第178話 くくり罠の真実


 俺は瞬足くんの目を借り、木に吊されたヒルダを見上げていた。



「これは良い眺めだ」



 そう言うと、彼女は悔しそうに歯噛みする。



「っ……」



 彼女は腹部を腕と共に縛り上げられ、全く身動きが出来ない状態。

 それでも、なんとかそこから抜け出そうと体を振ったり、一緒に縛られている矛を使おうとする。



 しかし、このロープが見た目よりもかなり頑丈で、解れたり弛んだりする感じが全然無い。



 彼女自身も無駄に体力を消耗するだけだと悟ったのか、すぐにおとなしくなった。



 そして唸る狼のような鋭い視線を俺に向けてくる。



「何をしようとしても無駄よ。私は何も喋りはしないわ」

「ほう、自分が今から何をされるか分かっているようだな」

「……」



 さすがの勇者もそこで視線を背けた。



「なかなかの覚悟だ。だが、お前に耐えられるかな? これから起こる惨たらしい恥辱に」

「……」



 それでもヒルダは気丈な態度を変えなかった。



 仕方が無い。

 ここは、くくり罠さんの効果を存分に発揮して貰うことにしよう。



 既に把握しているように、くくり罠には捕縛した獲物を丸裸にする効果がある。

 ここで彼女の武器と装備を全て剥ぎ取ってしまえば、さすがに自白する気になるだろう。



 だが問題は、それがどんなふうに行われるのか? ってこと。

 俺もこの罠は初めて使うものなので、実際にどういう感じで丸裸にするのかが分からないのだ。



 これまでの他の罠の例からして、期待は裏切らないと思うけど……。

 ヒルダは先程から宙吊りになっているだけで、今の所、何か起こる様子も無い。



 このまま何も起きなかったらどうしよう……。

 取り敢えず、拘束は出来ていることだし、他の方法を考えないといけないだろうな……。



 他の選択肢も視野に入れ始めた時だった。



 何やら草むらの中でカサカサと音がし始めた。



 ん……始まったか?



 やっとか……と思いつつ、木の袂に目を向けると、すぐに音の正体が現れる。



 それは掌ほどの大きさがある巨大蜘蛛だった。



 うわっ!? 気持ち悪っ!



 全体に薄らと毛が生えていて、タランチュラとかいうのに似ている。



 しかも、そいつが一匹だけじゃなく、数え切れないくらい出て来たのだから怖気が走った。



「ひぃぃっ……!?」



 これにはヒルダも堪らず悲鳴を漏らす。



 しかし、そんな悲鳴も蜘蛛にとってはお構いなし。

 木の幹を登り始め、彼女の体に取り付き始める。



「いぃっ!?、いやぁぁっ! やめてぇぇっ!! んっ……ご……」



 無数の蜘蛛はアッと言う間に彼女の全身を覆い尽くし、真っ黒な巨大蓑虫のような見た目になる。



 吊されている足下には、彼女が身に付けていた鎧や服の破片がパラパラと落ち始める。



 よく見ると蜘蛛の口が鋭い牙のようになっていて、そいつがガジガジと彼女の着ているものを食い破っているようだった。



 糸を巻き付けるとか、毒を噴射するとか、ここまで一切蜘蛛要素無しの動きだけど、一応期待通りの仕事をしてくれているようだ。



 そのまましばらく待っていると、事を終えたのか、次第に蜘蛛が彼女の体から剥がれ始める。



 まさに蜘蛛の子を散らすように捌けて行く姿を見つめながら、俺はその下から現れるであろう姿を想像する。



「むふ……さて、どんな感じになったのやら……」



 多少の背徳感を覚えつつ、待ち構える。



 全ての蜘蛛が草むらの中へと消えて行き、ドキドキしながら彼女の姿態を見上げると――。



「え……」



 残された彼女の姿に呆然とした。



「……」



 そこにあったのは、木の枝に吊され、力無く項垂れる――白い骸骨だった。



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