第75話 企みと森の秘密
「えっ……なんでこの世界に無い知識でしゃべってんの?」
俺はびっくりしていた。
早口言葉もそうだけど、こちらは何も伝えた覚えは無いのに、瞬足くんが落語を始める時のお決まりフレーズを口にしたからだ。
「それは魔王様の知識をベースにしゃべってるからだよ」
シャルが楽しそうに言った。
「俺の知識? まさか……頭の中身がこいつに筒抜けとか??」
「そういうことは絶対無いよ。瞬足くんは死人だから頭の中は空っぽ。基本的な動作以外は自分で何かを考えることなんて出来ないから。その代わり命令した人の意志を霊的なエネルギーで伝えることが出来るの」
霊的!?
こんな所でそんな話が出てくるとは……。
でも実際問題、この世界には死霊の類いが存在している訳で、そういう力があってもおかしくはない。
「極々限定的なアストラル体の憑依みたいな感じかな」
「は、はあ……」
理屈はアレな感じだけど、実際にそういうものがあるわけだから、そういうことなのだろう。
シャルの言ってることを整理すると多分こうだ。
例えば誰かに、とある花を取ってきて欲しい場合、その特徴や名前や採れる場所を説明しないといけないが、瞬足くんの場合は、その情報を俺が予め知ってさえいれば命令のみで動いてくれるのだ。
「ってことは、いちいち説明しなくても、その通りすぐに動いてくれるってわけか」
「そういうこと。便利でしょ?」
「ああ、便利だ」
自発的に考えることの出来ない者に命令をするとなると、そういう方法を取るのが最適なんだろうな。
しかし、この瞬足くん……。
どんなふうに活用するか迷ってたけど、今いいことを思い付いた。
その計画を実行に移すには、あの金ダライを作れるようにしとかないとな。
その為には魔黄石と魔蒼石、そして魔碧石を手に入れる必要がある。
「ふふっ……」
まだ見ぬ先の事を考えると、自ずと企みに満ちた笑みが溢れる。
「魔王様?」
悦に入り込みすぎていたんだろうな。
シャルが不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「っと、ごめん、ごめん。瞬足くん、良い仕上がりだね」
「うん、私の作品の中で五本の指に入る傑作だよ」
「そりゃすごい」
「う、うん」
シャルは照れ臭そうに頷いた。
「それで、この瞬足くんは何に使うの?」
作った本人としても気になる様子。
「丁度今、使い道を思い付いたんだけど、準備が整うまではまだ出番が無さそうだから、とりあえず今は、森の外周をひたすら走っててもらおうかと」
「え……」
「この足で周回してれば、それなりの警備にはなるかなあーなんて」
「あーそれはいいかも。用事があればすぐに呼び出せるしね」
「じゃあ、これを……」
シャルが納得したところで、俺はメダマンを取り出す。
カサカサ動き出したメダマンは、瞬足くんの体をよじ登り、彼の右目に張り付く。
そのまま肉に食い込み寄生してゆく様は、相変わらずキモい。
ともあれ、これで何かあってもすぐに様子を探ることが出来る。
メダマンの寄生を確認すると、俺は瞬足くんに命令する。
「死霊の森の外周を走りながら警備を命ずる」
「グゲェェ……」
だがゾンビは疲れ知らずとはいえ、シャルの傑作が破損したら大変だ。
だから一定の時間ごとに休憩を挟むことを付け加えた。
「グゲゲェ」
伝えた途端、彼は光の速さ……というには言い過ぎか……。
そのくらいに感じる速さでこの場から消え去った。
「さて、瞬足くんはあれでいいとして、俺達は当初の予定通り、
「わーい」
シャルは俺と出かけるのが相当嬉しいのか、両手を上げて喜んだ。
「ピクニック♪ ピクニック♪ 魔王様とピクニック♪」
「だからピクニックじゃないって」
食材探しの時もそうだったけど、すぐピクニックにしたがるんだよな。
まあいいけど。
「それで、さっき言ってた
「魔獣の森だよ」
「えっ……目の前にある死霊の森じゃないの?」
するとシャルはきょとんとした顔をする。
「うん、この森のことだよ」
「ん?」
「ん??」
二人して顔を見合わせた。
と、そこで彼女が「あ……」と声を漏らした。
説明が足りなかったことに今頃気付いたのだ。
「えっと、この森全体は死霊の森で間違い無いんだけど、その中に魔獣が多く生息する区域と、幻精が多く生息する区域があるの。あとゾンビ達がいる区域ね。その区域のことをそれぞれ魔獣の森、幻精の森、死人の森って呼んでるんだよ」
「ほう……そうなんだ」
今初めて知った。
しかし、その名称から察するに……もしかして……。
「魔獣の森とか、幻精の森とかって、もしかしてキャスパーやプゥルゥに関係ある?」
「うん、そうだよ。魔獣の森にはキャスパーが統制する魔獣達が住んでて、幻精の森にはプゥルゥの指揮下にある幻精達が暮らしてる」
なるほど、四天王が魔団長を名乗っているのに対して、魔王城にその指揮下にある者達の姿が見えないなあーと思ってたら、そこにいたのか。
「あれ? じゃあイリスの部下は?」
「邪竜達は火山だよ」
シャルが北の方角を見遣る。
あの山にいるの、イフドラ家族だけじゃなかったんだ……。
そんなふうに納得したところで、一つ気になることが。
「で、その魔獣の森なんだけど、キャスパーに断り無しに行っても大丈夫なの?」
「全然平気、みんな友達だから。それに森に境界があるわけじゃないし、自由に行き来してるから」
「そう……」
なんか軽い感じなのね。
なら改めて……。
「じゃあ、そこへ行こうか」
「うん、行こう行こう! わーい」
彼女は嬉しそうに走り出した。
だが――、
「あうっ!?」
勢い余ってコケた。
というか、足がもげた。
「あ……」
俺はもげた右足を慌てて拾い、付けてやる。
「あ、ありがとう……」
「ど、どういたしまして」
相変わらず良くもげるなあ……。
でも、そんな状況に大分慣れてきた俺がいた。
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