第96話 ダンジョン侵入?
「ど……どど、どういうことですか??」
リリアは偽魔王を見上げながら狼狽していた。
今まで対峙していた魔王が突然、魔王じゃないとか言い出したらそうもなるだろう。
しかも、忠誠まで誓っちゃったわけだから、気の抜け方も尋常じゃないと思う。
「さっきリリアが見抜いていた通り、この偽魔王はただのゴーレムで、本当の魔王はこの玉座の間の地下にあるダンジョンにいるんだ」
「ダンジョン……」
まだ、彼女は釈然としないようで、ぼんやりとしている。
「あ、今しゃべってるこの声は、本物の魔王の声だよ? ゴーレムの体に寄生している目玉コウモリから音声を送ってるんだ」
「は、はあ……」
理解はしたようだが、いまいち実感が湧かないようだ。
「それで……私はどうすれば……?」
ともかく、俺はもちろんのこと、配下の皆にもちゃんと顔合わせをしないといけないだろうな。
「リリアのことを皆に紹介したいから、下まで降りてきてくれるかな?」
「下……ですか」
「君のスキルなら、なんとなく見えてるんじゃないかな?」
すると彼女は床の一点を見つめながら言う。
「ええ、扉らしきものがあるのは分かるんですが……かなり強固なガードが魔力でかけられているように見えます。これは私じゃ通り抜けられませんよ……?」
そこまで分かるのか……さすがだな。
「じゃあ今、通れるように設定するから。そこから降りてくれるかい?」
「は、はい」
「んで、俺達は最下層の玉座の間にいるから、そこまで来てね」
「最下層って……どのくらいあるんですか?」
「十階層だよ」
「じゅ……じゅう!?」
思ってたより深かったのか、彼女は驚きの声を上げた。
「別に全部を歩いてこなくて大丈夫だよ。第一階層の広間に魔法の扉Ⅱが設置されてるから、そこで最下層を選択してくれれば一気にここまで飛べるから」
「は、はあ……」
俄に信じがたいといった様子でいる彼女だったが、とりあえず行動を開始したようだ。
途中の通路に大量に罠が設置してあるけど、彼女なら問題無く通れるだろう。
そんな訳で魔法の扉Ⅰを潜り、床下にある階段を降り始めたリリアを各所に設置したメダマンで追うことにした。
◇
カツーン、カツーンと、ダンジョン内に彼女の足音が響く。
壁掛け燭台のみの薄暗い場所を進むと、彼女の前に二つの壁が現れる。
「ん? なんですかこれ……?」
両方の壁に書いてある文字をジッと見つめる。
「男湯……女湯?」
リリアは辺りを見回した。
他に通路っぽいものは無いし、ここを進むしかないらしいと悟った彼女は、とりあえず女湯の方へ入って行く。
残念、真のダンジョンへの入り口は男湯の方なんだよなー。
設置されているメダマンから、そのことを音声で伝えようとしたが、彼女はさっさと更衣室を抜け、浴場へ出たようだ。
そっちへ画面を切り替えると、湯船を見て呆然としているリリアの姿が映し出される。
「え……これってもしかして……湯浴みする場所?」
立ち上る湯気の中、彼女は瞠目していた。
「なんで……魔王城の地下に湯浴みする場所があるんですか? しかも……こんなにでっかいの見たこと無い!」
そのままスタスタと湯船に近付くと、湯気をクンクンと嗅ぐ。
「温泉の香り!」
彼女は目を見張った。
そして、おもむろに手の先を湯船の中に差し入れてみる。
「いい湯加減!」
再び目を見張ると、彼女は何を思ったのか、更衣室に駆け戻った。
なので、そっちにカメラを切り替えると――
目の前に小麦色のヘソが映し出される。
「ぬわっ!?」
慌てて別のカメラに切り替えると、上着を脱ぎ始めているリリアがいた。
「ちょっ、何してんの!?」
映像に耳を傾けると……、
「ふんっ♪ ふんっふんっ♪ 温泉大好き、たのしいなー♪」
おいおい、風呂好きなのは分かったが、完全に目的を見失ってるだろ……。
そのまま観察していると、下着も脱ぎ始めた。
と、そこで、
「わぁぁぁぁっ! 魔王様っ、何見てるんですかっ!?」
アイルがスクリーンの前に立ちはだかり、リリアの姿を隠した。
それだけじゃない。
イリスとシャルとプゥルゥ、女性陣全員が画面の前に現れて、動き回るリリアの裸を絶妙な連携で隠している。
ある意味凄い統制の取れた協力プレイ。
「いや……一応行動は把握しとかないとマズいかなあと思って……」
「別の意味でマズいです!」
仕方無いので、俺はカメラを浴場に切り替えた。
すると、リリアは、こちらがてんやわんややってるうちに移動していたようで、既に湯船の中で寛いでいた。
「はぁ~……癒やされる~」
何してんだよ、こいつは……。
やっぱり最初に現れた時の印象通り、ちょっと痛い子なのか?
一応、これでも元勇者だからな?
ここで何か一言忠告しようにも、メダマンから声を発すれば俺が覗いていることが彼女にバレてしまう。
それはそれで問題だ。
というか、彼女ならメダマンが設置されてること自体は分かってるんじゃないか?
ということは、見られてるの分かってて入ってる??
リリアに対する謎は尽きないが、そんなことはどうでもよくなる事態が起こった。
「はぁ~……天国、天国♪」
湯船に身を委ねる彼女の頭上から★が飛び出したのだ。
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