第77話 森の恵み?
「あのキモい実がなってた木が高級木材!?」
俺は驚きの声を上げてしまった。
それが探していた素材とは思わなかったからだ。
「クヴァール科、マホガニンニン属の木だから、間違い無くマホガニー材だよ」
「……」
シャルがそう説明してくれる。
名称は似てるけど……俺の知ってるマホガニー材となんか違う。
でも、それがこの世界のマホガニー材っていうのなら、そうなんだろう。
確認するならアイテムボックスに取り込んでみるのが確実だろうな。
なので、その木を丸ごと
それだけで大量の実と木材がアイテムボックスに収納された。
[マホガニー材]
高級木材。赤味がかった艶のある表面は、あらゆる家具を気品ある見た目に仕上げてくれる。加工し易く、ある程度の耐火性能を持っている。より上位の家具レシピを得た時に役立つでしょう。
やはり、合ってるみたいだ。
これで、やっとまともな玉座が作れるぞー。
それと、より上位の家具レシピで役立つ――っていう点も気になる所。
ともあれ、結構あっさりと見つかって良かった。
俺が満足そうにしていると、シャル自身も嬉しくなったのか、周囲に生えている植物を事細かに説明してくれる。
山菜とかキノコとか、虫とかまで。
その流れで地面から生えている雑草を指差す。
「ちなみにこれがマンドラゴラだよ」
「マンドラゴラ!?」
って、引っこ抜いた際に上がる悲鳴を聞くと死んでしまうというアレじゃないか!? それがこんな所に!?
そんなふうに俺が尋ねる間も無く、既に彼女は株を掴み、そいつを引っこ抜く体勢になっていた。
「ちょっ!? 何してんの!?」
「これ、面白いんだよー」
もう間に合わないと思った俺は慌てて耳を塞ぐ。
だが――、
引っこ抜いた株の先には、モフモフした可愛らしい生き物がくっついていた。
それは俺も良く知っている動物。
「猫!?」
頭から草が生えていること以外は、どこからどう見ても普通の白猫だ。
シャルに引っこ抜かれたそれは力無くだらーんと垂れている。
結構、長い。
これがマンドラゴラ!?
しかし、そのマンドラゴラ(猫)は自身の状況に気付くと、急に恥ずかしそうな素振りを見せ始め――、
「いやーん」
と鳴いて、両手で体の前を隠した。
そのままシャルの手を離れたマンドラゴラは、慌てたように再び土の中へと潜ってしまった。
なんだこれ……。
しかも「いやーん」て……。
「ねっ? 面白いでしょ?」
シャルはニコニコしながら聞いてくる。
面白いというか……俺の想像していたマンドラゴラと違いすぎて呆然としてしまった。
さすが魔物が潜む森。変なのが一杯いるなあ……。
死ななくて良かったけど……。
安堵していると、ふとシャルが呟く。
「小さい頃、こうやって良く遊んだんだー」
彼女は懐かしむようにしみじみと言った。
そこで俺はある疑問に思い当たる。
小さい頃?
シャルの体ってアンデッドだよな? それなのに小さい頃ってどういうことだろう?
それに彼女はいつからこの場所に?
彼女だけじゃない。
アイルやプゥルゥ、そしてイリスやキャスパーもいつからこの場所にいるのだろう?
俺が転生して誕生するまで、ずっとこの場所で待ち続けてきたのだろうか?
色々な疑問が生まれる。
だが、この場で今、それを聞くような空気じゃなかった。
だって――、
シャルがそこら辺にあるマンドラゴラを片っ端から抜き始めたからだ。
「いやーん」「いやーん」「いやーん」「いやーん」
「あはは、かわいいー」
「何してんだっ!?」
抜かれた側から鳴き声を上げて土に戻って行く。
「あははは」
「そのへんにしときなさい」
「えー、もうちょっと遊びたーい」
彼女は頬を膨らませてむくれる。
まるで子供だな。
でも……そんな楽しそうな姿を見ていると、否が応でも興味が沸いてくる。
俺も一株くらいは抜いてみたくなった。
ちょっとだけ……。
そう思って、近くにあったマンドラゴラの株に手を掛ける。
思い切って、引っこ抜いてみると――
「みぎゃあああぁぁあぁぁぁっ!?」
「うわぁぁっ!?」
くっついてきた猫が凄い剣幕で叫び声を上げたのだ。
慌てて手を離すと、マンドラゴラ(猫)は狼狽えたように素早く土の中へと舞い戻る。
その様子を見ていたシャルが、柔和な笑みを浮かべながら言う。
「もっと根元の方を持たないと、びっくりしちゃうよ」
そういうの先に言ってよ!
って、俺が勝手に抜いたんだけどさ。
一瞬、俺の知ってるマンドラゴラが取れちまったかと思ったじゃないか。
あー……心臓に悪い。
もう止めておこう。
そんな訳で
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