第105話 遊泳禁止


 パールゥの大きな体のど真ん中に魔法石と思しき結晶が浮いている。



 多分、それが俺の求めている魔蒼石だ。



 だから、パールゥの体の中に手を突っ込んで、そいつを取ろうとしたんだけど……。



 見事に弾かれた。



 コンニャクのような固めのゼリーで押し戻されたような感覚だ。




 全然、取れる気がしない。



「マ……マオウさま……ナ、ナナ、ナニしてるの!?」



 側にいたプゥルゥが慌てた様子で言ってくる。

 ちょっと動揺しているようにも見える。



「え……? 俺、何かマズいことやっちゃった?」



「だって……いくらマオウさまでも……それは、いきなりすぎるというか……ダイタンすぎるというか……。パールゥにもココロのじゅんびがひつようだとおもう」



「心の準備?」



 なんだそれ?



 プゥルゥは体をピンク色に染めながら身をくねらせていた。

 そのままパールゥの方へ目を向けると、彼女も同様に大きな体をピンク色に染めていた。



 あれ……? もしかして……これって……。



 彼女達の反応の理由がなんとなく分かってくると、俺も冷や汗が出てくる。



 これでも……と言ったら失礼だが、彼女達は歴とした女の子だ。

 そんな彼女の体にいきなり腕を突っ込んだ訳だから、そんな反応になってもおかしくはない。



 前にプゥルゥと一緒に風呂に入った時、彼女は目に見えない膜のようなものを服だと言っていた。



 ということは、今俺がパールゥにやったことを人間に例えると――、



 うら若き女子の服の中に無断で手を突っ込んだ……ってことになる。



 やばっ! 犯罪者じゃん俺!



 こ、これはやっぱり、ちゃんと謝っといた方がいいよな……?



「あ、あの……」



 恐る恐る二人に声を掛ける。



 すると、プゥルゥが、



「やっぱり、さわりたいなら、さわるってさきにいわないと、びっくりしちゃうよね!」



 そっちの心配かよ!



 でも……その言葉の通りにとらえれば、許可をもらえば触っていいってことになる。



 本当にそれが可能なら、魔法石を獲得出来るチャンスだ。



「えっと……ってことは、触らせてって言えばオッケーってこと……?」



 恐る恐る聞いてみる。



 すると、パールゥが小さな声で、



「ぷぅ……ぷぅ……」



 と答えた。



「いいよ! っていってるよ」



 プゥルゥが通訳してくれた。



 おおっ、言ってみるもんだな。



「じゃあ早速、お願い出来るかな?」



「ぷふぅ……」



 パールゥは消え入るような声で頷くと、体の力を抜いたのか、全体的に張りのあった体が気持ち弛んだ感じがした。



「よーし……では、今度こそ失礼して……」



 俺はさっきと同じようにパールゥの体に手を伸ばす。

 すると、



 おおっ!? さっきより柔らかい!

 なんか、ずぶずぶ入って行く感じだ。



「ぷ……ぷぅ……」



 パールゥが身をくねらせながら、なんだか艶めかしい声を漏らす。



 な、なんだろう、これ……全然そんなシチュエーションじゃないのに物凄く背徳感を覚える。



 と、そんな事を気にしている場合じゃない。

 魔法石を取らないと。



 しかし、手を思い切り伸ばすが、とても届くような距離じゃない。

 そんなことをしているうちに、



 ずぶっ



 体ごとパールゥの中に入ってしまった。



 うお!? 入っちゃった……。



 あ……でも、この感じ……泳げそうだぞ……?



 そう思った俺は平泳ぎでパールゥの内部を進む。

 ただ、普通の水と違って、やや粘性があるみたいで、泳いでもなかなか思うように進まない。



 そのうちに……。



 むぐっ……い、息が……持たない。



 俺は慌てて反転し――、



「ぶはあっ!」



 外の世界へと転がり出た。



 ふぃー……死ぬかと思った。



 魔法石はというと、


 当然だが未だパールゥの中で漂っていた。

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