第204話 到着
「取り乱し……申し訳御座いません……」
俺の目の前でキャスパーが跪いていた。
猫耳の辺りの毛がちょっと焦げて縮れている。
猫故に鼠に心奪われてしまい、ライトニングの雷を食らったのだ。
っていうか、よくアレを食らってその程度で済んでるよ……。
そこはさすが四天王って感じか?
しかし、また同じことが起きたら大変なので、ライトニングには別室に行ってもらっている。
「それにしても、キャスパーはよく取り乱すよね」
「う……そこを突かれますと何とも……」
彼はぐうの音も出ない様子だった。
風呂に入ろうとした時とか、温泉饅頭食べた時とか、過去に取り乱し歴が結構ある。
一見すると落ち着いた紳士の容姿だけど、最近ちょっとイメージが変わってきたかも?
「それはそうと、皆に集まってもらったのは金色鹿という生き物を知らないかってことなんだけど……」
プゥルゥ「こんじきしか?」
リリア「金色の鹿ですかね?」
パールゥ「おっかねもちそうっ」
シャル「聞いたことないよ」
イリス「おいしそう……」
アイル「死霊の森では聞かない名前ですね」
どうやら手掛かりは全く無さそうだ。
「困ったな……」
俺がそう言うと、キャスパーが顔を上げる。
「私も残念ながら存じておりません。ですが、恐らくこの死霊の森の外の生物ではないかと」
「なるほど……」
世界は広い。
この近辺には存在しない生き物って可能性も勿論あるよな。
でも、だからといって、素材の為にこの場所を離れて探しに行くのはリスクが高すぎる。
お外は勇者がウロウロしてるかもしれないし、危ないから。
誰かが代わりに行ってくれるならそれもアリかもしれないけれど、配下の者達を持ち場から離れさせるのはダンジョンの防御力を下げることになってしまう。
まあ、そんなに今すぐ必要な素材でもないし、取り敢えず保留ってことでもいいかもしれないな。
なんて思っていたら――。
『むっ!』
不意に通信の音声が俺の耳に届いた。
この声は……瞬足くんか。
俺はすぐにコンソールを開き、瞬足くんに寄生しているメダマンの映像を表示する。
映し出された風景は、丘の上から見下ろしたどこかの町のようだった。
「……って、この風景……記憶にあるぞ……」
密集した町の中に不自然なほど、ぽっかりと空き地がある。
これって……ラデス城跡じゃね?
「もう着いたのか! さすがだね」
『むむっ!』
瞬足くんは喜びとも取れる返事をする。
彼には魔王城2建設の為の資材搬入用に、魔法の扉Ⅱをラデスに届ける任務を課したのだが、想像していたよりも早くに到着出来たようだ。
前より益々、速くなってるような気がするんだけど、気のせい?
でもこれなら、思っていたよりも早い段階で建設に取りかかれそうだ。
それにしてもラデスの風景が懐かしく感じる。
瞬足くんを通してでしか見たことが無く、俺自身、一度も行ったことが無いんだけど、それでもそう感じた。
この魔王城の周辺とはまた違った雰囲気だから、家に居ながらちょっとした旅行に出かけたような気分になれる。
こことは違う場所か……。
そう思ったところで、さっきのキャスパーの話を思い出す。
そっか、瞬足くんなら色々な場所にスピーディーに移動出来るし、この近辺にない素材探しに役に立ってくれそうだ。
魔王城建設の仕事が一段落したら、ラデスの周辺に金色鹿がいないか探してもらうことにしよう。
取り敢えず、今は建設関係の方を先に進めようか。
となると、まずはラウラに会わないとな。
「瞬足くん、ラウラを探してくれるかい?」
『むっ!』
彼は返答すると、ゆっくり徒歩で町の中へと入って行く。
多分、そこは走ると速すぎて行き過ぎちゃうのだろう。
瞬足くんも結構大変なのね。
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