第74話 瞬足くん
新レシピとステータスの確認を終えた俺は、城の門前へと出ていた。
シャルと一緒に
安定的に食材を得る為に、最低でも二十頭くらいは捕まえたいなーなんて思っていると、城の方から彼女の声が聞こえてくる。
「魔王様ーっ」
シャルが手を振りながら小走りで近付いてくる。
フリフリのドレスを揺らして俺の目の前で立ち止まると、申し訳無さそうな表情を見せる。
「ごめーん、待った?」
「いや、俺も今、来たばかりだから」
「そう? 良かったー」
それで彼女はホッとした笑みを見せた。
「……」
なんだろう……このデートの待ち合わせみたいな展開は……。
「私ね、魔王様とお出かけするってだけで嬉しくなっちゃうんだ」
「そ……それは良かった」
「それで今回は何を探しに行くの?」
「
「
「おお、それは頼もしいな」
彼女は、ふふんと誇らしげに胸を張る。
「じゃあ、早速そこへ案内してもらおうかな」
俺がそのやる気に乗っかると、彼女は「その前に」と呼び止めた。
「この前、魔王様に頼まれてたアレ、出来たよ」
「アレ……って、もしかして、アレのことか?」
俺が彼女に頼んだものといえば最近ではアレしかない。
勇者のゾンビ化だ。
「うん、結構いい感じに出来たと思うんだ。だから魔王様に見てもらいたいの」
「ああ、勿論。見るよ」
「わーい、じゃあ呼ぶね」
「え……呼ぶ?」
近くにいるのか?
そう思って辺りを見回すが、森と城があるだけで人影は見当たらない。
するとそこで、シャルが声を上げた。
「おーい、瞬足くーん」
まるで「お茶でも持ってきて」みたいな気軽な感じで呼ぶと、森の木々がザワザワと揺れ始める。
直後、俺達の目の前を突風が駆け抜けた。
「!?」
舞い上がった土煙が落ち着くと、その向こう側に人影が現れる。
それは紛れも無く、勇者――――じゃなくて、ゾンビだった!
正確には、ゾンビ勇者。
確かに顔立ちは以前に相対したアレクそのものだが……。
肌は青白いし、目は虚ろだし、口元からは涎が垂れてるしで……もう勇者としての輝かしさは微塵も無い。
それに、さっきから「グゲゲェ……」と言葉にならない声を発していた。
「どう? いい感じでしょ?」
シャルがニコニコしながら尋ねてくる。
どう……って言われても、「うわぁ……」としか言いようが無い。
頼んだのは俺だけどさ。
「そ、そうだね……」
俺は渇いた笑みを浮かべながら肯定する。
それと、気になったのは彼の服。
そこに白銀の鎧は無く、代わりにカラスの羽根のようなものが全身にくっついててフサフサしていた。
これって、シャルのゴスロリファッションと併せて並ぶと、ヴィジュアル系ゾンビロックバンドみたいな雰囲気があるぞ……。
周囲にゾンビ達を配置したら尚更そんな感じがしてくる。
「そういえばさっき……瞬足くんって呼んでたけど?」
「うん、足が速いから瞬足くん。分かり易いでしょ?」
「まあ……そうだな」
名前で呼ぶ気にもならないし、結局そういうふうになるか。
俺もその名前で呼ぶことになりそうだな。
「そういや、ゾンビになってもスキルがちゃんと継承されてるみたいだね」
「魔王様がそういうのをイメージしてたみたいだから、そうなるように頑張って作ったんだよ」
「えっ、普通のゾンビの作り方と違うの?」
「生前の特性や能力を残しつつゾンビにするのには、
「ほー……凄いんだね」
俺は感心したように唸った。
すると彼女は照れ臭そうにしながら、
「あわわ……凝り性なだけだよっ」
すると彼女は気を取り直したように向き直る。
「それで、この瞬足くんなんだけど、私だけじゃなく、魔王様が指示しても命令通り動くようにしておいたからね」
「おお、それは助かる」
「頭で想像できることは大体、実行できると思うよ」
「えー、例えば逆立ちして歩け! って言ったらやってくれるの?」
そんなふうに冗談で言ってみたところ……。
彼が「グゲェ……」って言いながら、既に目の前でそれをやってた。
「うわ、マジでやってる!?」
そのフレキシブルさに驚いていると、シャルが得意気に言ってくる。
「それくらいは簡単、簡単。私の作るゾンビは、もっと柔軟な発想にも対応できるよ」
「そうなの……?」
「例えば……空を飛びながら三回まわってピヨピヨと鳴いて! とか」
えっ、さすがに空を飛ぶのは……と思った直後、
瞬足くんは森の中へ入って行き、得意の瞬足で木の幹を蹴った。
その反動で空へ舞い上がる。
まるで鳥の羽のように腕を羽ばたかせ、空中で三回転。
そのまま、
「ピヨピヨ……」
と鳴いた。
「……」
なんかもう……どんな無茶でも聞いてくれそうだな。
そうなると、色々試したくなっている俺がいた。
ならこれならどうだ。
「早口言葉をやって!」
「なまむぎ、なまごめ、なまたまご……あおまきがみ、あかまきがみ、きまきゃぎゃぎゃ……グゲェ……」
運動能力以外でも行けるんだな……。
最後、噛んでるけど!
でも、さすがにこれは……出来ないだろう。
「落語やって!」
「えー……マイド、ばかばかしいおワライをイッセキ……グゲェ」
「……」
その現代知識どっから来た!?
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