第14話 至福の時間
プゥルゥは湯船の縁に載ったまま恥ずかしそうに体をモジモジとさせていた。
「まおうさまが、ボクのことをシンパイしてくれたのはウレシイけれど……なんていうか……ボクのハダカをみて、そんなふうにヘイゼンとしていられると……キズツクかなあ……」
「え……いや、でも俺には今とさっきで何が違うのか全然分からないんだけど……」
「むむ……」
すると彼女は怒っているのか、体の中に沸騰したような気泡を発生させる。
「まおうさま! そういうところがデリカシーのないハツゲンなんだからね? ぷんぷん」
「ご、ごめん……」
よく分かんないけど、とりあえず謝っとこ。
「それより、もう出た方がいいんじゃないか? 体調は戻ったとはいえ、あまり長居してはまた同じようなことになりかねないし」
「うん、そうするよ。ありがとう、まおうさま」
そう言ったプゥルゥが跳ねながら風呂床に降り立った時だった。
ザッパァァァァァァァァッ
俺の目の前に突如、巨大な水柱が上がった。
「な、なんだ!?」
最初は温泉が急に噴き出たのかと思った。
だが実際、その水柱の正体は人影だった。
「ぷっわはぁぁぁぁぁっ」
息を吐きながら水中から現れたのはアイル。
どうやらプゥルゥが流れてきた場所と同じ、壁の下を潜ってやってきたっぽい。
「プゥルゥ! あなた、魔王様の所で何をやってるんですか! 隣まで色々、聞こえてましたよ!」
アイルは怒り心頭気味でプゥルゥを叱りつけるが……俺はそれ以上に、彼女の格好が気になって仕方が無かった。
「あ、あの……アイル……その……なんだ……見えてるけど?」
「へ……?」
彼女は勢いのままに飛び出したので、自分があられもない姿であることをすっかり忘れていたのだ。
「ひ……ひにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
アイルは大浴場に響き渡る悲鳴を上げると、大慌てで湯船の中へと沈んだ。
「ばばば……まぼうざま……ずずみまぜん……ぼぼぼぼ……」
水面から赤い顔を半分だけ出し、お湯をブクブクさせながら喋る。
一体、何しにきたんだよ……。
そんなアイルの後ろを見れば、いつの間にかシャルとイリスの姿もある。
彼女達も口元まで体をお湯に沈め、恥ずかしそうにしていた。
「皆して何してんのさ……」
尋ねるとシャルが、お湯の中とは思えない青白い顔で答える。
「だって、隣からプゥルゥと魔王様の楽しそうな声が聞こえてきたから、私達も交ざりたいなーっておもったの」
イリスも同意見なのか無言で頷いた。
これじゃ男湯と女湯を分けた意味無いじゃん。
「とにかく、元に戻ってよ。このままじゃ互いに落ち着かないでしょ?」
するとアイルがようやく首まで顔を出して言う。
「いいえ、私はこのままで良いです」
「なんでーっ!?」
あんなに動揺していた癖に無茶苦茶なことを言い出したぞ……。
「なんと言いますか……魔王様に私の……その……貧相な体で、お目汚しを……。なので……その罪滅ぼしとでも言いましょうか……この場でそれを行いたく……」
「いいよ、何も迷惑掛かってないから」
「分かります。御慈悲でそう仰って頂いているということは」
「いや、普通に本心だからね?」
「私に出来る事がありましたら何なりとお申し付け下さい……」
「……」
引き下がってくれる様子も無い。
「だからといって、こんな所でやってもらうような事は背中を流してもらうことくらいしかないけどなあ……」
アイルがピクッと反応する。
「背中を流す? それはどういった感じで行うのでしょう」
「タオルとかスポンジみたいな柔らかいものに石けんを付けて体を洗うんだよ」
「タオル? スポンジ? 石けん?」
彼女は聞いたこともない単語に首を傾げる。
「どれもこの世界には無いだろうから、いいよ別に」
再度断ると、アイルは何かを思い付いたようで、
「いえ、それなら代わりになるものがあります」
と言いながら真剣な眼差しを向けてくる。
「だとしても、俺も湯船から出て皆に裸体を晒すのは恥ずかしいから、やっぱいいよ」
「ならば、このままで大丈夫です」
「こ、このまま?」
どういうことだ?
風呂に浸かったまま洗う気なのか?
それって衛生的にどうなんだろうな。
そんなことを思っているとアイルが事を進め始める。
「では……前を向いていて下さい」
「えっ……あ、うん」
まあいいか、その程度で彼女の気が済むのなら。
そのまま待っていると、俺の背中に非常に柔らかいものがピタリと当てられる。
ん……なんだ、アイルの奴、スポンジみたいなもの持ってたのか。
「よろしいですか……?」
「あ、ああ」
「で、では……失礼して……あっ……」
柔らかいものが俺の背中を上下に撫で始める。
なんだか、くすぐったい。
こんなに背中を洗うのに適したものが、この世界にもあるんだな。
一体、何で出来てるんだろう。気になる。
とは言っても後ろを振り向くことが出来ないので、されるがままに前だけを見ていると、視界の端にシャルとイリスの姿が見えた。
彼女達は背中を洗われている俺の姿を何故だか動揺しながら見ていた。
「あわわ……」と言いながら、見る見るうちに二人の顔がマグマのように赤くなってゆくのが分かる。
逆上せた感じじゃないし、どうしたんだ?
しかも彼女達の視線は俺じゃなくて、背後にいるアイルの方へ向けられているように思う。
なんでアイル?
そう思うと、嫌な予感がし始めた。
さっきから俺の背中を撫でているこの柔らかいもの。
なんだか膨らみが二つあるように感じる。
まさか……。
ぞわぞわっとした感じが背筋を駆け抜けた時、アイルが恍惚に満ちた声を上げる。
「ああっ……魔王様……この感じ……私……たまりませんっ……!」
「ちょっ!?」
その声で俺は確信を抱く。
直後、
「げふぅっ!」
シャルが大量の血を吐いて湯船に沈んだ。
どうやら刺激が強すぎたらしい。
「シャ、シャル!?」
お湯が血の色に染まってゆく最中、アイルの頭から★が飛び出していた。
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