第207話 魔王の真意


 何しに来たんだよ!?



 俺が最初に思ったのはそれだった。



 ゼンロウの勇者ユウキは、ラデスを滅ぼした魔王の手の者の情報を知りたいと言いつつ、魔王を倒す気は無いと言う。



 魔王討伐以外の目的が他にあるということなのだろうか?



 確かに彼からは何か企んでいるような胡散臭さは漂っている。

 とにかく、このまま様子を探るのが得策だろう。



「では、お主は何の為にその情報を求めるのじゃ?」



 ラウラが聞きたいことを率直に質問してくれた。



 するとユウキはさらりとした金髪を掻き上げ、ニヤリと笑う。



「私はそこから魔王の真意を知りたいと思っているんですよ」

「真意……じゃと?」



 ラウラはきょとんとした。

 俺自身も――えっ……真意? と目を丸くした。



 俺の真意って……何?

 やってる事と言えば、勇者が挙って攻めてくるから、殺されないようそれに対応してるだけなんだけど?



「ええ、その魔王の真意がラデスでの戦い方に現れているのではないか? と思いましてね。それを確認しに来たという訳です」



 そうなのか? と、俺は他人事のように思う。



 なんか気になるような事をしたかな?

 と思ったけど……金ダライを城に落としたわけだから、ちょっとどころかかなり特異な戦い方をしたと言える。



 でもそれで俺の何が分かるというのだろうか?



 そこでユウキは「例えば」と話を切り出す。



「ここに来る際に見ましたが……帝都の街並み。綺麗に残ってるじゃないですか」

「……」

「噂では魔王代理と名乗る者の襲撃を受けたんですよね?」

「ああ、そうじゃ……」



「その割には町に全く被害が出ていない様子。そして、なぜか城だけが消し去られたように無くなっている」

「……」



「この状況、ラウラ姫はどう思われますか?」

「……」



 これにはいつも飄々としているラウラも、さすがにどう答えたらいいのか迷っている様子だった。



「魔王代理は町を壊すことに然程価値は無いと悟ったのではないか?」

「ほほう、それがラウラ姫のお考えですか」

「う、うむ……」



 ユウキはラウラの表情を伺いながら意味ありげに笑う。



「私には被害を最小限に収めたようにしか見えないんですけど、実際にはどうなんでしょう?」

「さあ? 妾にはなんとも言えぬな」



「では、被害が城だけで済んだのは運が良かったと?」

「そうは言っておらん」



「旧皇帝には国民も良い感情を持っていなかったと耳にしましたが?」

「何が言いたいのじゃ?」

「いえ、何も」



 ユウキは笑ってはぐらかす。



 こいつ……俺とラウラが内通していると疑っているのか?

 実際そうなのだが、仮にそれが分かったところで彼に何の得があるというのだろう?



 俺の真意を知りたいと言ったが、それが出任せではなく本気だとしたら、そこに答えがあるのか?



「ただ私が気になっているのは、この度の魔王は過去の魔王と何かが違うのでは? ということなんですよ」

「何かとは何じゃ? 具体的に申してみよ」



「魔王が彼の地に誕生してから、ラデス以外の国はまだどこも魔軍の侵攻を受けていないんですよ? 過去の史実を紐解いてみても魔王は誕生してから一月で近隣の国々を攻め滅ぼしたとある。これほどの期間があれば魔王城に一番近いであろうリゼルなどはとうに攻められていてもおかしくはないでしょう。唯一、襲撃を受けたラデスでさえ被害は限定的です。何かがおかしいと思うのは当然の流れじゃないですか?」

「まあ、言われてみればそうじゃな」



「私はそこに魔王の真意が隠されていると踏んでいるわけです」



 いや、だから……真意とか、そんな大層なものは無いんだけど。

 ただ勇者を追い払いたいだけだし。



 それが真意というのなら、そんなもん知ってどうすんだ?



「お主はそれを確かめたところで、何をするつもりなのじゃ?」



 ラウラがベストな質問を返してくれた。

 だが――、



「残念ながら、それは今お話することが出来ないんですよ」

「それはまた都合の良い答えじゃの。理由は教えぬが、魔王代理の情報は寄越せと?」

「そういうことになりますね」



 彼はふてぶてしくそう言った。



「それで妾が折れるとでも?」

「いいえ、そうは思っていませんよ。だからこそ、この目で直接確かめに来たのですから」

「?」



 そこでユウキは礼拝堂内に配置されている兵士達をグルッと見渡す。



「聞いた話では魔王代理はラデスの兵士に化けて侵入したとか? てことは案外まだこの中に居たり……」



 ギクッ



 不意の発言に驚いた。

 だがここで身構えたりなんかしたら、途端に目を付けられてしまう。



 瞬足くんもそのことは分かっているようで身動き一つしなかった。



 にしても鋭いな……こいつ。



「……なんてことは無いですよね?」



 ユウキはそう言葉を続けて濁した。



「そんなことがあれば、この国の平穏はとうに無くなっておるじゃろう」

「ですよねー」



 彼はアハハとわざとらしい笑いを返す。

 そして、



「では残念ながらお話は聞かせて頂けないということで?」

「現時点では、そうじゃな」

「ならば私達はこれで失礼させて頂きましょう」



「え?」



 え?



 相手が急に引いたので俺達は揃って目が点になった。



「場を設けて頂きありがとうございました! では、またご縁がありましたらお会いしましょう」



 彼らはそう言い残すと、こちらが何か言う間もなく、早々にこの場を立ち去って行ってしまった。



 ほんと、何しに来たんだ……こいつらは……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る