第179話 髑髏の活用法

 俺はコンソール画面に映るドクロを見て呆然としていた。



 確かに……丸裸には間違い無いけど……こういう意味だったとは……。

 相変わらず、やり過ぎなんだよな……。



 同じく隣で画面を見ていたリリアは、この結果に満足いっているようで、



「やりましたね、魔王様! さっそく勇者を一人仕留めましたよ!」



 と喜んでいる様子。



「ま、まあね……」



 最終的には倒すことになったんだろうけど、これじゃ情報が聞き出せないままだ。



 とはいえ今更、仕方が無いので、それはレオの方に担ってもらうことにしよう。



「で、この骨だけど……どうしよう?」

「見せしめに吊したままにしておいたらいいんじゃないですか?」



 可愛い顔して結構、残酷なことを言うのな!

 さすが、闇落ちエルフ!?



 確かにリリアの言う通り、その役割は果たせそうだけど……。



 ユルい感じの見せしめというのなら、やはり森の道の入り口にある墓地に一緒に埋葬するのがいいだろう。



 というわけで、そのドクロを瞬足くんに回収させる為、指示を出そうとした時だった。



 カタカタカタ……。



「……んん?」



 突然、木片が擦れ合うような音がして、すぐさま画面に見入った。



 すると、驚くべき光景がそこに映っていた。



 骨だけになったヒルダのドクロが顎をカタカタと鳴らして動いていたのだ。



「っ!? まだ、生きてる??」



 いやいや、生きているはずがない。ただの骨だし。



 手足はぶらーんと垂れ下がったままで、体も動く様子は無い。

 ただ顎だけが、小刻みに歯が震えるような音を立てている。



「こ……こんな事ってあるのか?」

「どうでしょう? そういうのはシャルが詳しそうですよ」

「なるほど」



 リリアの助言に俺は同意する。



 死人のことなら死霊使いネクロマンサーである彼女に聞くのが一番手っ取り早い。



 俺は早速、シャルがいる階層のメダマンに映像を繋ぎ、彼女の姿を探す。

 すると、すぐに見つかった。



 墓場の真ん中で、どういうわけだか身構えている姿が映る。



「……シャル?」

「ん? あ、魔王様!」



 墓石に取り憑いているメダマンから声を発すると、こちらに気付いてくれたようだが……彼女がその構えを解く様子は無い。



「えっと……何してんの?」

「何って……勇者が攻めてきてるんでしょ? 第一種戦闘態勢だよ」

「……」



 今から勇者を待ち構えてるのか……。

 用心するに越したことは無いけど、まだまだ勇者は来ないと思うぞ。



「それはともかく、シャルに聞きたいことがあるんだけど」

「えっ!? 魔王様が私に聞きたいこと!? 何? 何?」



 シャルは嬉しそうにカメラに駆け寄って来る。

 そして画面が、色白の肌で埋め尽くされた。



「近い、近い!」

「そう? じゃあ、こんな感じかなあ?」



 シャルはやや体を退くものの、まだだいぶ顔が近かった。



 まあ、いいや……話すのには支障無いし。



「いい?」

「私に分かることであれば何でも答えるよ」



「骨ってさ、動いたりすることってあるの?」

「うん、あるよ。スケルトンとか」



 スケルトン!

 そういえば、そんなのあったな。

 ファンタジーに出てくる定番モンスターだけど……まさか、これがそうなのか?



「骨がどうかしたの?」

「いやあ、丁度今、勇者を倒した所でさ……」



「わあ、もう倒したんだ! おめでとう魔王様!」



 そこでシャルは画面に向かって祝福の投げキッスを飛ばしてくる。



「あ、ありがとう……。って、それは置いといて、その勇者が骨になっちゃったんだけど、なんか顎だけカタカタ動いてるんだよね。これって、死霊使いネクロマンサー的にはどういう扱いなの?」



「ああ、それね。生前、魔力を多く持っていた者は骨になっても動くことがあるんだよ。でも、そのままじゃ、歩いたりすることも出来ないし、いずれは骨に残っていた僅かな魔力も全部消えて、ただの屍になっちゃうんだ」

「じゃあ、これはスケルトンとは違うんだ?」



「どちらかというと、スケルトンになる資質を持ってるっていうのが正しい言い方かな」

「資質……」



「私みたいな魔力を持った死霊使いネクロマンサーとかが使役すれば、そういう資質を持った骨はスケルトンとして復活するってこと」

「おお」



 そんな事が出来るのか。

 そいつは面白い。



「じゃあ、この勇者の骨をスケルトンとして復活させれば、情報を聞き出せたりするわけ?」

「会話は出来ないよ」

「え……」



「死人は死人だから、死んでしまった時点で本人の意思はないの」

「なるほど……だよねー」



 彼女をスケルトンとして使役出来れば、それなりに戦力になってくれそうな気がするな……。

 瞬足くんの例もあるし。



 特にリスクは感じられないし……物は試しだ、やってみよう。



「じゃあ、その骨の使役契約をシャルに頼んでもいい?」

「うん、それは別に構わないんだけど……。魔王様が直接使役した方が便利かも」

「どういうこと?」



「スケルトンなら、瞬足くんをゾンビにした時みたいに死霊使いネクロマンサーの専門的な技術はいらないし、わざわざ防腐処理を施さなくても腐らないしね」

「防腐処理してたんかい!」



 死霊使いネクロマンサーって、一体何をしてるんだ……?



 ともかく、シャルが言うには骨はゾンビほど複雑じゃないから、強大な魔力があれば容易に使役出来るとのことだった。


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