第13話 湯あたり

落とし穴の中で湯に浸かり和むキャスパー。



 そろそろ普通の湯船の方へ移ったらどうなんだ? と思ったが、どうやらその場所が気に入ってしまっているらしく、今更声を掛けるのも憚られた。



 猫って狭い所、好きだしなー。

 きっと落ち着くんだろう。



 なので彼のことは放って置き、俺一人で湯船に入ることにした。



「あぁー……」



 お湯の中に体を浸けると自然とそんな声が漏れる。

 それは魔王になっても人間だった頃と同じ反応だ。



 やっぱり風呂は、どんな場所でもいいもんだなー。



 プールみたいな広さを持つ湯船。

 その中を壁際まで泳ぐと、背中を預けて座る。



 俺は一旦そこで落ち着くと、ステータス画面を開いた。



 さっきキャスパーの頭から★が出るの見たので、どんな結果になっているのか知りたかったのだ。



 で、表示されたのは、これ。




[ステータス]

 名前:魔王

 レベル:2   ★:40

 HP:3605   MP:2913

 攻撃力:634   防御力:559

 素早さ:448   魔力:592

 運:657

 特殊スキル:飢狼罰殺牙グラトニーハウンド(Lv.26) 炎獄砲牙ヘルフレイムカノン(Lv.32)



 ん? 確か前は★が20だった。

 だから40ってことは、20増えていることになる。

 それは間違い無いのだが……。



 レベルが上がってないぞ?



 レベルが上がってないってことは当然、他の数値も変わりない。

 合成レシピの欄も確認してみたが、そっちも変化は無かった。



 これが例えばゲームだったら、レベルが上がるごとにレベルアップする為の必要経験値が増えて行くのが通例だ。



 この場合も同じような仕組みなんだろう。

 となると、もっと★を集めなくちゃなー。



 さて、今度はどうやろうか。

 そんなことを考えながら算段を練っていると、おかしな物体が、お湯の中にプカプカと浮かび、俺の目の前を通り過ぎて行くのが目に入った。



「なっ……」



 最初はお湯と同化したように透明だったので「なんだこれ……?」と思ったが、よくよく見ると見覚えのある形に思えてくる。



「ま、まさか……プゥルゥ!?」



 まるで死んだように流れて行くプゥルゥを、俺は慌ててお湯の中から抱え上げた。



「ちょっ、ちょっと! 大丈夫!?」

「ん……んん……あっ、まおうさま……」



 どうやら意識はあるようで安心した。



「どうしたの? どこか体調が悪い所でも?」

「なんか……あたまがぽやーんとして……ちからがはいらないんだ……」



 なるほど、状態から察するに逆上せたっぽい。

 ヒエ○タみたいな体だから、熱を吸収し易いんだろうな。



 そのまま意識が朦朧としてしまい、女湯と繋がっている壁の下を水流に乗って流れて来たと考えられる。



 とにかく、このままお湯の中に浸かっていては体調が悪化するばかりだ。

 俺は彼女の体を抱きかかえると、湯船の縁の上に載っけてやる。



 すると薄ピンク色になっていた体は、見る見るうちに爽やかな青い色へと戻っていった。



 案外、早く熱が抜けるみたいで良かった。



「具合はどう?」

「うん……もうダイジョウブそう。ありがとう、まおうさ――」



 プゥルゥは言いかけた言葉を不意に止め、体を硬直させる。



「ん?」



 不思議に思った俺と、彼女の視線が合わさる。

 その直後だった。



「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

「ええっ!? 何?」



 プゥルゥは突然、金切り声のような悲鳴を上げた。

 そして、



「まおうさまの……えっち!!」

「ふぁっ!?」



 想像だにしてなかった事を言われて戸惑った。



「え……エッチって……」

「いいから、むこうむいてて! いまマクをまとうから!」

「あ、うん」



 言われるがままに後ろを向く。



 って、ま、まく!? まくってなんだ? 膜のことか??

 そんなものが一体どこに?



 なんて思っていると、



「もういいよ……」



 という声が聞こえてきたので恐る恐る振り向いた。

 すると、そこにあったのは、ぷるんとした透明の体を持つ、いつものプゥルゥだった。



 変わってねえぇぇぇ!

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