第83話 タライ計画


 やばい威力だな……。



 俺とアイルは、床石にめり込んだ金ダライを見つめながら呆然としていた。



 詳細プロパティに書いてある説明より数段強力なんですが!

 たまに書いてないことも起きたりするから侮れん……。



 ともあれ、他に被害が出なかったのは良かった。



 とりあえず安堵していると、今まで、ぼーっと亀裂の入った床を見つめていたアイルが、ふと我に返る。



「す……素晴らしい威力ですねっ! これなら侵入者も一瞬でミンチ肉になってしまいますよ! これがダンジョン内に無数に設置されていることを想像したら……ぐふ……ぐふふふ……」



「いや、これはこの場所に一つだけにしておくよ」

「え……な、何でですか!?」



 思いも寄らない答えだったのか、アイルは目を丸くした。

 そして、「勿体ないっ! もっと勇者を殺せるのにぃ!」と切望するような眼差しを向けてくる。



「この罠を作る為に必要な素材って結構、稀少な物っぽいんだ。数にも限りがある。だから、ダンジョンの要所要所にこれと同じ物を設置するとなると……ね?」



 今回手に入れた魔黄石は120個。

 魔紅石もそれ以上の数が手元にある。



 一見すると充分な数のように思えるかもしれないが、これほど強力な力を持っている素材は今後もどこかで必要になってくる可能性が高い。



 加えて、これまでの経緯から他の素材に比べて入手が困難そうに思える。

 だから大事に使って行きたいのだ。



「それに、今後の大きな罠の為にも温存しておきたいしね」



「大きな罠……って、今の罠よりも凄いものなんですか!? それって、もう魔王様のご計画の中に??」



 やっぱり興味を示してきた。



 でも、丁度良い機会だ。

 魔団参謀である彼女には話しておいた方がいいだろう。



「これは参謀であるアイルだけに話すことだ。時が来るまでは二人だけの内密な話にしておいて欲しい」

「ふ……二人だけ……」



 そこで彼女はドキッとしたような表情を見せ、心ここに在らずな感じになる。



「ちょっと、ちゃんと聞いてる?」

「あ……は、はいっ!」



 アイルは何故だか〝気をつけ〟の姿勢になる。



「大きな罠というのは、今見てもらったスーパー金ダライと同じ種類のものなんだけど……その威力が半端ないやつなんだ」



「まあ! それはワクワクしてしまいますねっ♪」



「アルティメット金ダライって言うんだけど……規模としてはスーパー金ダライの何万倍、何億倍……いや、それ以上かもしれない……とにかく想像の付かない威力を持っている罠なんだ」



「え……お、億……」



 さっきまで心ときめいていた彼女だったが、あまりの威力の規模に開いた口が塞がらなくなっていた。



「で、そのアルティメット金ダライを作るには、三種類の魔法石が必要なんだけど、そのうちの一種類が、今のスーパー金ダライに使われてるわけ。まだ持ってない残りの二種類を探さなきゃなんだけど……」



「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って下さい!」



 彼女が慌てたように言葉を遮った。



「ん? どうしたの?」



「魔王様のご計画に意見する訳ではありませんが……そ、それほどの威力を持つ罠をお作りになられて、どのようにお使いになるおつもりですか?」



 彼女は恐らく心配しているのだろう。



 ダンジョン内にそんな大規模の罠を仕掛けたら、勇者が嵌まるとかそういうレベルじゃなくて、ダンジョンそのものが破壊されてしまうんではないか? それを危惧しているのだ。



「大丈夫、出来上がったその罠はダンジョンの外で使うから」



「……外??」



「外と言っても城や死霊の森じゃないよ? それよりもっと遠く」



「遠く……」



 まだ思い当たらないようで、彼女はぼんやりとしていた。



 まあ、ヒント無しじゃ難しいか。

 仕方が無い、率直に言おう。



「リゼル王国さ」



「っ!?」



 告げた途端、アイルは目を見張った。

 が、すぐにその表情は喜ばしいものに移り変わる。



「と、とうとう外界をお攻めになる気になられたのですねっ!!」



「そう来ると思った。でも違うよ」

「へ……?」



 思ってた返事と違うものだったのだろう、彼女は気の抜けたような顔をした。



「俺はその罠……いや、もう罠というよりは兵器だな。それを持って、リゼル王国を〝脅迫〟する」



「脅迫!?」



「彼らの前でその強大な力を見せつけるんだ。この魔王城に二度と手を出す気にならないくらいの圧倒的な力をね。それがいかにリスクが高く、愚かな行為かを知れば、もう勇者を寄越そうなんて思わないだろ? そうなれば俺達は今後、リゼルからの刺客を心配する必要が無くなる」



「な、なんという大胆な計画……恐れ入りました」

「やる時は徹底的にやらないとね?」



 笑みを浮かべながら言うと、アイルは胸の前に手を当て、改めて敬服の意を表す。



 が、ふと何かに思い当たったようで……。



「あの……それで、一つ疑問に思ったのですが……」

「何?」



「その……アルティメット金ダライでしたっけ? それを誰がリゼルまで持って行くのですか?」



「それには適任者がいるでしょ」

「……適任?」



 俺は含み笑う。



「瞬足くんだよ」


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