第173話 回復スキル
「なんとか耐えたみたいだね」
俺は箱檻を呆然と見つめるヒルダの映像に視線を置きながら呟いた。
「あと半歩……という所でした」
と、隣で相槌を打ったのはリリア。
未だ火山の山頂で俺達は勇者の動向を観察していたのだ。
「そういえば、あの箱罠のアイデア、イリスらしい発案でしたね」
「ああ、そうだね」
勇者の襲来を知った時、皆に対策案を出してもらっていた。
その際、イリスが大量の箱罠を置くことを提案してきたのだ。
ヒルダが持つ厄介なスキル、
そこでヒルダが矛から手を離してしまうであろうアイデアを募集したのだ。
イリスが言うには、
怪しい檻だけどコロッケパン美味しそうだから我慢できない!
↓
檻のサイズ的に矛を持って中に入れない。
↓
でも、コロッケパンの魅力には勝てないから矛を置いちゃおう。
となるはずだと主張した。
兵士達は見事、その罠に引っ掛かったが、そこは勇者の精神力なのか、なんとか持ち堪えたようだった。
「どうしましょうか? あの回復能力は最初に奪っておきたかったのですよね?」
リリアが心配そうに言う。
「いや、それはもうあまり気にしなくてもいいかもよ」
「えっ……? どうしてですか??」
思いがけないことだったのか、彼女の円らな瞳が見上げてくる。
「ほら、ここを見てごらんよ」
俺はコンソール上に表示されているカメラ映像を指差す。
「? どれですか?」
「ここだよ、ヒルダの腕の所」
「んんー……? あっ、傷のようなものがありますね」
それは赤い血が線を描いたような擦り傷だった。
「うん、これは箱檻から抜け出す際に出来た傷だ。金具に引っ掛けたんだと思う」
「なるほど、血が滲んでますね。これが何か?」
リリアは首を傾げた。
「……」
うん……説明しよう。そうしよう。
「ヒルダの能力は回復スキルだよね?」
「はい」
「じゃあ、この傷はなんで回復させないんだと思う?」
「……?」
そこで彼女はハッとなった。
「他人の傷は回復出来ても……自分の傷は回復出来ない……」
「正解」
だからこそ、ヒルダは多くの兵士を盾代わりとして必要だった。
そして、レオが持つ防御スキルとも相性が非常に良い。
それらが両方とも無くなったら、彼女はたちまち無防備な人間になってしまう。
「じゃあ、彼女はもう打つ手が無い、途方に暮れた状態ですね」
「大方ね。でも腐っても勇者だから、侮りたくないよね」
「はい」
「ゴーレムとゾンビを向かわせてもいいんだけど、何事にも念には念を入れたいんだよ」
「では、特別な刺客を送るのですか?」
「まあ、そういうことになるね」
俺がそういうとリリアはふと考えるような仕草を見せる。
もしや、自分が……とか思ってるんだろうか……。
でも、対応はスピードが命。今ここにいる時点で無理だし。
「既に差し向けてあるよ」
「えー……」
適材適所というのがあるからね……。
「誰なんです?」
彼女は気になっている様子。
だから俺は答えた。
「働き者の彼にね。仮面も修理してたみたいだから」
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