第181話 三倍の効果
俺は転がった饅頭を回収しながら回復さんを見据えた。
「この方法じゃパワーアップは無理か……」
まあ、そんな事をしなくても強そうではあるけど。
何しろ三倍だし。
でも何が三倍なのか、今後の為に確かめておいた方がいいだろうな。
と、その前にちょっとだけ質問をしておきたい。
「回復さん、少し質問するよ?」
「カタカタ」
彼女は頭蓋骨を震わせた。
「ヒルダだった時のこと、何か覚えてる?」
「カタ?」
彼女は首を傾げた。
この反応、自分が何者だったかすら覚えていないようだ。
ヒルダって何? という感じ。
「勇者としての何かは覚えてないの?」
「カタタ……??」
彼女は困ったように背骨をくねらせた。
どうやら本気で何も思い出せないみたいだ。
「でも、スキルの使い方は覚えてるんだよね?」
「カタタタ」
回復さんが矛を地面に立て、誇らしげに胸を張った。
その辺は自信があるらしい。
「俺のステータス画面で見ると、そのスキルが三倍の表記になってるんだけど、何が三倍なのか見せてもらえることって出来る?」
「カタ」
回復さんは頷いた。
どうやら、やってくれるみたいだ。
すると彼女は特に何の前置きも無く、突然、自分の足下に矛先を突き刺した。
途端、雷撃のようなものが地表を駆け抜ける。
それは勇者ヒルダだった時に使っていた、
ただ、その効果と範囲が桁違いだった。
ここは雑草の一本すら生えていない火山の頂上。
その一帯が一瞬にして緑の草原に変わっていたのだ。
色取り取りの花さえ咲いている。
「うわっ!? 急に爽やかな景色に変わりましたよ!?」
側にいたリリアが驚嘆の声を上げる。
俺も最初は何が起こったのか分からなかったが、理由を突き詰めるとなんとなく分かってくる。
恐らく、この火山が火山である前に地中に眠っていた草の根とか花の種が回復さんのスキルによって息を吹き返したのだ。
もうこれ……回復というより蘇生に近いな……。
しかも範囲が凄かった。
火口付近の一帯が、全て緑に包まれていたのだ。
これは確かに、以前のスキルより三倍の有効範囲はありそうだ。
しかし、本当にこれだけだろうか?
これまでの経験から、なんかまだありそうなんだよな……。
「三倍って、三倍の有効範囲と回復力ってことでOK?」
「カタタ、カタタタ、カタッ」
「ん?」
これまでより長めに語りかけてきている。
それに……スケルトン語は分からないけど、
「他にもあるよ」
って言ってるような気がした。
「他に何が出来るの?」
尋ねると、彼女はすぐさま実演してくれた。
今度は矛を立て、自分の真ん前に構える。
直後、放電現象のようなものが彼女の体を包んだ。
すると――彼女の体が次第に変化してゆく……。
「ぶふっ!?」
俺は思わず鼻を押さえた。
「マ……マジか……」
「ええっ!? ま、魔王様、これって……」
リリアは顔を赤くしながら両手で顔を覆う。
「これは……回復と言えば、回復か……」
「そ、そうですね……」
「カタタタッ……」
少し前に期待してたものが今頃になって来たぁっ!?
と、歓喜も束の間……。
なんか違う気がする!
すげーカタカタ言ってるし……。
それに、そのままの姿ではちょっと抵抗があったので、すぐに戻ってもらうことにした。
「も……もういいよ、君の能力は大体把握した」
「カタタ」
それで彼女は元のスケルトンの姿に戻った。
そこで俺は今後の事を考える。
これはレオ達を迎え撃つのに使えそうだぞ。
作戦をより確実に遂行する為の助力になるだろう。
という訳で、それまでに彼女を魔王城に配置しておこう。
「瞬足くん、勇者を仕留めたのはさすがだったね」
「む……」
「で、帰り際に彼女を魔王城まで送ってあげてくれないかい?」
「むっ……」
控えていた瞬足くんが敬礼で応えてくれた。
またもや回復さんを担いで山頂から消えて行く瞬足くん。
目にも止まらぬ速さで、いつの間にか山麓に土煙の筋が引かれていた。
頼もし過ぎる……。
それを見届けると、俺は再びカメラ映像の映る画面を開いた。
「さて、レオの方はどうなってるかな?」
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