第191話 トイレの罠
俺がトイレの場所を口にした途端、兵士達は一斉にその方向に向かって駆け出した。
扉の辺りが、まるで満員電車の駆け込み乗車みたくなっている。
さっきまで床の上で悶えていた彼らが飛び起きて走り出すくらいだから、相当ヤバいんだろうなー……。
で、このトイレ騒動。
当然、俺がただ親切にその場所を教えてあげた訳じゃあない。
もちろん、罠だ。
俺が以前、レシピで作った城内設置のトイレは、普通に使用する分にはとっても便利なもの。
だって、下水処理の心配が無いのだから。
でも、誤用すると大変なことに。
その理由はアイテムの詳細を読むと見えてくる。
[トイレ]
シンプル形状の洋式トイレ。暖房便座、温水洗浄機能付き。あらゆる汚水を次元の彼方へと葬り去る浄化処理要らずの自己完結型トイレ。
この内容が示す通り、落ちればどこかの次元に放り出され、亜空間を生きたまま永遠に漂うことになるのだ。
これに勇者達を落とすことが最終目的。
どんな攻撃も無効化してしまう
でも、普通に使っている分には落ちたりすることは無いので、トイレのドアにバネ罠を仕掛けておいた。
ドアを閉めて、中で用を足そうと無防備になった瞬間、背後からドンっと突き落とすのだ。
そのまま次元の彼方へさようなら! という訳だ。
そんなこんなで、後は事が済むまで待つだけ――なのだが……。
「……」
まだいた。
レオだけがトイレに行かず、まだこの玉座の間に居座っていたのだ。
扉の前でつっかえていた兵士達の姿はもうない。
全員、トイレに向かったのだろう。
彼だけがポツンと魔王ゴーレムの前に立っている。
しかし、クールに装っていても苦しみは顔色に出ている。
額に多量の脂汗が滲み始めていたのだから。
うわー……頑張ってんなー……。
よく我慢出来るなー。
逆にすげーよ。褒めてあげたいくらい。
そんな彼に誘惑の言葉を投げかける。
「お前は行かないのか? 数は充分にあるから並ばずに用を足せるぞ」
するとレオは堪えながらも失笑する。
「ふっ……この状況でのこのこ行くとでも思ったのか? 用を足すくらいならそんなに時間は掛からない。しかし、現に誰一人として帰ってこないじゃないか。これが何を意味しているのかは、貴様自身が良く知っているのではないか?」
さすがは勇者、と言ったところか。
忍耐力も洞察力もなかなか。
でも――。
「さあ、人によっては長くかかることもあるだろ?」
言いながら玉座から立ち上がる。
数段高くなっている場所から降り、レオの方に向かって数歩、進み出る。
これにレオは素早く反応し、大盾を構えた。
そこで魔王ゴーレムは足を止める。
「そのまま耐え続けられるわけでもあるまい?」
そう投げかけると、彼は表情一つ変えずに答える。
「そうだな、生理現象には逆らえない。だが、貴様の世話にはならぬ。なので一度、出直してくるとしよう」
「ほう、それはそれは。随分と自信があるようだ。この地を二度、踏む気があるとは」
「ふっ……」
レオは不適な笑みを見せる。
その時――
彼の瞳の奥に光が灯るのを捉えた。
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