第84話 脅迫と鉄の処女
「あのゾンビ勇者を……ですか?」
アイルは少し驚いている様子だった。
リゼル王国に送る者が、ただのゾンビでいいのだろうか? そんな思いが伝わってくる。
「あのゾンビ勇者だからいいんだよ」
「と、いいますと?」
「考えてもみなよ。自分達が魔王討伐にと送った勇者が、ある時、ゾンビになって帰ってくるんだよ? それだけでも充分、相手に脅威を感じさせることが出来ると思うんだけど」
「なるほど、そうですね! 慌てふためくリゼル王や衛兵達の顔が想像出来ます!」
「でしょ? それに瞬足くんには遠隔で指示が出来るし、色々と自由度が高くて便利なんだよね。何よりも目的地まであっと言う間だし」
「それは楽しいことになって参りましたね。ぐふふ……」
アイルは悦に入り始めた。
あー……いつものように乗ってきちゃったね、これは。
しかし、彼女は急に体をモジモジとさせ、言い難そうに口を開く。
「それにしても……そのご計画、なぜ私だけに?」
「ああ、直前になったら皆にも伝えるつもりだよ。今そうしないのは、まだ準備が整っていないうちから伝えると、時間が経つにつれて、こちらから打って出るような空気が自然と出来上がっちゃう可能性があるからさ。それは避けたい」
彼女は、ふと真顔に戻った。
「そ、そいうものですか……」
「案外ね」
「……」
「でも、参謀であるアイルには先に伝えておいた方がいいかなって思ったんだ」
「魔王様……」
アイルはなんだか瞳をキラキラさせていた。
「あー…………その件は、それでいいとしてだ。アイルは魔蒼石と魔碧石って聞いたことない?」
「いいえ、存じ上げておりません」
「そっか」
「それはもしや、アルティメット金ダライの作成に必要な素材でございますか?」
「ああ、うん」
「そうですか……では、配下の者に調べさせます」
「じゃあ一応、よろしく」
うーん……残りの魔法石の情報が手に入らないぞ……。
魔黄石を手に入れたのだって偶然みたいなもんだったしな……。
分かっていることは、膨大な魔力やエネルギーが蓄積するような場所で魔法石として結晶化し易いということだけだ。
そんなスポットの情報を集めて、探しに行くしかないだろうな。
まあ、そのことは一先ず置いておこう。
なぜなら、新しく手に入った罠のテストがまだ終わってない。
試したのはノーマル金ダライとスーパー金ダライだけだ。
残りの罠もしっかりと把握して、設置して行かないとな。
こうしている間にも、リゼル以外の国から勇者がやって来る可能性だってあるのだから。
「さて、新しい罠のチェックをして行くよ。アイルも手伝ってくれるかい?」
「も、もちろんでございます! ハァハァ……」
彼女の息が再び荒くなり始めた。
「まずは
俺はスーパー金ダライで壊れた床を補修すると、その先の通路を進む。
次に現れた突き当たりの壁際に、合成した
「大きな……お人形さんですか?」
アイルが不思議そうに窺っている。
「見た目はね。中はこうなってる」
俺は
人形の内部には鋭い針が無数に突き出ている。
「まあ♪」
アイルは両手を頬に当て恍惚の表情を見せる。
「だけど、この罠の難点は中に入ってもらわないと意味を成さないことなんだよねー」
元々が拷問器具。そもそも罠じゃないので、そんなふうに出来ていないのは当たり前か。
さて、どうやってこの中に誘い込もうか。
バネ罠やバナーネの皮で強制的に放り込むってのが一番簡単そうなんだけど……バナーネの皮が通路に落ちててもあからさますぎて踏まないと思うので、別の切っ掛けが必要だ。
「これがいいかな?」
俺はとあるアイテムを合成して通路の床に設置した。
床の上に丸い鏡のようなものが現れる。
「なんですかこれ?」
アイルが背後から覗き込んできた。
「ファイアトラップだよ。踏むと炎の魔法が噴き出るらしいんだ」
「これで侵入者を消し炭にしてしまわれるんですね!」
「そういう使い方もあるけど、今回はそうじゃない」
「え?」
「これ単体でも罠として成り立ってるけど、見た目が目立ちすぎてて踏まないと思うんだよね」
「た、確かに……」
鏡みたくキラッキラッ反射してるので否が応でも目が行く。
「なので、このファイアトラップのちょっと先に普通の床スイッチを置いて、連動させる」
「ふむふむ……」
「床スイッチを踏むと、ファイアトラップが侵入者の背後で発動。炎に驚いて前に飛び出した先にバナーネの絨毯を敷き詰めておく。すると――」
「そのまま滑って行って、蓋を開けておいた
「正解」
「ぐふふ……」
アイルは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、ファイアトラップがどんなもんだか試してみようか」
俺はファイアトラップから数歩先の通路に床スイッチを隙間無く敷き詰め、全てをそれに連動させる。必ず踏むようにする為の施策だ。
そして安全の為、二人して結構離れた場所まで下がると、俺は再びノーマル金ダライを取り出す。
またもや床に滑らせてスイッチを押す為だ。
結構、ノーマル金ダライが役に立ってて驚き!
「それじゃ行くよ」
「はい」
返事を受けて、金ダライを滑らせた。
金属の擦る音が響いて、床スイッチの上に載る。
カチッ
そんな音を耳にした直後だった。
ボフォォォォォォォォォォォッ
紅い炎の柱が床から立ち上り、通路の天井を焦がす。
「ひっ!?」
熱風とあまりの炎の勢いに、アイルは思わず後退りしてしまう。
そんな彼女に俺は一言告げる。
「まだバナーネの皮を置いてなくて良かったね」
「あ……」
アイルは無意識に体が動いてしまった自分に呆然としていた。
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