第183話 バナーネレール
回復さんの配置を瞬足くんに頼んだ俺は、火山の山頂にて勇者レオの監視を続けていた。
「だいぶ弾んだね」
「ええ、ホントに」
そう答えたのは隣にいるリリアだ。
俺達は今、レオの体がバナーネの皮の上で大きく弾んだ瞬間を見ていた。
しかし、ブレーキ効果を高める為か、有効範囲を広げ過ぎたのが徒となってしまったらしい。
まるで巨大な鉄球のようになった防壁が兵士達を押し潰したのだ。
これにより、結構な被害が出ていた。
「空飛んだよね」
「ええ、飛びました。人って飛べるんですね」
リリアは真面目に感心する。
「それにしてもバナーネの皮は万能だね。あの
「あっ、魔王様、上手い!」
彼女がパチパチと手を叩く。
その音が、静かな山頂に寂しく響く。
思わず駄洒落を言ってしまったが、口にした後で後悔した。
「ゴホン……それはまあいいとしてだ……彼らもだいぶ走り続けたみたいだし、そろそろ解放してあげようかと思うんだけど」
「えっ? 解放しちゃうんですか? このまま走らせ続けておけば放っておいても心臓麻痺を起こして死んでしまうでしょうに」
リリアは不思議そうに瞳を瞬かせた。
「まあ、そうなんだけどさ」
実際、レオに付いてきていた兵士の半数以上が、既に死亡したままバナーネのレールの上を滑り続けている。
「兵士達はそれで排除出来るかもしれないけど、レオは結構耐えそうだからね」
兵士達の命を考えなくても良い状況になれば、奴は周囲を気にせず
それで余計なことをされたら困るからね。
「それに、ただ走らせている訳じゃないんだ」
「?」
「これは、このあと始まるお持てなしの為の重要な余興なんだから」
「お持てなし??」
彼女は首を傾げていたが、すぐに企みに満ちた笑みを浮かべる。
「なるほど、魔王様の考えるお持てなしですもんね。それはさぞかし面白いことになるのでしょうね。うふふ……」
「そう、だからリリアにはバナーネのレールを一部取り外してもらいたいんだ」
「え? 私がですか?」
まさか自分にその役が回ってくるとは思ってなかったのか、少し驚いた様子だった。
「それは構わないですけど、今からあそこまで行くとなると結構時間が掛かりますよ?」
彼女は山の麓を指差しながら言った。
「何も現場まで行く必要はないよ。リリアにはその弓があるでしょうが」
「これで、ですか?」
彼女は背中にあった弓を取り出してみせる。
「そいつでバナーネの皮を一つだけ射って、取り除けばいいだけ。レールの一部が無くなれば、走っていた者達はその場所から脱線して止まるってわけ」
「なるほど、そういうことですか。でも、矢ですらもバナーネで滑ってしまいませんかね?」
「それはバナーネの皮そのものではなく、その下の地面を狙って土ごと取り除けばいいと思うよ。リリアの腕なら容易いだろ?」
「わあ、そんな手があるなんて思い付きませんでしたよ。それなら出来そうです」
リリアはやる気が出たようで早速、矢を番えた。
「じゃあ、やっちゃいますね。ちなみにどの辺がいいですか?」
「ああ、出来るだけ城に近い側で頼むよ。その辺りに少しだけ開けた場所があったと思うから狙いも付け易いと思う」
「分かりました」
弦を弾き、狙いを絞る。
鷹の目の何倍もの視力を持つ彼女の目が、目標を捉えた。
次の瞬間、風鳴りがして矢が放たれる。
光の粒が森の中へと吸い込まれるように消えて行った。
それを見届けた後、俺はコンソール画面の方に視線を移す。
「さて、どうなったかな?」
着弾点に近いカメラを探すと、地面が抉れている映像を発見。
「おお、ここだここだ」
と、そこに丁度良く、レオ達の一団が走って来るのが見えた。
そしてバナーネの皮が取り除かれた箇所に彼らが到達すると、次々に地面の上に大の大人の体が放り出される。
「うわっ!?」
「なんだっ!?」
「ぎゃっ!?」
急に動きが変わったことに戸惑う兵士達。
そのまま飛び出した体が折り重なり、瞬く間に地面の上で人間の山が出来上がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます