第59話 索敵


 メダマンのカメラに熱感知センサーが付いているらしく、ゴーレムリーダーと連携して勇者が岩陰に潜んでいることを突き止めた。



「この赤いのが勇者ですか?」



 スクリーンに映ったサーモグラフィー映像を見ながら、アイルが不思議そうに言った。



 そりゃあ、こんな色で分けただけの映像じゃ勇者かどうかなんて確かめようがないな。



「じゃあアレで行こうか」



 という訳で俺は別の方法を取ることにした。



 付近の木に設置してあるメダマンのうちの一匹を空中に飛ばすことにしたのだ。

 上空から見下ろせばどんな状況か一目瞭然のはず。



「よし、メダマン・森西側外縁十二号、岩陰に隠れている者達を上空から撮影せよ」



 スクリーン上の映像を命じたメダマンのカメラに切り替える。

 すると、何やら森の中をゴソゴソ動き出している絵が映る。



 普段は滅多に飛ばないメダマンだが、さすがにこちらの命令ならば飛んでくれるだろう。



 そんな訳でしばらく様子を窺っていると……ふわっと映像が浮き上がった。



 飛んだ!



 コウモリなんだから飛んで当然なんだけど、ちょっと飛んだだけでも過剰に反応してしまう。



 ていうか実際、ちょっとだけ飛んだ……という感じでもなかった。



 瞬く間に高度はぐんぐん上がってゆき、下に見える森の木々は目茶苦茶遠くなっていた。

 森の前に立つゴーレムなんて、米粒くらいにしか見えない。



 飛びすぎだろ!



 普段は飛ばない癖に、いざ飛んだらこれとか……極端すぎ。



「これじゃ小さすぎて、何が何だが分からないじゃん」



 そう不満を漏らすや否や、映像がズームアップされてゆく。



 なんと望遠機能付きだった!



 岩陰に隠れる人物を中心に映像が拡大。

 誰がどんなふうな配置で隠れているのか、全て丸見えになっていた。



 しかも、この高さからなら相手に気付かれることもない。

 そこまでを考慮しての高度なのだろう。



「相変わらず魔王様のお作りになられた魔物の性能には感服致しますな」



 キャスパーが深く頷いていた。



 俺もメダマンの高性能っぷりに驚いていた。

 やはりゴーレム同様、魔王補正が働いているようだ。



「ともかく、これで相手の様子を探り易くなったぞ」



 早速、その映像を精査する。



 岩陰に張り付いている一人の青年。

 この一揃えの白銀装備と金髪には見覚えがある。



 恐らく、ここにいる皆も前に映像で見ているから分かるだろう。



 あの勇者だ。



 だとして……その隣にいる女の人と、この白いフードを被ってる人は誰だろう?



 女の方はRPGに出てくるような、いかにも魔法使いウィザードって感じのローブを身に纏っているし、手には魔法の杖っぽいものも持ってる。



 これは多分、見たまんま魔法使いウィザードだろうな。



 じゃあ、白い人の方はどうだろう。



 こっちの人はフードコートだけど、やっぱり魔法使いウィザードっぽい服装だ。そしてまた杖を持ってる。



 でも、ゲームに出てくるような魔法使いウィザードって大体、ダークなイメージだから、こんな目立ちまくる純白の装備なんか身に付けないよな。



 こういうのって往々にして回復職ってことが多い。



 ということで、俺の中のゲーム基準で判断すると、この人は恐らく僧侶モンクとか聖職者クレリックとか、そういった感じの職業だと思う。



 そんなことを思いながら映像を見ていると、何かがチラッと見えた気がした。



「ん……今のって……。ちょっと、白い人の手元をアップにしてみてくれる?」



 そのようにメダマンに頼むと、すぐにカメラが白い人の手元を映し出す。



 拡大されたのは杖。

 その先に十字架を象った銀色の金具が嵌まっているのが確認出来た。



 この世界の宗教とかそういったものは分からないけど、それをそのまんまの意味で素直に捉えたら、やっぱり予想通りの職業っぽい。



「勇者の側にいる二人は魔法使いウィザード聖職者クレリックって感じかな?」



 アイルに聞いてみた。



「ええ、装備品から鑑みて、それで間違い無いと思います」



 うん、これで確定。



 あと気になるのは、彼らの背後に整列して控えている兵士みたいな人達。

 数えてみると十五人ほどいるけど、彼らは何だろう?



 全員が揃いの服の上に軽量の鎧を身に付けている。

 きちんと統制が取れているこの感じは普通に考えて軍隊だよな。



 勇者がリゼル王国の者らしいから、その国の騎士隊とか?

 でも、騎士と言うには装備が軽めなんだよなあ。



「ねえアイル、この人達は何だか知ってる?」



 スクリーンを指差しながら尋ねた。



「恐らく、リゼルの魔法騎士隊かと」



 魔法騎士……なるほど。魔法と剣、両方使える万能兵士って感じか。



 それにしても、この大所帯だというのに戻って来るのがかなり早い気がする。

 瞬足スキルって、そんな誰でも持っているようなものでもないだろうし、どうやって来たんだろ?



 もしかしたら……。

 ピンと来て、アイルにそのことを聞いてみる。



「リゼル王国の領地で、この魔王城に一番近い町って知ってる?」



「それはルギアスですね。ここから西方に約五十キロル(キロメートル)の所にあります。人間の足ならば一日で踏破出来るでしょう」



 なるほど、ということはこの魔法騎士隊はそこから連れてきた可能性が高いな。



「よし、これでここに隠れてる者達の構成が大体、把握出来たぞ。あとは彼らが何を企んでいるかだけど……」



 勇者がわざわざ大勢連れて戻ってきたその意図を探りたいところ。



 魔法使いウィザード聖職者クレリックに何をさせようっていうんだろ?



 その事を考えていると、



「マオウさま、なんかきこえるよ」



 映像をじっと見ていたプゥルゥがそんな事を言ってきた。



「聞こえるって何が?」

「ほら、がめんから」

「む……」



 耳を澄ませると、画面からゴニョゴニョと声がしている気がする。

 気がするというのは、それぐらい小さな声だったからだ。



「もしかして……メダマンが勇者達の会話を拾ってる!?」



 でも、メダマンは上空のかなり高い位置から撮影している。

 だから、対象が何を言っているかはほとんど判別出来ない。



 逆を言えば、よくこの高さから声が拾えてるな!

 相当な高感度マイクを備えているとしか思えない。



 ってことは、ちょっと高度を下げたりしたら、結構聞こえるようになるんじゃね?



 それどころか……、



「もしかして、感度調節が出来たりして……?」



 俺が言うと、映像を送ってきていたメダマンが画面上で、



「キュィィ」



 と叫んだ。



 どうやら、出来るらしい。

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