第206話 ゼンロウの勇者
瞬足くん(俺)とラウラは互いに顔を見合わせた。
二人の頭の中は同じ思いだったに違いない。
『なんで勇者がここに?』
まさか、ここに魔王城を築こうとしているのがバレた?
いや……その可能性は低いか。
魔王代理と名乗る者がラデスに侵入し、国を滅ぼしたという噂は広がっただろうが、ラウラ姫が魔王の配下であることは知られていないはずだ。
となると……?
俺とラウラは再び顔を見合わせる。
それだけで彼女は理解したようだ。
通達に来た兵士に向かって告げる。
「よかろう。町の礼拝堂で会うと伝えるのじゃ」
「はっ」
城が無い今、外からの要人と顔を合わせる場所が無い。
ひと気のない礼拝堂はそれに打って付けの場だが、ラウラも考えがあってそうしているようだ。
兵士が捌けた後、彼女は俺に向かってこう言った。
「あそこは出入口も少なく、周囲に民家も離れておるからの。もし何かあっても対応がし易いじゃろう」
「なるほど、それはいい」
俺がそう言うと、彼女は「にゅふ」と笑った。
「それにしてもゼンロウの勇者が何の用かの? 戦意があってのことではないと思うのじゃが」
「こればかりは、会ってみないことには分からないだろうな」
「やはり、そうなるか……」
「ああ」
「それで魔王さ……じゃなかった、瞬足くんはどうするのじゃ?」
「俺も同席させてもらおうかな。しゃべらなければ一兵士にしか見えないだろうし、後ろの方でゼンロウの勇者とやらを観察してみるよ」
「了解したのじゃ。では、早速手配させるのじゃ」
「おう」
ラウラは兵士達を集め、ゼンロウの勇者を迎え入れる為の準備を始めた。
◇
――数時間後。
俺とラウラは礼拝堂に来ていた。
建物周囲は兵士達で固められ、屋内にも同様に充分な数の兵士を配置している。
俺はその中の一人に混じって勇者を観察することにした。
「ゼンロウの勇者様がお着きです」
入り口から入ってきた兵士がそう告げた。
「うむ、通されよ」
ラウラがそう告げると、礼拝堂の扉をくぐり、二人の人物が現れた。
一人は金髪の青年で、甲冑のような装備を身に付け、腰にはまるで日本刀のような反りのある剣を差していた。
どことなく和風な感じがするのは気のせいだろうか……。
まるで西洋人が侍の格好をしているような違和感を覚える。
その甲冑は白銀で統一されていることから、恐らく彼が勇者だろう。
そんな彼のすぐ側に控えているもう一人は、勇者とは正反対に黒ずくめの格好をしていた。
全身を布で覆ったような格好はまるで忍者だ。
背中に剣を背負い、手甲や脛当などは微妙に西洋っぽい雰囲気があって、まるでゲームに出てきそうな架空の忍者っぽい出で立ちだった。
顔はマスクで覆われ、目元しか出ていないが、線の細さで女性と分かる。
彼らの姿を見て俺が思うのは……なんだか親近感を覚えるなあ……ってこと。
だが、そう思えるのも最初だけだった。
勇者の青年は一歩前に出ると、ラウラに向かって片目を瞑る。
「君がラデスの姫君ですか? 突然の訪問なのにも拘わらず、我々と会ってくれてありがとうございます」
なんだか……凄く胡散臭かった!
「……」
ラウラも困惑しているらしく、目が点になっていた。
「私は帝政ゼンロウの勇者、ユウキ・クラウゼヴィッツ。こっちは同じく勇者のカルラです」
紹介された忍者擬きの女性は、黙ったまま一礼した。
呆然としていたラウラも、そこでようやく気を取り直す。
「……如何にも。だがラデスの姫というのは過去の事。今はこの国の最高責任者じゃ」
「なるほど」
ユウキと名乗った青年は軽い調子で応えた。
「我が国の事情は知っておろう?」
「大体は、聞き及んでいます」
そこでラウラは目を細める。
「そんな我が国にゼンロウの勇者様が何用じゃ?」
「ラデスを滅ぼしたという魔王の手の者の情報を知りたくて」
はい、それ俺です。
と、ここで手を挙げる訳にもいかないので、じっと我慢して様子を窺う。
「ほう、それを知りにわざわざ?」
「まあ、そういうことになりますか」
「これから魔王城へ向かう前に入念な下調べというわけじゃな? じゃが、我が国は立て直しの最中とはいえ、ゼンロウとは死霊の森の資源を争うライバル同士じゃと思うのだが? そんな相手に情報を渡すと思って来たのか?」
彼女がそう吹っ掛けると、彼は笑みを見せる。
「いや、そういうのではないんですよ。そもそも私は魔王を倒す気は無いですしね」
「え……?」
思ってもみなかった彼の発言に、ラウラはぽかんとする。
俺も仮面の奥で同じように「え?」となっていた。
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