第200話 もふもふ


 ライトニングが稲妻鼠だってことは分かったけど……。

 じゃあ電気鼠は何処?



 一応、目の前のネズミに聞いてみるか。

 同種の生き物なら、何か知ってるかもしれないし。



「あのさ、電気鼠ってどんな生き物なの?」

「ん? あれは、ただの害獣だ」



 ライトニングは吐き捨てるように言った。



「害獣って?」

「森の果実や植物を食い荒らして困ってるのだ。元々はこの一帯には生息していなかった生き物だが、いつの頃からか死霊の森に棲み着いてしまってな。急激に数を増やして駆除にも手を焼いている」



 話だけ聞くと、なんか普通のネズミっぽい感じだな。



「それって、どの辺で見つけられる?」

「森の東側にエンダール豆がたくさん自生している場所がある。奴らはそれが好物だから、その辺りに多く潜んでいるだろう。かく言う私もエンダール豆には目がないのだが……」



 ネズミ同士、好物も似てるってことか。

 ってか、エンダール豆って、どこかで見たような……。



 あ……。



 すぐに記憶に行き当たった。

 手に入れたばかりのレシピの中にその名前があったぞ。

 枝豆の材料だ。



 これはツイてる。

 二つの素材を一気に手に入れるチャンスかもしれない。



「ねえ、その場所に案内してもらえないかな?」

「それは構わないが……あ、そういえば電気鼠の肝を探していると言ってたな」



「そうそう、それも必要なんんだけど、エンダール豆も丁度探していてね」

「なるほど……」



 するとライトニングは小さな手を顎に当て、考え込むような仕草を見せる。

 そして、



「折角の機会だ、ここは魔王様のお力で電気鼠を駆除してはもらえないだろうか?」

「え、俺が?」



 そんなに手こずるような相手なのだろうか?

 嫌だなあ、怖いなあ。



「一匹一匹はさして大したものではないのだが、集団で集まると少々厄介でな……魔王様なら指一本で全駆除出来るのではないかと」



 無茶言うな。



「エンダール豆が実を付けて、そろそろ収穫出来そうだと思った直後に奴らにいつも食われてしまうからな。悔しくて、悔しくて……。あーエンダール豆が食べたい!」

「それが真の目的か!」



 なんにせよ、素材が必要なことには変わりはない。

 だったら、その電気鼠の特徴を聞いて、それに上手く対応出来る仲間を連れて行くのが最良の方法だろう。



「じゃあ実際に駆除に行くとしてだ……。相手の特徴を知っておいた方がいいだろう。電気鼠にどういった習性があるのか教えてくれる?」

「そうだな、今言えることは、狭くて暗い場所を好む性質で集団で行動することが多く、刺激すると体から敵を行動不能にするビリビリを出してくるということくらいか」



 まんま想像通りの性質だな。



「稲妻鼠と何が違うんだろ?」

「私をあんなビリビリと一緒にするでない。私は稲妻そのものを操る雷の魔術師。格が違うのだ」



「ほーなんか凄いんだな」

「ま、まあな……魔王様ほどじゃないが」



 ライトニングは思いの外、照れ臭そうにしていた。



 その性質を踏まえて連れて行くとしたら……やはり、アイツだろうか。

 頭の中で配下の一人を決める。



 早速、連絡を取って出発するとしよう。



 呼び出しの為にコンソールを表示しようとした時だ。

 ふと、ライトニングの後ろ姿が目に入った。



 俺が褒めたのをまだ嬉しがっているのか、小さな体を丸めて、ぷるぷると短い尻尾を震わせている。



 その背中を見ていると、無性にモフモフしたい衝動に駆られた。



 あーもう我慢出来ない。

 ちょっとだけ、ちょっとだけ、背中をモフモフさせてもらおう。



 俺、一応、魔王だし、それくらい許されるよね?



 そんな言い訳をしながら、人差し指をそーっと伸ばす。



 そのままライトニングの黄色い毛の中に指先を埋める。

 途端、温かくてふわふわの感触が指先に伝わった。



 あー……いいわー。

 やっぱモフモフ最高!



 てな感じで癒やされていたら――、

 ライトニングの体がビクッと震えて反応した。



 稲妻鼠は素早い動きで壁際に張り付く。



 それは俺が思っていたよりも過剰な反応だった。



 あれ? なんかマズかったかなー……。



 なんて、不安に思っていると、ライトニングは動揺した表情で訴えてくる。



「よ……予告も無しに……レディの体に触れるでないっ!!」



「へ……? レディ……??」



 俺は目が点になる。



 ネズミの性別か……。

 まあ……普通にあるよね……うん。


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