第201話 害獣駆除


 俺と稲妻鼠のライトニングは電気鼠の駆除に向かうことにした。



 死霊の森の東側にエンダール豆が自生している場所があって、電気鼠がそれを食い荒らして困っているのだそうだ。



 栽培しているわけではなく、あくまで自生しているだけなので、食い荒らすという言い方はちょっと違うような気もするけど。



 とにかく状況を見てみないことには判断が下せないので現場に向かう為、魔王城のエントランスに集合していた。



「今回の件で助っ人を頼むと言っていたが、それはどこにいるのだ?」



 俺の肩に乗っかっているライトニングが耳元でしゃべる。



 まるで乗り物代わりにされているようだが、頬ずり出来るほどの近さにふわふわがあるのは、これはこれで嬉しい。



「そろそろ来るんじゃないかな」



 そう呟いた直後、エントランスの奥から声が聞こえてくる。



「ぎゅぎゅぎゅぅぅぅぅんっ」



 そんな叫びと共に大きな塊が飛んでくる。

 飛び跳ねたそれは地面を震動させながらバウンドし、玄関前の草原に着地する。



「マオウさま、おまたせぇぇっ」



 舌っ足らずな感じで言ってきた彼女はスライムミリオネアのパールゥだった。



 そんな彼女の後からゴスロリファッションの少女がゆっくりと姿を現す。



「もうっ、パールゥったら、はしゃぎすぎだよ」



 シャルだ。



 彼女達二人を助っ人として呼んでいた。



「遅いぞ、魔王様を待たせるとはどういうことだ?」



 俺の肩の上でライトニングが憤慨する。

 これにシャルはアクビをしながら答える。



「私、昼間は苦手なの。でも、魔王様の頼みだから頑張って起きたんだからね?」

「ぐぬぬ……」



 返答に困るライトニングにパールゥが言う。



「あはは、ヘンなネズミー」

「〝変な〟は余計だ!」



 しゃべれるようになったパールゥとライトニングはどうやら初対面っぽい。



「ともかく、これで揃ったな。じゃあ出発するとしよう」



「あい」

「はーい」

「うむ」



 三者三様の返事が返ってきて、俺達は森の東側に向けて出発した。




 ――数時間後。




 エンダール豆が自生する場所までやってきた。



 で、問題の電気鼠はというと……。



「いたぞ、あそこだ」



 草むらの陰で様子を窺っていると、耳元でライトニングが囁く。

 彼女が指差す方向を確認するまでもない。



 対象は、それぐらい目立つ存在だったのだ。



「でけぇ……」



 電気鼠は、俺が想像していたものよりも数倍の大きさだった。

 鼠というくらいだから小さいものだと決めつけていたが、だからといってあれはない。



 熊と見間違うくらいの体長なのだ。



 爪の生えたデカい手でエンダール豆の枝をむしって、葉っぱも茎もそのまま食べている。

 まるでパンダが笹を食べているようだ。



 しかもそんなのが数十匹固まって、同じようにむしゃむしゃと食べている。

 見る見るうちに食い尽くされてゆくのが分かる。



「あー豆がなくなるー」



 ライトニングが嘆きの声を上げた。



「でも、あいつらにとってもエンダール豆は大事な食料なんだろ? 俺達が栽培している畑を荒らされたのなら排除しなくちゃとは思うけど、自然に生えてるやつだからなあ。共有財産ってことで俺達も少し分けてもらえばいいんじゃないか?」



 するとライトニングはブンブンと首を振る。



「あいつらは獣だぞ? こちらの言葉なんて分かりはしない。むしろ敵対心を露わにして襲ってくるだけだ。ほら見ろ、言ってる側から……」



 言われて目を向けると、先ほどまで無心で食事中だった電気鼠達は俺達の気配に気付いたようで、皆、鋭い牙を剥きだしにして「グルル……」と呻り声を上げていた。



 怖っ!



 いかにも凶悪そうな顔立ち。

 ネズミだけど愛らしさの欠片も無いな……。



 奴らは俺達を敵だと認識したようで、すぐに襲ってきた。



 手前の一匹がこちらに向かって突進。

 大きな爪を振り上げてくる。

 直後、



 ズガァァァァンッ



 目映い光が辺りを照らした。

 柱のような雷が電気鼠を貫いた。



 それで相手は黒焦げになり、地面に倒れる。



「魔王様に手を上げるとは無礼だぞ!」



 ライトニングが強い眼差しで吐き捨てた。



 今の雷攻撃は彼女がやったのか?

 さすがは稲妻を操れるだけのことはある。



 ってか、こいつらライトニングだけで倒せそうな雰囲気だけど?

 でも、複数集まると厄介だって言ってたっけ。



 それって、どんな感じなんだろう?



 そう思った矢先だった。



 先陣を切った一匹がやられたことに反応してか、他の電気鼠達の様子が変わった。

 皆、動きを止めて力を溜めているようだ。



 バチッ……バチバチ……。



 次第に体の周りに放電現象が起き始める。



「まずい! 来たぞ! 離れるんだ!」



 ライトニングが叫ぶ。



 俺達はそれに呼応するように飛び退いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る