第133話 新ラデス帝国誕生


 魔王城2を建てる計画を語った俺は、視線を画面へと戻す。

 瞬足くんの目線だ。



 最後の仕上げというか、後始末をしないといけないからな。



 城があった場所を呆然と見詰めるラウラに近付くと、こう話しかける。



「今更だが、これでよかったのか?」

「ん……」



 彼女はこちらに振り向き、笑みを見せる。



「もちろんじゃ。これでこの国は変わる。新しいラデスの夜明けじゃ。というか、あれは一体何だったのじゃ? 城を一瞬にして吹き飛ばすほどの物凄い力……魔王様は妾の想像を超えたとんでもないお力を持っておられるようじゃ」



「ああ、あれね。あれはただの金ダライさ」

「か……金ダライ……?」



 よもや金ダライ一つで城が消滅したとは、どうにも信じがたいようで彼女は思考停止したように空中の一点を見詰めていた。



「と、そうだ。俺が話したいのはこれからの事だ」

「ん?」



「まだ民は目の前の現実を受け入れ切れていない状態だからな」

「確かに……」



 配給を受けていた民の方へ目を向けると、皆、消失した城の方を見て呆然としている。

 何が起こったのか、受容するのに時間が掛かっているようだ。



「ラウラが次期国王として宣言をするには、今が絶好のタイミングだろう」

「なるほど、そうじゃな。だが……せっかくなので妾は魔王様に統治をお願いしたいと思っておるのじゃ。魔王様なら、さぞ良い政を行ってくれるとじゃろうと……」



「それはさすがに駄目だ。魔王が統治すると言って納得する人間はいないだろうからな」

「むむ……」



 ラウラは非常に残念そうな表情を見せた。



「民はラウラだからこそついてくる。俺は陰で牛耳っているくらいが丁度良い」

「ふむ……結果的には魔王様の国であることには変わりは無い。それで良いのかもしれぬな。分かったのじゃ」



 納得したのか、彼女は民の前へと進み出る。

 そして、その小さな体からは想像出来ない声を張り上げた。



「皆の者、妾の言葉に耳を傾けるがよい」



 何事かと民が一斉に彼女の方へ振り向く。

 そのタイミングでラウラは語り始める。



「天空より飛来したあれは神の鉄槌に他ならない。今まさに悪の限りを尽くしてきたラデス皇帝に神罰が下されたのじゃ。もう皆は、虐げられた生活を送る必要は微塵も無くなった。自らの幸せの為に生きる時が来たのじゃ」



「おおぉ……」



 そこかしこで感嘆の声が漏れ始める。



「ラデス帝国は今を以て滅んだ。これからは妾が新しいラデスを作り上げてゆく。皆が豊かに暮らせる国を。この妾に付いてきてくれるじゃろうか?」



「もちろんですとも!」

「ラウラ様の為ならばどこまでも!」

「姫様、万歳!」

「おおーっ!」



 辺りは一気に歓声に包まれた。



 これだけ国民の心を掴んでいれば大丈夫そうだな。



 そんな中、炊き出しや配給に駆り出されていた兵士達はその様子を呆然と見詰めていた。



 彼らはピコピコハンマーの効力がある以上、ラウラに反発すればするほど協力的になるし、逆に改心して彼女に付いて行こうとすれば離れて行くだけだし、そのままにしておいても特に害は無さそうだった。



 というわけで、新生ラデス帝国に目処が付きそうだ。



 なら、そろそろ瞬足くんを帰還させよう。



 瞬足くんが背負っていた麻袋。

 出発の時はパンパンに膨れていたのに、色々使ったから今ではすっかり萎んでしまったし。




          ◇




 民の興奮が落ち着いた頃合い。

 皆がそれぞれの家に戻り、この地が再びただの荒野の景色に戻った時だ。



 俺はこの地を立つ前に、ラウラに声をかけた。



「では、俺はこれで魔王城に戻る。城を再建する準備が整ったらまた連絡する」

「え? もう帰るのか?」



「色々、やらなければいけないことがあるんでね」



 するとラウラは悲しそうな顔をする。



「私も連れて行って欲しいのじゃ……」

「ラウラは、この国を立て直す役目があるだろ」



「それはそうなのじゃが……魔王様に一目お会いしたかったのじゃ……」



 彼女は言いながら瞬足くんの目の奥を覗く。



「まあ、それはまたの機会に」

「うむ……仕方が無いのう」

「じゃ、そういうことで」



 それで瞬足くんが足を進めようとした時だ。



「あと……」

「まだ何か?」



 ラウラは照れ臭そうにしながら言ってくる。



「祝言の日取りは……いつが良いかのお?」

「しゅ……祝言!?」



 そ、そういえば……側室に取る約束をしたんだっけか……。



「え、えーと……それについてもまた後で……」

「そうか、待っておるぞ!」

「あ、ああ……」



その時、ニッコリ笑顔を返してくる彼女の頭上に★が飛び出すのを見た。



「お……」

「ん? なんじゃ?」

「いや、なんでも……」



 それ以上は何も言えなかった。



「さて、では今度こそ帰りますか!」



 瞬足くんの目が地平線まで続く青空を捉える。



「方角は北東。目標、魔王城」



 その方向に体の向きを変え、遙か先に目的地を見据えた時――、



 景色が光に変わった。



 瞬足スキルが発動したのだった。




                             〈環境構築編 了〉



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