第104話 スライムミリオネア
「で……でかい……」
俺の口から最初に出た言葉は、至極単純な感想だった。
見上げた首が疲れるくらいの大きさだ。
弾力があるのでペッタリとしているが、ビルで言う所の三階くらいの高さはあるんじゃないだろうか。
ふと、さっきまで池だった場所に目を向ける。
そこには円形の穴が出来ていて、まるで隕石でも落ちたかのようだった。
深さも結構ある。
池としては小さめだと思っていたが、こうして見ると、そこにそれだけの体積のものが収まっていた訳で……。
それがこうして地上に這い出ると、これだけ巨大なのも分かる気がする。
っていうか、なんでこんな所に、でっかいスライムが収まってるわけ??
「プゥルゥ、これって……?」
尋ねると、彼女は楽しそうに身を揺らしながら答える。
「ボクのふたごのいもうとだよ」
「いっ……妹!?」
しかも双子って言った!?
にしては見た目が……。
全然、大きさが違い過ぎるんですけど!
いくらでも分裂出来そうなのに、妹がいること自体にも驚きだ……。
「ナマエはね、パールゥっていうんだよ」
「パ……パールゥね……」
俺が名前を口に出すと、パールゥが嬉しそうにその場で跳ねる。
だが、その重量は潰されれば殺人級の重さ。
周囲の地面が激しく震動する。
「どわぁっ!? 嬉しいのは分かったから、跳ねるのは無しで!」
「ぷぷぅーっ」
パールゥは、その巨体からは想像出来ない可愛らしい声で鳴いた。
ぷぷぅーっ……って……ん?
そこで俺は違和感を覚える。
「もしかして……パールゥは人語をしゃべれないのか?」
「ぷぅぷぅ」
でっかいゼリーが傾いて頷く。
「パールゥだけじゃないよ。スライムはみんなしゃべれないから」
そう言ってきたのはプゥルゥだ。
彼女は普通にしゃべってたから意外に感じたけど、プゥルゥの方が特別なのか。
「ボクはチノウにトッカしてシンカしたスライムなんだ」
なるほど、だから配下をまとめることができ、四天王という立場にあるわけか。
しかし双子で、どうしてそこまでの違いが出てしまったんだろうか?
基本は一緒なんだけど、環境の違いで異なる結果が出たってことだろうか?
それならそれで、プゥルゥの知能に匹敵する何かがパールゥにもあるはずだが……。
って、見たまんまか。
この大きさが彼女の特別な部分だ。
となると、一つ疑問が。
「双子なのにパールゥだけ、どうしてこんなに大きくなったの?」
すると、プゥルゥが誇らしげに胸を張る。
どこが胸かは分からないけど。
「ボクたちふたごは、そろってモノをきゅうしゅうするチカラにたけてるんだ。で、ボクはチシキをきゅうしゅうしてスライムロードに。パールゥはマリョクをきゅうしゅうするチカラにたけていたからスライムミリオネアに……っていうふうに、べつべつにシンカしたんだよ」
「……」
ということは、元々はやっぱり双子らしく似た者同士だったんだ。
ちょっとの違いで、ここまで大きな変化に繋がったってわけか。
っていうか……プゥルゥって、スライムロード!?
なんかスライムなのに超強そうじゃん。
パールゥは、まさに魔力を体にたらふく溜め込んだ
魔力を溜め込む……か。
それが水の魔力だったらワンチャンありそうなんだけど……。
俺はパールゥが収まっていた窪みを覗き込む。
そこには池の底……土肌が見える。
つぶさに窺うと、その土肌が湿っているのが分かる。
パールゥの表面から染み出た水分か?
いや、でもスライムってひんやり冷たいけど、表面は案外さらっとしてるんだよな。
プゥルゥを触ったことがあるから知ってる。
ってことは……。
俺は窪みの縁に屈むと、池底に目を凝らす。
すると、
「……!」
ひび割れた土や岩の隙間から、チロチロと水が湧き出ているのが見えた。
しかも、同じようなのが池底のあちらこちらで見受けられた。
湧き水だ。
滾々と湧き出るこの水が一切、水底に貯まってないことを鑑みると、ここに収まっていたパールゥが全て吸収してしまったと考えてもおかしくはないだろう。
窪みから溢れた水が、外に流れ出たような跡も無いし。
だからこそ、あの巨体なのも頷ける。
しかし、いつからそこに嵌まっていたのかは知らないが、常に湧き続けてる水を全て吸収していた割りには体が小さい気がする。
水の中に含まれている魔力。
それを水ごと濃縮すれば、もしかして……。
俺はこの森で起きた少し前の出来事を思い出す。
そう、トントロの時と同じだ。
濃縮された魔力が結晶石となって喉に詰まっていた。
ってことは、パールゥの場合も……。
俺はガバッと立ち上がると、パールゥの表面に張り付き、体の中を隈無く探す。
「ぷ……ぷぷぅ……」
パールゥはなんだか恥ずかしそうにしているが、ちょっとばかり我慢してもらおう。
彼女の周囲を回りながら、目を凝らしていると――、
透明な体の中心に、拳大の石が一つ、浮いているのを発見した。
「あった! あれだ!!」
喜びの勢いのまま、それに手を伸ばす。
「ちょっと失礼するよ……」
柔らかいゼリー状の体に俺の腕がずぶずぶと入って行く。
そのまま石の所まで――と、思った時だった。
ばいーん!
「っあ!?」
まるでトランポリンで跳ねたように、俺の体が弾き飛ばされていた。
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