第156話 スライムの少女


「なんで突然、そんな姿になったんだ!?」



 俺はプゥルゥだと名乗る少女にそう尋ねた。



「なんでって……多分、魔王様がくれた、あのお饅頭のせいだと思うよ?」

「饅頭……」



 確かに俺は、魔力がアップする温泉饅頭を彼女にあげた。

 でも、その時は何の変化も無くて、そのまま終わったはずだが……。



「お饅頭食べてから、日を追うごとに魔力がどんどんアップしていってね。さっき、人の姿になれたんだー」


「……」



 プゥルゥだけ饅頭の効果が時間差で出たのか!?



 っていうか、今頃かいっ!



「でもね、この姿って結構魔力使うみたいで、すぐに元に戻っちゃうのが難点なの……って言ってる間にきたみたい」



 ぷりゅん



 突如、もっちりしたものが跳ねたような音がして、彼女の姿が消えた。

 次の瞬間には足下に見慣れたスライムの姿があった。



「ほら、こんなカンジで、あんまりながくはヘンゲしていられないの」

「ほ、ほう……」



 ついでに、しゃべり方もはっきりしたものから片言な感じに戻ってるようだ。

 パールゥも饅頭効果でしゃべれるようになってたし、魔力が言語能力にも関係してるっぽい。



 とはいえ、これで侵入者だと思われた少女がプゥルゥだという確認が取れた。

 もうゴーレムの姿を借りて、身を潜める必要は無い。

 なので俺は安心して彼女の前に姿を現す。




「あ、マオウさま。ゴーレムさんでナニしてたの?」

「いや、ちょっとね……たまには動作チェックをと思って」

「そう?」



 プゥルゥを勇者と疑ったなんて言えないので、なんとか誤魔化す。



「で、プゥルゥは何か用?」

「ん?」

「いや、玉座をぼんやり眺めていたからさ」



 すると彼女はクスクス笑いながら丸い体を震わせる。



「マオウさまが、そこにすわってるすがたをソウゾウしてたの」

「え……それだけ?」

「だって……かっこいいんだもん」



 プゥルゥは恥ずかしそうに身をピンク色に染めた。



「でもほんとうは、ヒトのすがたをまっさきにマオウさまにみてもらいたかったから……」

「そ、そっか……」



「なので、もういっかい、ちゃんとみせるね」

「えっ?」



 尋ね返す前に、すぐさま彼女は少女の姿に変化していた。



「どう……かな?」



 彼女は照れ臭そうに目の前でくるりと回ってみせる。



 ガラスのような輝きを持つ長い髪がなびいて、とても綺麗だった。

 そして、無垢というか、彼女の無邪気な性格も相俟って、透明感のある少女という感じがする。

 だから思わず、こう呟いてしまっていた。



「かわ……いい」

「っ……!? か、かわいいっ!?」



 プゥルゥは、ぽふっと顔を真っ赤にして動揺し始めた。



「い、いや、そういう意味じゃなくて……」



 でも実際、綺麗で可愛いことは確かだった。

 しかし、それ以上に重大なことを忘れている。



「っていうか、魔力が無くなったら変化できないんじゃないの?」



 さっき魔力を使い果たしてスライムに戻ったばかりだ。

 MP回復のアイテムでも使わない限り、再び変化は出来ないはずだが……?



「お饅頭食べてから、少し待てば回復するようになったんだよ」

「え……? それってまさか……自動回復オートヒールの魔力バージョン……自動魔力回復オートマジックヒールってこと!?」

「そうみたい」

「……」



 そんな能力が追加されるとはな……。

 温泉饅頭すげえなあ……って、つくづく思う。



「それにね、短い時間で変化を繰り返せば、そんなに魔力を消費しないことが分かったんだ」

「へー……それって、どれくらいの間隔?」

「五秒間隔くらいかな」



 結構、目まぐるしく変化しなくちゃいけないんだな。

 でも、状況に応じてコロコロ姿が変えられたら便利かも。



「じゃあ、ずっと人型でいられるのはどれくらいが限界なの?」

「それは三分くらいかなー」



 まるでウル○ラマンだな……。



「ところで魔王様は今、何をしてるの?」

「ん? 俺はアイルと一緒に今から新しい罠の設置をしに行こうと思って」



 アイルには罠の説明をしに行く所だったけど、その事を話せば一緒に行くと言い出すだろうしね。



「アイルなら魔王城の外で見かけたよ」

「そうか」



 同じ階層なのに、どうも気配が無いと思ったらそっちに居たか。



「ねえねえ、その罠の設置、ボクも一緒に行っていい?」

「それは構わないけど」

「やったー」



 プゥルゥは喜んで跳ね上がるとスライムの姿に戻って、俺の懐に飛び込んできた。



 それをドッジボールのように腹の辺りで受け止める。



 ひんやり冷たい手触りで気持ちが良いが……。

 さっきまで目の前にいた少女が、腕の中にあるスライムと同一だと思うと、なんだか複雑な気分だった。


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