第202話 楽ちん収穫
俺達の存在に気付いた電気鼠達が一斉に体をバチバチ言わせ始めた。
退避を叫ぶライトニングに呼応するように全員飛び退くと、電気鼠の放電が連鎖し出す。
目に見えるくらいの電撃が近くのネズミと繋がり、更にはその近くのネズミと繋がり、それがどんどん増えて行って、最終的にはこの一帯に電気鼠による電撃網が形成されていた。
それ以上、襲ってくる様子は無いが、そこへ一歩でも足を踏み入れたら黒焦げになりそうな感じだ。
目の前ので起きている放電の眩しさに目を細めていると、肩に乗っているライトニングが耳元で囁く。
「こうなると、もう手が付けられん。三日三晩この状態が続くからな。誰もこの場所に近づけなくなってしまうのだ」
「三日三晩!? 長っ」
よくそんな長くこの状態を保ってられるなあ……。
「奴らは凶暴でありながら、かなり臆病な性格でもあるからな。ちょっとしたことですぐにああなってしまう。刺激を与えないことが重要なのだが……」
それってライトニングが雷撃を食らわしたからじゃ?
と思ったが、俺を守ろうとしてやったことだから寧ろありがたい。
そもそも、その前から気付かれていた訳だし。
というわけで、これからどうするかだけど……。
「残念だが、今日はこれで引き返した方がいい。また三日後にチャレンジしようではないか」
ライトニングは淡々とそう口にした。完全に諦めモードである。
「えー、ぱーるぅ、やるきマンマンできたのにぃ……」
「だよねー」
パールゥとシャルは残念そうだ。
「ライトニングって、見た目と違って案外、あっさりしてるんだね」
「そ……それは、どういう事だ?」
俺がそう言うと彼女はやや困惑した様子を見せた。
「稲妻を操るくらいだから、もっと強くて熱い感じなのかと思った」
「チュ?」
「都合の悪い時だけネズミのフリ!?」
すると、ライトニングは小さい手で頭を掻きながら困った顔をする。
「だが、実際どうすれば……」
「俺に良い考えがある」
「え……」
ライトニングは黒目がちな目を丸くした。
「その為に彼女達を連れてきたんだから」
パールゥとシャルの方に目を向けると、彼女達は揃って「にひひ」と笑ってみせた。
俺は彼女達に作戦を耳打ちする。
「どう? 行けそうかい?」
「うん、まかせてぇ」
「大丈夫だよ」
二人は元気良く頷いた。
「じゃあ、早速頼むよ」
「はぁーい」
「おっけー」
「えっ……ちょっと……」
気楽に返事をするパールゥ達に相反して、ライトニングだけは戸惑っていた。
しかし彼女達はそんなこと気にせずに動き出す。
まず最初にパールゥが突撃した。
その巨体を弾ませて、放電中の電気鼠のど真ん中に飛び降りる。
「そ、そんなことしたらっ……」
ライトニングは惨劇を想像して思わず顔を両手で覆った。
だが、現実にはそんな惨劇は起こらない。
「マオウさまぁ、こんなカンジでいい?」
「おう、いいね」
「?」
俺達がそんな会話を交わしていると、違和感を覚えたライトニングは覆っていた手の隙間から、そっとパールゥの方を見る。
そして絶句した。
「な……」
周囲に広がっていた電撃が全部パールゥに集中していたのだ。
しかも、パールゥ自身はなんともない様子。
「これでだいぶスッキリした感じになったでしょ?」
「ど、どうして……?」
ライトニングはまだ良く分かっていない様子。
なので説明してあげることに。
「パールゥの体は水みたいなもんだろ? だから電気を良く通す。それに加えてあの体の大きさだ。地面との接地面もかなりの面積になるから、そのまま受けた電気を地中に流すことが出来るというわけ」
「ほへー……」
ライトニングは感心したようにぼんやりとしていた。
「でも、電撃を一点に集中させたとはいえ、このままエンダール豆を取りに行くと獲物を見つけたように電撃が襲ってくる可能性がある。なので、ここでシャルの出番だ」
俺がシャルの方に視線をやると、彼女は頷き返してくれた。
「じゃあ、行っくよー」
シャルは腕を前に突き出し、狙いを定める。
次の瞬間、彼女の両腕が飛んだ。
「!?」
ライトニングはその光景を刮目して見ていた。
それもそうだろう。このロケットパンチは最近饅頭の効果で覚えた能力だから、まだ彼女も知らないはずだ。
とはいえ、現実にロケット推進ではないので音も無く飛び出すのがちょっとビビる。
飛んで行ったシャルのロケットパンチは電撃の合間をくぐり抜け、エンダール豆を掴んで株ごと引っこ抜くと、そのまま俺達の所へ戻ってくる。
死人である彼女の腕なら、ある程度の電撃は耐えられるし、高速で擦り抜け易い。
「これくらいしか取れなかったけどいい?」
「ああ充分だよ」
シャルが俺の目の前に取ってきたエンダール豆の株を置いてくれる。
ざっと六株程度といった所。
でも豆の鞘は結構付いてるので、数的には充分な感じだ。
「あとは電気鼠の肝だけど、それは最初にライトニングが倒してくれた奴のを拝借するとしよう」
俺の足下に黒焦げになった電気鼠の死体が転がっている。
この状態で肝が使えるかどうかは分からないけど、取り敢えずは確保だ。
俺は
コンソール上でアイテム欄を見ると、電気鼠×1がプラスされていた。
これで
まあ、ともかく――、
「目的のものは得られたことだし、帰ろっか」
「はぁーい」
「りょうかーい」
「……」
笑顔で返事をするパールゥ達に対し、ライトニングは一人呆然としていた。
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