第180話 スケルトンの使役


 取り敢えず、俺は骨になってしまったヒルダをスケルトンとして使役することにした。



 シャルのアドバイスによると、魔力が高ければ容易に使役出来るとのこと。

 でも、実際どうやって?



 ともかく、そうするにしても、やはり俺の目の前に骨がないと駄目そうな気がする。



 今、ヒルダの骨の前にいるのは瞬足くんだ。

 幸い、足の速い彼なら死霊の森から、この火山の山頂まであっと言う間に運んできてくれるだろう。



 なので早速、彼に頼むことにした。



「瞬足くん、その骨を俺の所まで持ってきてくれないか?」

「む……」



 メダマンを通して直接呼びかけると、彼は小さく頷いた。



 木に吊されているドクロの縄を解き、その体を肩に担ぐと、すぐさま火山に向かって走り出した。



 スケルトンの素材になる骨は鮮度が命。

 骨から魔力が消え去る前に使役しないといけない。



 ってことだから、向かわせたのが瞬足くんでラッキーだったな。



 そんな訳で大して待つこと無く、瞬足くんが火山の山頂に到着した。



 やっぱ速いなー。



 感心していると、彼は担いでいた骸を俺の足下に下ろす。

 真っ白い骸骨が目の前に横たわった。



 うわー、本物の人骨だ……。

 全身が揃った形で見るのは初めてだなあ……。



 これがさっきまで生身で生きていたと思うと複雑な気分だ。

 って言っても、歯をカタカタ言わせてるので微妙に生きてる感はあるけど。



 さて……こいつをどうやって使役するかだけど……。

 シャルが言うには、消えかかっている骨の魔力に自分の魔力を与えて、紐付けする感じだと言っていた。



 言葉にすると簡単そうに聞こえるが、実際どうやったらいいんだろうか……。

 取り敢えず、魔力っぽいものを出してみるか。



 俺は右手を骨に向かってかざした。



 自分の中の魔力を感じ取ろうとした瞬間、俺の手の先から強欲の牙グリーディファングが現れる。



 と、そこで牙の先から魔力が流れ出るのを感じた。

 そいつがドクロにまとわり付き、繋がった感覚を覚える。



 途端――、



 ピロッ



 電子音のようなものが鳴り響いた。



「ん……もしかして……」



 俺はすかさずコンソール画面を開いて、魔物リストの欄を確認する。

 するとそこには、




 ※スケルトンを配下に加えますか?〈YES/NO〉




 という文字が表示されていた。



 もちろんYESを選択。

 それでリストに新しい魔物が加わった。




[ステータス]

 種族:スケルトンナイト  レベル:1

 HP:1560/1560   MP:812/812

 攻撃力:447   防御力:369

 素早さ:212   魔力:413

 運:101

 特殊スキル:超全回復ユナイトヒーリング×3倍、癒重穿槍ディケイスピア×3倍




 やった、出来たぞ。

 シャルの言った通り、結構簡単だった。



 っていうか……スケルトンナイト!?



 ただのスケルトンじゃないんかい!

 いきなりパワーアップしてる感じなんですけど……。



 瞬足くんの時もそうだったけど、勇者の時のスキルをそのまま受け継いでるし……。

 しかも……スキルが三倍って何!?



 通常で全回復なのに、その三倍って??

 有効範囲が三倍とか?



 相変わらず、使ってみないと分からない感じだな……これは。



 で、肝心のスケルトンナイトがどんな感じになったのかというと……。



 俺は眼前のドクロに目を向けた。



 ゆっくりと立ち上がった骸骨。

 その姿は俺の良く知るスケルトンとは少し違っていた。



 見た目はスケルトンなんだけど……色が……。



 ピンク色だった!?



「なんだろう……このファンシーな感じのスケルトンは……」



 それにスケルトンの頭には、まるで軍用機のパーソナルマークみたいに矢の刺さった赤いハートの絵が描かれていた。



 何これ……色からして桃色の悪魔的な?



 聖具であった三つ叉の矛トライデントも、真っ黒に仕上がっていた。

 これは他の勇者の聖具と同じ反応だな。



 ともあれ、これで強力な戦力が増えたことは間違い無いだろう。



 それにしても……瞬足くん然り、リリア然り、ラウラ然り、どんどん元勇者の仲間が増えてゆくなあ……。



「あ、そうだ」



 他の元勇者のことで思い出した。



 このスケルトンにも名前を付けてやらないといけないな……。



 何がいいだろう?

 瞬足くんと名前を揃えるなら……やっぱ、あれかな?



「決めた。今日から君は、回復さんだ。いいね?」

「カタタタタ……」



 回復さんは歯を小気味良く震わせた。



 どうやら気に入ってくれたらしい。



「よーし、新加入記念にプレゼントもあげちゃおう」



 俺はすかさず温泉饅頭を取り出した。

 能力がパワーアップしちゃう例のアレだ。

 これに回復さんは、



「カタタタタタタタタタタタ……」



 なんか、はしゃいでる?



 体全体を震わせ喜びを表現しているようだった。



 そこまで喜んでもらえると、こちらもあげ甲斐がある。



「じゃあ、はいこれ」

「カタタ……」



 回復さんは俺の手から饅頭を受け取ると、そのまますぐに口の中に放り込んだ。

 すると――、



 ボテッ……



 地面に饅頭が転がった。



「あ……」



 その光景を目の当たりにして、今更ながらに理解する。



 内蔵が無いと食べられないじゃん!



 饅頭は骨の体を素通りするだけだった。


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