第103話 湖みたいなもの


 リリアから魔碧石を貰ったことで、俺の手元にある魔法石は魔紅石、魔黄石を加え三種類になった。



 残るは魔蒼石、ただ一つ。



 恐らく最後の一つは、水の魔力が蓄積するような場所に存在している。



 そんなわけで、俺はプゥルゥと一緒に死霊の森の中にあるという湖に向かっていた。



 なんで、……と言うのかというと、プゥルゥがそう言っていたからだ。



 どういう意味なんだろう?

 まあ、実際に行ってみれば分かるか。



 ということで、プゥルゥの先導で森を行くこと一時間。

 木々の合間に水辺が見えてきた。



「ここがそうだよ」



 彼女がそう告げてきた湖は――湖というより、池に近かった。



 それくらい、こぢんまりとした円形の池。

 直径にしたら十メートル程。



 想像していたより小さいな……。

 これでは存在している魔力の規模もそれなりのものでしか無さそうだ。



 他に水源といったら森の西側に流れる川しかないが……。

 一応、そっちにも行ってみるか。



 そういえば、プゥルゥが言ってた湖……の正体が結局分からず仕舞いだな。



 実際にこの目で見てみれば分かるかと思ったけど、目の前にしてみても、ただの池でしかなかった。



「ねえ、プゥルゥが前に言ってた湖って、どういう意味なの?」



 尋ねると、彼女は嬉しそうに身を震わせる。



「さわってみれば、わかるとおもうよ」


「……」



 触る? 水面に触れるってことだよな?



 俺はそっと水辺に近付くと、腰を屈めて水面を覗いてみる。



 透明度はかなり高い。

 水底が見えそうなくらいだ。



 しかし、おかしなことに水草や魚などの水生生物の姿が全く見受けられない。

 驚くほどクリアな水だけに不思議な光景だ。



 もしや……これは水に見えて、強力な酸の池……だったりすることはないだろうか?



 いや、でもそんなものに触ってみれば? とか、プゥルゥは勧めたりしないだろう。



 安全である可能性は高いが、不安なので側に生えている雑草を千切り、水面に落としてみる。



 パラパラっと細い葉っぱが散る。

 すると、その葉は――



 浮いた。



 当然というか、普通の光景だ。



 とりあえず強酸水とかではなさそうだ。



 ただ、不思議なのは、雑草を落としても水面に波紋が一切立たなかったことだ。



 そんな水ってあるか??



 いや、無いだろ。

 ってことは、もしかして……。



 俺は恐る恐る手を伸ばし、人差し指で水面に触れてみる。


 すると――、



 ぷるるんっ



「っ!?」



 水面が波打った。

 しかも、明らかに液体とは違う波形。



 なんというか、ゼリーのような……、



 固体!?



 それは池全体を埋め尽くす、ぷるんぷるんの物体だった。



 なんか、この感触……初めてじゃない気がするぞ……。



 俺は傍らにいるプゥルゥに目を向ける。



 そう、これは彼女と同じ感触だ。



 ということは……。

 これが、俺の想像している通りのものならば……。



 結果を思い描いた瞬間だった。



 水面がぶるんぶるんと震えだし、中央から山のように盛り上がり始めたのだ。



「なっ……」



 そのままそれは、円形の溝から、すっぽーん! と、抜け出して宙に飛び上がり――、



 びたーんっ! と、地上に降り立つ。



「こ、これは……」



 俺は目の前に現れた、ぼよんぼよんの存在を見上げる。



 それは、超巨大なスライムだった。



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