第205話 建設開始
「おおっ!?」
瞬足くんが元ラデス城跡に顔を出すや否や、すぐにラウラに見つかった。
彼女は相変わらずのパンダ隈で、ニコニコしながらこちらに近付いてくる。
「魔王さ……っと……そうじゃなくて、瞬足くんではないか!」
彼女は一度、口に出しかけて言い直した。
ラウラは魔王である俺が瞬足くんの体を借りて喋っていることを知っている。
だが、周囲の人間にそれがバレると色々とマズいこともあって、この場では彼女と俺だけの秘密になっていた。
まあ、黙っていれば着ている兵服から元ラデスの兵士にしか見えないので、気楽といえばそうなのだが。
ラウラは期待に満ちた眼差しで俺のことを見上げてくる。
「待っておったぞ! とうとう祝言の日取りが決まったのじゃな」
「祝言……」
っと、そんな約束もしてたな……と思い出す。
「いや、まあ……それもそうなんだが……先に城の建設を終わらせてしまおうと思ってね」
するとラウラは一瞬、残念そうな表情を浮かべたが、すぐに気を取り直す。
「そう来ると思って、ちゃんと整えておいたぞ。見るがいい」
彼女が自分の背後を指し示す。
そこは、つい最近まで元ラデス城の残骸が転がっていた場所だが、今では瓦礫が綺麗に撤去され、平らに整地されていた。
「おお、随分と綺麗になったね」
「うふふ、そうじゃろ? 兵士総動員で盛り土までしたからのお」
彼女は嬉しそうに言った。
「これならすぐに取りかかれそうだ。では早速……」
瞬足くんは背負っていた皮袋を下ろすと、中からプレートのようなものを取り出す。
ラウラはそいつを不思議そうに見ていた。
「それは何じゃ?」
「これは魔法の扉Ⅱと言って、今いる場所と遠くにある場所の空間を繋げることが出来るんだ」
「空間を……繋げるじゃと……??」
彼女は何を言ってるのか分からないというような表情を見せる。
まあ、普段から見慣れている人間でなければ、それも当然の反応だろう。
「とにかく、実際に見てみれば分かるよ」
言うと、俺は魔法の扉Ⅱを整地されている敷地の端に設置した。
途端、先ほどまで両手で持てるくらいの大きさだった扉が、縦横三メートルくらいにまで巨大化する。
「わわっ、大きくなったぞ? どうなっておるのじゃ??」
彼女が驚く中、扉が開かれる。
すると、中からゴーレムが現れた。
一体だけではない。
魔王城に配置している建設要員のゴーレム三百体をラデスに向けて用意していたのだ。
扉の中から次々に現れるゴーレムに、その場に居合わせた兵士達も唖然とした様子だった。
「彼らが新しい城の建設を行ってくれる。その為の資材はこちらが用意するので心配は無い」
言っている側からゴーレム達は作業に取りかかっていた。
彼らの手の中に城壁ブロックが出現して、それを手際良く積み上げて行く。
俺のアイテムボックスとゴーレム達は繋がっているからこそ出来る芸当だ。
建設の為の素材はダンジョン建設の際にたっぷりと貯め込んだストックがある。
それを消費しながら彼らは城造りに専念し始めた。
「こんな規模で城の建設が行えるとは……考えてもみなかったのじゃ……」
予想だにしなかった光景にラウラは呆然としていた。
敷地には既に基礎のようなものが出来上がり始めている。
「この調子ならば、数日で完成してしまうな……」
「ああ、あとは彼らに任せておけばいい」
ゴーレムを統括するリーダーに基本的な設計だけ伝えておけば、あとは全自動城建設機みたいなもんだ。
「凄いのお……これが魔王様のお力なのじゃな……」
感心するラウラだったが、魔法の扉を見ながら何か思うところがあったようだ。
「あの魔法の扉……魔王城にいるゴーレムがあそこから出て来たのじゃろう?」
「ああ、そうだ」
「ということは……あそこをくぐれば……今、瞬足くんを通して話している実際の魔王様に会えるのじゃろうか?」
「ああ、そうだけど?」
「……!」
そこでラウラの瞳が輝くのを見た。
「行ってみたいのじゃ! 是非、魔王様のお会いしたい!」
「それはまあ構わないけど……」
「おおっ!」
まるで子供のように諸手を挙げて喜んだ。
「ただ、あの扉は誰もが通れるという訳じゃないんだ。そうでないと外部から簡単に魔王城へ侵入されてしまうからね」
「え……」
「俺が許可を出した登録者だけが自由に行き来出来るのさ。なので今、ラウラを登録するからちょっと待ってくれ」
「わーい、ワクワクなのじゃ……」
ラウラは持っている大鎌を左右に振りながら待ち遠しそうにしていた。
そんな時だった。
「姫様! ご報告が御座います!」
突然、配下の兵士が現れて彼女の目の前に跪いた。
「なんじゃ? 今、取り込んでおる所なのじゃぞ?」
彼女は不機嫌そうに言う。
「申し訳御座いません。ですが……姫様にお会いしたいという者が門前に来ておりまして……」
「妾にじゃと?」
わざわざ姫に会いたいなどと言ってくる人間……。
何か進言のある民だろうか?
それとも、それなりの身分や地位のある者だろうか?
無論、ラウラは問うた。
「して、それはどこの者じゃ?」
すると兵士は答える。
「はい、帝政ゼンロウの勇者と申しております」
ラウラの幼顔に姫としての厳しさが現れる。
「なに……勇者じゃと?」
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