リーサの人形
それからは迷うことなく無事に表通りに出ることができたので、リーサのいるクラフトハウスの方へともどる。
ゼファーはその間に俺が渡した焼き串を全て食べて満足しているようだった。
ストレージの中で一日経過していたが、やはり買ったときのまま変化してなかったようで、熱々の串から漂ってくる匂いは俺の食欲を刺激した。
周辺のプレイヤーもその匂いにやられていたようで、お腹がなる音が時々聞こえてきていた。
残念ながらこの鉱山の村にはこの手の焼き串を売るような店はないのだが。
そしてリーサが作業しているクラフトハウスに戻ってくると、そこにはレンとフライ・ハイのうちオークラ・ユーリカ・リックの3名が揃っていた。
「すまん、待たせたみたいだな」
「いや、俺たちもさっき来たところだ」
リーサの方はまだ工作中、というよりも今が一番大事な組み立ての段階のようだった。
そりゃ誰も中に入れないわな。ゼファーは気にせず透明化して中にいるようだが。
「しかし、隠しエリアに隠しクエストって……ユークくん、結構持ってる感じなの?」
ユーリカから尋ねられるが、確かに持ってるな【幸運】。そういった感じの返しを言うと、「そうじゃないわよ」とツッコまれた。
「ところでナナミさんはどうしたの? 一緒にプレイしてたんじゃないのか?」
「あぁ、ナナミはリアルで急用があって途中で抜けたんだ。俺たちもそこで一旦休憩しようと思ってダンジョンを抜けたんだが、その時にちょうどお前からチャットが来たんだよ」
「成程なー。……ところで、フライ・ハイの3人はクエストの件はどう?」
俺がそう問いかけると、3人とも大丈夫だと答えてくれた。
「そりゃあ行くわよ! 隠しクエストとかやりごたえありそうじゃない!」
「しかも古代遺跡だろ? 罠とかいっぱいありそうだし、楽しみだ!」
ユーリカは勿論、リックも違う意味でだがクエストを楽しみにしているようだ。
オークラさんも心なしかウキウキしているような感じだ。
まぁ、隠しクエストは基本的に一度きり。これを逃したら次はないので、楽しみじゃないわけがない。
「しかし、フルパーティー推奨ならあと一人必要だが、その点はどうするつもりかな、ユークくん」
「一応、リーサを連れて行こうと思ってるよ、オークラさん」
リーサがなろうとしているのは生産職で戦闘要員ではないが、だからといってこういうイベントに一緒にいけないのは何だか嫌だ。
戦力を考慮したらダメな選択なのかもしれないが。
オークラさんは一瞬驚いたが、優しい眼差しで俺の方を見つめてくる。
「成程。いいと思うよ。これはあくまでゲームだからね。楽しまなくちゃ勿体ない。それに、レンくんを含めて私達4人がいるんだから、大丈夫だろう」
鉱山ダンジョンの推奨レベルは24だが、既にユーリカやオークラさんは現状の上限であるレベル30に到達している。
現状、レベル上限以上の難易度はエリアボスを初めとしてダンジョンの中層以降となる、またエリアボスに関してもレベルダウンのギミックが発見されて、当初よりはかなり戦いやすくなったらしい。とはいえ、現時点ではまだ攻略者は出ていないようだが。
鉱山の遺跡もダンジョン内とかでなければそのレベルキャップの中にあるはずだが、残念ながらダンジョン内なのでその限りではない。……まぁ、極端に強い敵がこんな序盤に出ることはないだろう。
「それに推奨レベルが書かれてないってことは、人数のほうが重要なのかもしれないからな。数合わせでも6人はいたほうがいいかもしれない」
レンが俺が表示させていたクエストの内容を見て告げてくる。俺はこれが初クエストだが、昨日今日とプレイしている中で幾つかクエストをクリアしていたレンには、書かれているはずの推奨レベルがないことが気になったようであった。
そんな時、リーサがいるクラフトハウスから眩いばかりの光が溢れ出す。どうやらリーサの人形が完成したようだ。
「やったわ! 完成し――――はえっ?!」
その時、完成を喜ぶリーサの声が奇妙なところで途切れた。何かあったのだろうか。
同じく気になったレンたち全員と共にクラフトハウスの中に足を踏み入れる。
そこには、腰を抜かして完成した人形を呆けた表情で見つめるリーサと驚きを隠せない表情のゼファーの姿、そして――。
『……ハジメマシテ、マスター』
何故か自律して喋っている銀色のメカメカしい人形の姿がそこにはあった。
…………えっ、どういうこと?
――――――――――
(8/18)レベル上限以上の敵の部分が、以降の描写と矛盾していたので訂正しました。
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