互いに話し合う。シグねぇとは違う意味で知名度の高い元・ガタゴロウさんことキャンティは、ナギサを始めとしてβテスト時代の知り合いがかなり多いらしく、ラピッドラビット戦では相手の動きを遅くする呪術スキルを使える知り合いの呪術士カーススペラーのプレイヤーのお陰で何とかテイムできたのだとか。相手にデバフを与える補助スキル持ちはやはり便利だな。


 俺の場合はゼファーやミュアの存在をぼかしたので、ホントに曖昧な話になってしまった。多分、誰が聞いても参考にならないだろう。もし参考になるとすれば【手加減】付きの防具くらいか。


 そのアビリティ名を聞いて、キャンティとヨハネスの目の色が変わったのを俺は見逃さなかった。そうだよな、従魔士だったら絶対欲しいよな。ただ、作ったのがあのサイモンさんだということを知って2人とも「あぁ〜……」と呟いたのは、まぁ仕方のないことだろう。普通に買おうとしたら滅茶苦茶高いらしいもんなぁ、サイモンさんの装備。


「……ところでそこのエルフ族の女性……もしかして、彼女ってモンスターなのかい?」


 ふと、話の最中に声を小さくして俺に対して話しかけてきたヨハネス。それを聞いてゾッと背筋が凍るような感覚が襲いかかる。まぁ、聞かれるだろうとは思っていたが。


「――あ、いや、別に詮索しようというわけじゃないんだ。今は表示されてないけど、前にアイコンが浮かんでたときに従魔みたいな表示があったって、知り合いの従魔士が言っててね。それでちょっと、気になったんだ」

「……あんまり、言いたくなければ別に言わなくていいのよ。私達も言いたくないことは色々あるし。……勿論、聞いたことを掲示板に書くつもりはないし、妹にも書かせるつもりはないから、その点は弁えるつもりよ」


 ヨハネスは慌てたように、そしてキャンティはそんな妹をサポートするように語りかけてくる。そんなキャンティの言葉を聞いて、ヨハネスが苦笑いしている。そういえば従魔士スレで結構この人ヨハネスの名前を見かけてたような気がするな……。


 まぁそこまで分かってしまっているのならば、別に言ってしまってもいいのかもしれないが……。


 いや、やはりNPCとして説明しておけば問題はないのかもしれないな。今はNPCとしてパーティーに加わっているわけなんだし、嘘をつくことにはならないはずだ。


「彼女はミュア。使役契約を結んでいるNPCで、おそらく表示はその契約が要因かもしれないな」

「ふーん……使役契約を結べるNPCね……。まぁ、そういうことだと認識しておくわ。勿論、掲示板には書かないけど」


 キャンティは何かに納得したような表情を浮かべる。ヨハネスは「そうか……やはりNPCテイマーの噂は……」とぶつぶつ呟いていた。


 えっ、NPCテイマーって噂になってるの? 気になって聞いてみたが、2人とも特に答えてはくれなかった。何故……。

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