第155話 不意の侵入者?


 今回手に入った新しい罠レシピ。

 そのほとんどが所持している素材だけで合成可能だ。



 それはすごく楽でいい。



 一部、探さないといけない素材もあるが、取り敢えず作れるものから合成して、どんどん設置して行きたい。



 今すぐに作れるのは、トラバサミ、箱罠、くくり罠、バネ式ネズミ捕りの四つだな。



 なので早速、コンソールをちょちょいと弄って、各三十個くらい作ってしまった。



 あとはこれを適切な場所に設置するだけだが……。



 それをやる前に、その事をアイルに伝えに行こう。



 なんでかって言うと、俺が罠を設置する時に限って毎回、彼女がタイミング悪く現れ、罠の餌食になるっていうパターンがこのところ続いてるから。



 まるで罠のテスト役みたいになっちゃってるからなあ。



 まさかわざと自分から罠に掛かりに来てるわけじゃないだろうから、先に伝えておけば被害が出なくて済む。



 というわけで、これから罠を設置しに行く事と、罠の内容を事前に説明しておく。

 そうすれば事故は防げるだろう。



 そんなわけで俺は自室を出て、隣にあるアイルの部屋へと向かうことにした。



 廊下を進む途中、玉座の間に向かう通路がある。

 そこに差し掛かった時、どういう訳か、ふとその方向に気配を感じた。



 誰かいるのか?



 足は自然と玉座の間の方へと向く。

 そのままその場所に出ると、誰も座っていない玉座の前に佇む人物がいた。



 その人物は銀色とも透明ともつかない鮮やかな長い髪を持ち、白いワンピースを着た、十歳くらいの少女だった。



「!?」



 俺は即座に壁の陰に隠れ、様子を窺う。



 もちろん、その少女に面識は無い。

 四天王の部下というわけでもない。



 少女は、ただぼんやりと玉座を見つめていた。



 誰だ……?



 というか、それが何者かという以前に、見知らぬ人物にダンジョンの最下層にまで侵入を許していることの方が重大だった。



 も、もしかして、勇者!?



 リリアみたいに隠密系のスキルを使うことの出来るタイプとか?

 それにしたって、あの罠の中を誰にも見つからずにやって来ることが出来るだろうか?



 それに彼女は勇者特有の装備とか身につけてないし、戦う者の気配のようなものも感じられない。



 勇者ではない……?

 じゃあ、何者だ?



 当然、確かめる必要があるが……魔王である俺がここでノコノコと出て行くのも無防備すぎる。



 幸い向こうはこちらに気付いていないようだし、何か別の方法で……。



 そうだ、ここはゴーレムに任せよう。

 魔王城にいる影武者と同じ要領だ。



 早速、ゴーレムリーダーを作り、そこにメダマンを寄生させ、俺が今居る場所とは反対側の入り口から玉座の間に入るよう向かわせた。



 まずはこちらが現れたら、どんな反応を示すか、それを観察だ。



 特に隠れたりするようなことはせず、そのままゴーレムを玉座の間に入らせる。



 すると少女は一瞬、驚いたような顔でゴーレムの方を見たが、すぐに平然とした表情に戻る。



 特に動揺したり、身構えたりしない。

 予想外の反応だ。



 と、そこで――。



「あ、ゴーレムさん、そこで何をしてるの?」



「……」



 向こうから話しかけられた!?

 この場合、何か答えた方がいいだろうか……?



「貴様こそ、そこで何をしている」



 メダマンを通して、可能な限り威厳ある声で答えた。

 すると透明感のある美少女は、きょとんとしたあと、すぐにニッコリと微笑む。



「玉座を見ていたんだよ?」



 見たまんまの答えだった!

 だが、敵意は感じられないように思える。



「どうやって、ここに入った」

「ん? 普通にあそこの扉を使って入ってきたけど?」



 彼女は悠然とした態度で、壁際に設置してある魔法の扉Ⅱを指差した。



 なっ……なんだって!?

 確かに魔法の扉Ⅱなら一階層目から最下層まで一気にジャンプ出来るけど……あれは登録した者しか通れないはず。



 あの扉、セキュリティは完璧かと思っていたが、穴があったのか?



 とにかくヤバい状況であることは確かだった。



「貴様、何者だ。ここに何の用がある?」

「……」



 すると少女は困惑したような難しい顔をする。

 しかし、すぐにむくれたように唇を尖らせた。



「ねえ、これいつまでやるの?」

「……は?」



 ゴーレムだから表情は分からないとは思うが、俺が疑問の声を漏らした時だ。

 彼女は思いがけない言葉を放った。



「これって魔王様の新しい遊び?」

「っ!? なっ……なぜ、俺が魔王だと知っている?」



 そこで少女は小さく溜息を吐いた。



「まだ分からないの? ボクだよ、ボク!」

「……ボク??」



「もうっ……ボク、プゥルゥだよ」



「……」



 目の前の少女の姿と、丸っこい透明ゼリーの姿が重なるまで、少々の時間を要した。



「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」



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