第7話 四天王

 ガッガッガッ



 土を穿つ音が空洞に響く。



 あれから玉座の間に戻った俺は、床下の掘削を再開していた。

 最強の防御力を誇るダンジョンを作る為だ。



 その最中、気付いたことがある。



 どうやらレベルが上がると掘削レベルも上がるらしく、一度に掘れる量が前より格段に多くなっていたのだ。



 お陰で今では学校の体育館くらいの空間が周囲に出来上がっていた。



 壁面には合成した石壁を敷き詰め、等間隔に壁掛け燭台も設置してある。

 もうそこは地中とは思えない人工的な空間になっていた。



 そうそう、壁掛け燭台の合成に必要だった油は、掘っていた時に現れた油オオミミズという土壌生物を倒したらドロップした。



 そういう所からも素材を得ることが出来るらしい。



 とにかく、掘りながら様々な素材が集まってゆくので一挙両得だった。

 現時点で手に入った新しい素材は、石炭、銅鉱石、大理石、木の枝などだ。



 何に使えるかは分からないが、いずれ何かの役に立つだろう。



 それにしても、掘削レベルが上がったとはいえ、俺が思い描くような巨大なダンジョンを作るには、このペースだと正直しんどい。



 掘削レベルがどこまで上がるかは分からないが、今出来上がっているこの空間くらいだったら、強欲の牙グリーディファング一囓りで掘れるくらいにはなって欲しいものだ。



 さて、もう一掘りくらいしておこうかな。



 そんなふうに思っていた時だった。



「魔王様、お約束通り、参上致しました」



 頭上にぽっかり空いた穴の方からアイルの声が聞こえてくる。



「ああ、今行く」

「恐れ入ります……って、ええええっ!? も、もうこんなに掘られてしまったのですか!?」



 穴から顔を覗かせたアイルは、出来上がった空間を前に目を見張っていた。

 俺は地上まで伸びる階段(この階段も俺が作った)を上りながら答える。



「いやあ、まだまださ。これの数百倍の広さは欲しいなあと思ってるし」

「ひっ……ひえぇぇ……」



 あまりの膨大な計画に彼女は言葉も出ない様子だった。



「……っと」



 階段を登り切り、数時間振りに地上の空気を吸うと、俺の目の前に跪く四つの影があった。



「魔王様、四大魔団長にして我が魔王直属の配下、四天王がここに参じました」



 アイルがそのように告げてくる。



「自己紹介してくれると、ありがたいんだけど」

「はい、では右から」



 彼女に言われると、右端の影が前に進み出てくる。



 燭台の明かりの下に晒されたその姿は、口髭を蓄え、渋めの顔立ちをした紳士だった。



 黒のフロックコートに身を包んだ姿は、THE執事! THEセバスチャン! とでも言うような佇まい。

 静かで落ち着いた雰囲気を漂わせているが、内側に鋭いナイフのような殺気を感じる。



 一目見ただけで俺は、「こいつ、できるな」と思ってしまった。



 ナイスミドルは顔を上げ、口を開く。



「私の名はキャスパーと申します。数多の魔獣を率いる暴獣魔団長を務めさせて頂いております。こうして魔王様の下で尽くさせて頂けることに至上の喜びを感じております。どうぞ、お見知り置きを……にゃん」



「え…………にゃ、にゃん?」



 聞き間違いでなければ……今、語尾が「にゃん」って……。

 この渋い容姿からは考えられない言葉なんだけど……。



 するとキャスパーが申し訳なさそうに頭を下げる。



「これはこれは……お耳汚しを。獣人が故の性でして……時たま無意識に口走ってしまうことがございます。申し訳御座いませんにゃん」


「……」



 獣人? そういえば魔獣を率いてるんだったな。



 そう思って改めて良く見ると、彼の頭に見慣れないものが付いていることに気が付く。

 時折ピコピコと動くそれは、小さな猫耳だった。



 まさかの猫獣人だった!



「はい、次」



 アイルが無愛想に言う。

 なんか適当になってない?



 次に俺の前に進み出てきたのは、フリルの沢山ついたドレスを着た少女だった。

 年齢にしたら十二、三歳。

 まるで、どこかの貴族の御令嬢というような雰囲気がある。

 輝かしい銀色の髪と、病的なまでの色白の肌が印象的だ。



「私の名前はシャルロッテ。魔王様、よろしくね!」



 その場でクルクル回りながら、なんだかすごく軽い感じで言われたが、逆に普通の女の子な感じがして安心した。

 だけど、こんな可愛らしい子でも魔団長なんだよな……。



「それで、君は何の魔団長なの?」

「シャルは幽霊や死人を司る、死霊魔団長をやってるの」



「え……」



「ゾンビとか、ゴーストとか、リッチなんかのアンデッドモンスターがお友達だよ……っごほっげほっ!」



 シャルはニコニコしながら突然、吐血した。

 ついでに咳き込んだ反動で片腕がボトリと床に落ちた。



「あ……いけない、もげちゃった。魔王様の前で……ごめんね」


「……」



 シャルは、てへっと舌を出しながら落ちた腕を繋ぎ合わせていた。



 彼女自身がアンデッドだったーっ!



「次」



 アイルが言う。

 もう、やっつけだな……。



 次に俺の前に出て来たのは……もう人の姿すらしていなかった。

 丸くて、透き通っていて、ぶにょぶにょした物体。

 これって……。



「スライムじゃん!」



 一抱えほどある巨大なスライムは体をぶるんぶるん震わせる。



「ボクはプゥルゥっていうよ。プゥさんってよんでね」



 なんか色々まずそうな響きの呼び方だな、おい!

 っていうか、喋れるのかよ!



「ボクのナカマはボクみたいな、よくわからないマモノだよ」



 その説明だと、俺も良く分からないよ!



 そう思っているとアイルが補足してくれた。



 プゥルゥは幻精魔団長で、エネルギー体で出来ている不定形の魔物を指揮しているのだとか。

 スライムがエネルギー体かどうかは分からないが……。



「……ん」



 アイルが鼻先で指示する。

 もう、言葉すら発さなくなったよ!?



 最後に俺の前に進み出て来たのは、背中に大きな翼を持つ、淡い雰囲気の少女だった。



 それでも年齢にしたら十四、五だろう。

 長くて艶やかな髪、クールに整った顔立ち。

 虚空を眺めるような視線は無愛想に映るが、これまでの魔団長の中では一番まともそうに見える。



 そんな彼女は、しばらくぼんやりしていたが……。



「じゃ……邪竜魔団長……イリス……」



 ポッと頬を紅潮させると、顔を明後日の方向へ向けてしまった。



「……」



 人見知りか!



 名称と見た目からドラゴン族を率いてるっぽいってのは分かったが……。

 俺が知ってるドラゴンの勇ましいイメージとは全然違うんだけど!



 彼女もまた一癖有りそうな人物だった。



 さて、俺はこの四天王達から★を得ることが出来るだろうか……。


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