第203話 窮鼠


 ライトニングに教えてもらった場所で、エンダール豆と電気鼠(黒焦げ)を無事、手に入れることが出来た。



 これで新レシピに必要な素材の中で、まだ手に入れていないものは金色鹿の角だけか。



「ねえ、金色鹿って知ってる?」



 自室に戻って来ていた俺は、相変わらず肩に乗っているライトニングに尋ねた。



「こんじき……しか? 知らないな」

「そうか……」



「次はその金色鹿というのを探しているのか?」

「ああ、そうなんだ」

「役に立てずにすまない」



 ライトニングは素直に凹んでいる様子だった。



「別に謝ることじゃないよ。他の皆にも聞いてみるからさ」

「うむ」



 俺の肩で小さく丸まる彼女。

 なんだかこの場所が定位置になってる気もするが……これはこれで良い感じ。

 温もりとモフモフを顔の真横に感じるのは何とも幸せな気分になるからだ。



「じゃあ、皆を集めて聞いてみるかな」

「えっ!?」



 ライトニングが突然、驚いたような声を上げた。



「え? なんかマズいの?」

「い、いや、そういう訳ではないが……その……」



「その……?」

「な、なんでもない……」

「そう?」



 なんかモヤっとするけど、そう言われてしまうと突っ込んでは聞けなかった。



 というわけで、配下の者達に玉座の間に集まるよう連絡した。



 そのまま俺は玉座に移動。

 既にアイルは椅子の横に控えていた。



 ライトニングを肩に乗せたまま座って待っていると、前方にある魔法の扉をくぐり抜けて配下の者達が次々に姿を現す。



 最初にやってきたのはプゥルゥとパールゥだ。

 続けてシャルとイリス。

 リリアもやってきた。



「あと来ていないのは……」



 その人物の名前を上げようとした直後だった。

 最後の一人が扉を抜けて現れる。



「これは遅くなって申し訳ございません」



 謝りながら現れたのはキャスパーだった。



 と、そこまではいつもと変わらない光景だったが……そこからが違っていた。



 キャスパーの瞳に俺の肩に乗っているライトニングが映るや否や、急に目付きが鋭くなったのだ。



 それだけじゃない。



「フシャァァッ……!」



 っと、まるで猫みたいに(実際、猫だが)威嚇の呻り声を上げた。



 対するライトニングはというと、ビクッと体を震わせて俺の首の後ろに隠れてブルブルと震えている。



「あわわわわ……」



 その光景を見ながら俺は思う。



 そりゃ猫と鼠だもんな。

 そうもなるか。



 ライトニングが、さっき皆を集めることを気にしていたのは、これがあるからだと悟った。



「ちょっとキャスパー? ライトニングが怖がってるから、そのくらいにしてさー……」



 そう声を掛けるが……、



「フシャァァァッ!」

「ひぃっ!?」



 本能からくる反射でそうなってしまうのか全然、聞こえていない様子。

 目は血走っているし、他には何も見えていない感じだ。

 ライトニングも威嚇される度にビクンビクンッと体を震わせていた。



 なるほど、あれか……戯れ付きたい衝動に駆られてるわけね?



 仮にもこれで団長と副団長って言うんだから、どうやってこの魔団はやって行ってるんだ?



 そろそろ強制的に止めるしかないだろうか……。

 そう思い始めた直後だった。



「シャァァッ」



 キャスパーが突如、走り出したのだ。

 無論、ライトニング目掛けて。



「チュゥッ!?」



 ライトニングの小さな手が俺の襟足をギュッと掴む。



 その刹那――、



 ズガァァァァァァァンッ



「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



 キャスパーの悲鳴が上がる。



 彼の脳天目掛けて特大の雷が落ちていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る