第199話 ライトニング


「しゃべっちゃ悪いか」



 目の前で、小さな鼠が人語を喋ったので驚いた。



 しかも見た目の愛らしさに反して、随分とぶっきらぼうな口調。



 俺が目を丸くしていると、鼠は膨らんだ腹を重そうにしながら起き上がる。

 そして、誇らしげに胸を張ってみせた。



「私をその辺のネズミと一緒にするでない! 我こそは魔王様が率いる四天王の部隊、暴獣魔団副長ライトニング様だぞ!」



 黄色い鼠は「へへん」と鼻を鳴らした。



「暴獣魔団……? っていうと、キャスパーが率いている部隊か」

「むむっ、貴様……団長のことを知っているのか?」



「ああ、良く知ってるよ」



 猫の団長に鼠の副団長って……どういう組み合わせ!?

 相性的にはどうなんだろ……。



 それにしても、この小さいのが副団長とは……。



 そんなふうに考えていると……ライトニングは怪訝な表情で目を細める。



「貴様、何者だ」

「何者……って、魔王だけど?」



「な……」



 鼠の動きが固まった。



「ま、またあ……そんな冗談がこの私に通じるとでも……」

「いや、冗談でなく」



「……」



 ライトニングの顔に焦りの色が見え始める。



「ほ、ホントに……?」

「嘘を言っているように見える?」



「……」



 実際、目に見える訳じゃないが、ダラダラと汗を垂らしているようにも見える表情。

 そして――、



「も、もも、申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁっ!」



 床にべったりと頭を付けて平伏していた。



「まあ、魔団副長と言えども、初めて顔を合わせるわけだから知らないのも無理はないと思うけど」

「それもそうだな」



「開き直った!?」



 ライトニングはあっさり元の態度に戻っていた。

 口調も最初の通り。



「で、俺の部屋で何をしてたんだ?」

「ん? 別に何をという訳でもない。土の中でいつものように眠っていたら気配を感じてな。目を覚ましたらこの部屋が出来上がっていてビックリしていた所だ」



 ダンジョン建設の際に寝床を掘り当てて、起こしてしまったということだろうか?



「そういう魔王様は何をしているのだ?」

「俺? ああ……」



 尋ねられて、さっきまでのことを思い出す。



「俺は今、電気鼠の肝が入り用でね。それを探していた所なんだけど……さすがに本人を目の前にして肝をくれとは言えないけどさ」



 とか言いながら口にしてはいるけど。



 すると、ライトニングが意外な反応を示す。



「本人? どういうことだ?」

「ん?」



 なんだか話が噛み合わない。



「いや、だから電気鼠であるライトニングに肝をくれとは言えないなー……って」

「私は電気鼠ではないが?」



「え……」



 あからさまに電気ビリビリ放電してる体なのに、それで電気鼠じゃないって!?



「じゃあ、なんなのさ?」



 聞くとライトニングは力を溜めるような体勢を取る。



 直後、天井から床に向かって、柱のような稲光が走った。



 威力を抑えたようで小さな雷だったが、それでも床石の一部が砕けていた。



 そして、ネズミは得意げな笑みを向けてくる。



「私は雷を操る魔物。稲妻鼠のライトニングだ」



「イナズマ……」



 非常に紛らわしい生き物だった。


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