第79話 ヌシ


 念願の草牛ムートリを大量ゲットした俺は、改めてこれの餌について考えていた。



 足元で青白く発光しているキノコ。霊芝に目を向ける。



 これがまるで絨毯のように、辺り一面に生えている。



 木の無い開けた場所だというのに、このような菌類が生えているのは、立ち上った瘴気が太陽の光を遮り、常に薄暗い状態であるからだと考えられる。



 だからこそ、青白い光が尚更良く光って見えた。



 草牛ムートリが好んで食べるというこの霊芝をどうにかしてダンジョン内で栽培したい。

 菌類なので、一度成功すれば爆発的に増える可能性を秘めている。



 とりあえず一つ採取して、詳細プロパティで確認してみよう。

 何かヒントが得られるかもしれない。



 俺は足元にある一本を引き抜くと、強欲の牙グリーディファングでアイテムボックスへ取り込んだ。




[霊芝]

 食用キノコ。薬効成分が多く含まれており、各種の薬やポーションの原料として重宝されている。土の魔力を栄養として育つ為、それを多く得られる場所に生息している。特に長寿のグーランは体内にその魔力を溜め込む性質があり、グーランの髭を媒介として育つ霊芝も見受けられる。




 グーラン……ってなんだ?



 そういえば持ってるレシピの中にこんなのがあったな。




・鉄鉱石×2 + 木材×5 + グーランの髭×1 = 大弓×1




 大弓のレシピの中にグーランの髭ってのがある。

 恐らく、このグーランは、霊芝の説明の中に出てくるグーランと同一だろう。



 生き物らしいことは分かるが、どういったものなのだろうか?



「ねえシャル、グーランって知ってる?」



 側にいた彼女に聞いてみる。



「知ってるよ。土蛙の魔物だよね」

「土蛙……しかも魔物なのか。それってどんな魔物なの?」



 すると彼女は、きょとんとした表情で言う。



「どんな……って、グーランならそこにいるよ」

「……え?」



 シャルは霊芝の絨毯の中央を指差した。

 そこには大きな岩が鎮座している。



 岩……。

 いや……良く見ると、ごつごつしてはいるが、小さな手と足のようなものが窺える。

 それに岩の天辺には目や鼻や口らしきものが……。



「まさか……」



 ただのデカい岩かと思っていたそれは、大きな土蛙だった。



 まさか、これがグーランだったとはな……。



 俺はグーランの正面に回って、その姿を改めて確認してみる。



 座った姿勢で岩のように動かないグーランは目を閉じていて、つぶさに窺うと寝息を立てているのが分かる。



 口元からは銀色の髭が束になって伸びており、地面の上にまで到達するくらい長かった。



 しかも、その髭にはチラチラと光のようなものが流れており、まるで地面に向かって何かを送っているようにも見える。



 実際、髭が地面に付いている部分から、霊芝がニョキニョキと伸びてゆく様がリアルタイムで確認出来た。



「このグーランはお爺ちゃんでね。もう何百年もこの場所から動かないんだー。いっつも寝てるんだよ」



 なるほど。

 シャルの言う通りなら、長い年月をかけて土の魔力を溜め込んだ……まさにヌシともいうべき存在。



 それに特に凶暴な感じも受けないし、霊芝の栽培にも適している。



「このグーランをダンジョンに連れて帰ることは出来ないかな?」



 するとシャルは腕組みをして悩ましい表情を見せる。



「うーん……それは難しいと思うよ? 全然、動きたがらないし」



 何百年も動かなかったものが、今日明日であっさり動く……って可能性が無くは無いとは思うけど、確率としては低いか。



 グーランと交渉が出来れば、その確率も上がるかもしれないが……。

 可能なのか?



「グーランって言葉を理解出来るの?」

「うん、普通にお話し出来るよ」



 おお、それなら期待が持てる。



「なら、ちょっと話してみるか」



 俺はグーランの正面に立ち、話しかける。



「おーい」

「……」



 反応が無い。



「もしもし? グーランさん?」

「……」



 完全に寝てるな。



「寝てるところすまないが、話を聞いて欲しい。あ、自己紹介を忘れたな。俺は魔王だ」



 名乗った途端、グーランの目がぱっちりと開いた。



 魔王のネームバリューすげー。



「まず最初に結論から話すと、俺が作ったダンジョンに来てくれないかって話なんだけど……」

「ゲ……ゴゴ……」



「ん?」



 何か話したそうにしているが、喉に何か詰まっているのか苦しげな表情だ。

 そのせいで言葉が出ない様子。



「どうした? どこか具合でも悪いのか?」

「ゲゲ……ゴ……」



 グーランは体の大きさに見合わない小さな手をゆっくりと動かし、自分の髭を指差す。



「髭を? どうしたいの?」



 彼は苦しそうにしながらも、髭を握って引っ張るような動作をして見せた。



「それを引っ張って欲しいのか。思い切り?」

「ゲゴ……」



 頷いた。



 必死さを感じ取った俺は、すぐにそれを実行に移すことにした。



「本当に思いっ切りでいいんだな?」

「ゲゴ……」



 ならばと、俺は強欲の牙グリーディファングを現出させる。



 こいつで挟めば、俺が手でやるよりかは、彼の望む力で引っ張れるだろう。



 早速、牙の先で髭の何本かを挟む。



「行くぞ?」



 最終確認をする。



 するとグーランは備えるように瞼を閉じた。



 俺は、それを了承と判断した。



 直後――、



 力強く、引っ張った。



 ブチブチッ



 何本かの髭が抜ける音がした。

 と、同時に、



「ゲコォォォォォォッ」



 グーランは目を見開き、大口を開けて叫んだ。



 そして、その口から何か石のようなものが飛び出す。



 それは黄金色に輝く、一抱えはある大きさの石だった。



 恐らくそれが喉に詰まっていたのだろう。



 しかし、地面に転がったその石。

 そこから並々ならぬ力を感じる。



 もしやと思った俺は、それを強欲の牙グリーディファングで取り込んでみた。



 アイテムボックス内に表示された、その石の名称は――、



[魔黄石]だった。

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