第18話 ドラゴンの力
「よかったー、知ってる人がいて。助かるよ、イリス」
俺は安堵の息を吐いた。
それを受けた彼女の反応はというと……、
「べ……べつに……たまたま知っていただけ……」
素っ気無い素振りを見せるが、表情はそこはかとなく嬉しそうだ。
「それでその魔紅石はどこにあるの?」
「……火山の中」
「火山……? って、マグマがグツグツ言ってるあの火山?」
「そう……その火山」
「……」
彼女が言うには、魔紅石というのはマグマの持つ熱エネルギーが凝縮して出来た魔法石の一種なんだそうだ。
しかも火山の深部にしか存在していないものらしい。
さすがにマグマの中に突っ込んで行って掘る訳にもいかない。
普通に溶けるし。
「それはリスクの方が大きいから、今回は見送りかな。採掘出来る方法が見つかるまで保留ってことにしておこう」
「私なら行ける」
「え?」
フラットなテンションで言われたから、思わずスルーしそうになった。
「どういうこと?」
「堅牢な竜の鱗を持つ私なら、マグマの熱にも耐えられる」
「マジで!?」
そういえば、ゲームやファンタジー小説に出てくる竜の鱗って頑強なイメージだよね。
竜の鱗を繋ぎ合わせて作った鎧は、剣や槍の攻撃を受け付けないだけでなく、魔法をも弾き返したりするのが設定として良くある。
イリスの肌は普通の女の子と同じように白くて柔らかそうだけど、これでも竜の鱗なんだ……。
「ドラゴンすげー」
「えっ……す、すごい……? 私が……?」
「うん、かなり。さすがドラゴンだなーって思ったよ」
「そ、そう……? 私……すごい……うふふふ」
褒められたことが余程嬉しかったのか、その言葉を反芻してはニヤニヤとしている。
そのうちに気持ちが大きくなったらしく、
「だから、私に任せて欲しい」
と言いながら、小さな胸を張ってみせた。
彼女がそう言うのなら、その言葉に甘えさせてもらった方が良さそうだ。
「じゃあ、この件はイリスにお願いするよ」
「うん」
そこに居合わせたアイルと他の魔団長らは、そんなイリスに羨望の眼差しを向けていた。
どうやら魔王である俺に頼まれごとをされるのが、何よりも羨ましいことらしい。
それはともかくとして、
「で、その火山ってどこにあるの? 結構遠い?」
「この城のすぐ裏」
「近っ」
気になったので城の裏手にあるテラスに移動してみると、眼前にでっかい山がそびえているのを確認出来た。
本当にすぐ裏だな……。
しかし、そう思うと温泉が湧いて出たことも何となく理解出来る。
「やっぱり深部に入るとしたら火口から?」
「そう」
「なら、あそこまで登らないといけないのか。結構な高さがあるなー」
「私が飛べば、すぐ」
あ……そういえば人型だから完全に忘れていたけど、彼女の背中にはちゃんとドラゴンの翼が生えてるんだった。
「じゃあ大丈夫そうだね」
「うん」
「それじゃ頼むよ」
「う……うん」
「行ってらっしゃい」
「う……」
そこまで言うと彼女は口をへの字に曲げ、何か言いたげにしている。
「どうしたの?」
「あ……あの……魔王様も……一緒に来てくれたら……嬉しいなって……」
「どうして?」
「あう……」
何が言いたいんだろう?
彼女はマグマの中に潜れる能力を持ち合わせていて、魔紅石を単独で取りに行くことが出来る。
しかも、あの山の頂上までその翼で一っ飛びだ。
俺がそれに付いて行く理由が何も無いんだけど?
寧ろ、彼女の仕事の邪魔に成りかねない。
側にいて何か手伝える訳でもないし。
そんな事を思っていると、イリスの様子に異変が。
はにかみながら俺の顔を見上げてくる。
「あの……魔王様が側で見ててくれると頑張れるから……。それで良く出来たら頭を撫でて欲しい……」
その姿は反則っぽい可愛さだった。
でも分かった。
彼女は基本、自信が無い感じだが、褒めると伸びるタイプだってことが。
「分かった。じゃあ一緒に行こう」
それで彼女の表情が晴れやかになる。
まあ、すぐそこだし、城を空けるのも少しの間だ。
と、思ったけど……。
「って、俺はどうやって行くの?」
「それは……」
そこでイリスは照れ臭そうに頬を朱に染める。
そして、こう呟いた。
「私が……抱っこする」
「んんんっ!?」
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