第80話 魔黄石
まさか、グーランの喉に詰まってたのが魔黄石だったとはな……。
俺はアイテムボックスに格納されたそれを確認する。
どうやらそれは魔黄石の塊だったらしく、表記では、
魔黄石×120
となっていた。
[魔黄石]
大地のエネルギーが長い年月をかけて結晶化したもの。小さい質量の中に膨大な魔力が凝縮されている。魔法具の動力源としても使用可能。
そんな具合で魔紅石と同様、魔力の塊みたいなものらしい。
恐らく、グーランが長いことそこに居続けたことで体内に大地のエネルギーが凝縮し、結晶化したんだろう。
言わば、結石が出来たようなもんだ。その場所が喉だっただけのこと。
にしても……これでスーパー金ダライが作れるようになった訳か……。
当たったら骨折するほどの威力というが……。
ダンジョンの細い通路に仕掛けたら結構危険な罠になりそうだな。
だが、それもいいが……俺が今、密かに目標にしているのは、アルティメット金ダライ。
思いがけず魔黄石が手に入ったが、この調子で残り二つの魔法石も手に入れたいところ。
そんなふうに魔黄石ばかりに気を取られていたが、目の前のグーランに変化があったようだ。
さっきまで苦しそうにしていた彼だが、今ではすっかり穏やかな顔になっている。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「ありがとうですじゃ……。まさか、魔王様に……助けてもらえるとは思わなんだ……」
グーランは、とてもゆっくりとした口調でしゃべり始めた。
普通に人の言葉で話せるんだな……。
「長いこと……のどの詰まりが治らず……気が重い毎日を送っていたでのぉ……。本当にありがとうですじゃ……」
彼は大きな体をのっそりと曲げ、礼を述べた。
「ああ、良かったね。こっちも髭を強く引っ張り過ぎたんじゃないかって、ちょっと心配してたんだ」
「とんでもないですじゃ……、長年の苦しみから解放されることに比べれば……その程度の痛み……取るに足りないことですじゃ……」
すると、グーランは側にいたシャルにも体を向ける。
「シャルロッテ様も……ありがとうですじゃ……」
「ふふん、お礼なんて別にいいよー」
彼女はそんなふうに得意気に答えた。
シャルは、この件に関しては何もしてないけどな!
と、そこでグーランは口元をモゴモゴさせ、改まったように言う。
「何か……恩返しをせねばならんのぉ……」
「それなら丁度、頼みたいことがあるんだ」
「え……?」
「城の地下にあるダンジョン内に
魔黄石が取り除かれた体であっても、グーランは元々、土の魔力を溜め込みやすい性質にあることは確か。しかもこれだけ老齢のグーランともなれば尚更。
しっかりと霊芝が生えてくれるはずだ。
「あー……城の方角は……どっちだったかのぉ……」
「あっちだけど?」
俺は歩いて来た方向を指差す。
すると、グーランはその方に顔を向けた。
「んー…………」
妙な沈黙が過る。
「何か問題が?」
尋ねると、彼は申し訳無さそうに答える。
「ワシ……城まで百年くらい……かかるかもしれん……」
老齢の体、そして長い間、岩のように固まってた足で、あの距離を歩かせるのも酷か……。
そのままこの場所に牧場を作ってしまうという手もあるが、出来ればもっと安全な所にしておきたいのが本音。
「これでも若い頃は……北の山まで十跳びで行けたのじゃがのぉ……」
十跳びって……とんでもない跳躍力だな!
と、そこで俺は跳躍で思い出す。
十跳びよりも、もっと早い跳躍方法があることを。
「大丈夫、俺にいい考えがある」
「?」
不思議そうにしている彼の前で、俺はとあるアイテムを合成し、目の前に取り出す。
それは不可視の跳躍通行路――魔法の扉Ⅱだ。
「ここを通れば、一瞬でダンジョンの二層目に到着出来る」
「ん……何も見えないんじゃが……とうとう目も悪くなったかのぉ……?」
グーランは目を細めながら俺が指し示す場所を凝視していた。
「通ってみれば分かるさ。すぐだよ」
「うむ……これがのぉ……」
見えていないだろうが、魔法の扉は彼の目の前に設置されている。
二歩も前に出れば通り抜けられる距離だ。
「どうする?」
「それが魔王様の為になるのなら……喜んで行きますじゃ」
「じゃあ決まりだね。そういえば君の名前は? グーランというのは魔物の名前だよね?」
「うむ……ワシの名は……トントロですじゃ」
なんか……旨そうな名前だな……。
「トントロ、よろしく頼むよ」
「こちらこそ……よろしくお願いいたしますじゃ……魔王様」
そう言った途端、コンソール上の魔物リストにトントロの名が表示される。
どうやら今ので俺の直属の配下になったようだ。
早速、魔法の扉Ⅱの通過許可をトントロの名前で登録し、転移先をダンジョン第二階層に設定する。
途端、扉がトントロの体が通れる大きさにまで拡張する。
俺にしか見えてないけど。
転移した後は安全の為にこの魔法の扉は回収しといた方がいいだろうな。
「じゃあ行こうか」
「うむ……」
トントロが返事をすると、シャルが楽しそうに体を揺らす。
「わーい、帰ろ帰ろー」
「俺達は歩いて帰るんだよ」
「えーっ!?」
「魔法の扉を回収しないといけないからね。トントロだけ先に行っててもらう」
俺の発言に一時は驚いていたシャルも、
「そうだね、その方が魔王様と一緒に手をつないで帰れるし!」
そんなふうに納得したようだった。
繋ぐんだ……手……。
「という訳だから、行ってくれるかい?」
「ふむ……では……お先に行かせてもらいますじゃ」
トントロは穏やかな笑みを見せ、魔法の扉の中へと消えて行った。
その際、俺は思いもしなかった光景を目にした。
扉の向こうへ消えて行く、トントロの頭上から★が飛び出したのだった。
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