第117話 顛末
時間は少し前まで遡る。
瞬足くんは今、空から降って来た火の玉に追われていた。
「ぬぉぉぉっ! 瞬足くん、そいつを振り切るんだ! お前なら出来る!」
俺は興奮の声を上げた。
玉座の間に広げた画面で、加速する彼の行く末をモニタリングしていたのだ。
周囲には配下の者達も集まっていて、瞬足くんのことを固唾を呑んで見守っている。
なぜ、こんな状況になっているのか?
瞬足くんがこの地を出発してすぐ、俺は彼に寄生しているメダマンを使ってモニタリングを開始していた。
瞬足くん視点の映像は、彼の走り合わせて若干揺れるので、じっと見つめていると酔いそうになったが、物凄い速度で左右を流れる景色は疾走感があって、とても爽快だった。
やべっ、これ楽しい!
ずっと見てられるかも!
なんて思いながら、二時間ぐらいが経った時だった。
メダマンに搭載されている高感度集音マイクが異音を捉えたのだ。
ゴゴゴゴゴゴ……。
なんていう不穏な音が瞬足くんの背後から聞こえてくる。
試しに彼に頼んで後方に振り返ってもらうと、上空にこの火の玉が迫っていたのだ。
しかもこの火の玉、メダマンの機能でズームアップしてみると、燃えさかる炎の中心に見覚えのある形が見えてくる。
そう、金ダライだ。
まさか今頃、あのウルトラ金ダライが降ってきたのか!?
しかも、なんでこの場に!?
そう驚愕したのが、まさに今だった。
ノーマルやスーパー金ダライでも実験したが、両方共ただ落下するだけの罠だった。
なのにも拘わらず、このウルトラ金ダライは明らかに瞬足くんを追って来ている。
追尾機能が付いてるのか?
床スイッチを踏んだ者を追うとか、そんな感じの……。
相変わらず
まあ、いつもの事だし、飛んで行って帰ってこなかった時から、何かあるんだろうなーとは思ってたけど……。まさか、こんな形で戻って来るとはな……。
瞬足くんがスイッチを踏んでから大分時間差があったのは、相当な高度にまで上がったからなんだろうけど、それにしても遅すぎる気がする。
もしやとは思うが、あの火の玉と化した感じ……大気圏外に出て惑星を一周、そのまま良い感じの進入角度で重力圏に再突入したってところか?
理由はどうであれ、このままアレが瞬足くんに激突したら、いくら不死のゾンビでも肉片すら残らないだろう。
それは避けたい。
今の所、一定の距離を保っているが、じわじわと瞬足くんに近付いている。
このままじゃ、ジリ貧だ。
ラデスに着く前に御陀仏になってる可能性が高い。
そうなる前になんとかしないと。
とりあえず、相手を知らなければ対処が出来ない。
試してみるか……。
「瞬足くん、後方を確認しながら左右に回避行動を行ってみてくれ」
「グゲェェ」
返答の後、画面が左右に振れる。
すると案の定、彼の動きに合わせて金ダライも軌道を変えてくる。
「やっぱり……」
かなり高性能な追尾機能だ。
いい加減、地上に激突してもいい角度なのに、しつこく落ちずにいる。
それは寧ろ、瞬足くんを追っているからこそ落下せずにいるのだ。
こういう場面、漫画とかアニメでもよく見掛けるよなー。
その場合、大体、皆あの方法で切り抜けてる。
障害物のギリギリを走り抜けて、そいつにぶつける方法だ。
追尾機能の精度がどこまでのものかにも寄るけど、試してみる価値はある。
じゃあ、その障害物は――って話だけど……。
瞬足くん目線でも辺りを見渡しても、前方には広大な平原が広がっているだけで、障害物らしいものは何も見当たらない。
駄目じゃん!
小高い丘の一つでもあれば上手く行きそうなのに……。
やる前から計画倒れか。
と、落胆していたら、遙か遠くの地平で何かが光ったような気がした。
ん? 何だ?
「瞬足くん、南西の方角に何かある。そっちをズームしてみてくれ」
「グゲェ」
メダマンと連動して、その方角がズームアップされる。
そこに映っていたのは、白銀の鎧を纏った一行だった。
「光ったのは、あの鎧か……しかも見覚えがあるぞ」
鎧の一部にラデス帝国の紋章が刻まれていたのだ。
勇者か!
一、二、三、四……七人もいるぞ!?
しかも、これ全部、方角的に魔王城に向かってる途中じゃね?
やっば、もうこんな所まで攻めて来てたのか。
「ん……」
と、そこで俺はニヤリと微笑む。
なんだ、良い障害物があるじゃないか。
あの勇者達の真ん中を瞬足くんに突っ切ってもらえば、ウルトラ金ダライは追尾仕切れずに勇者達に激突するに違い無い。
それに彼らとは、どの道やり合わなくてはならないのだから、今のうちに対処しておいた方がいいだろう。
よし、その方法で行こう。
「瞬足くん、南西の方角に転換。勇者達の間を出来るだけ低い体勢で駆け抜けろ!」
「グゲェッ!」
瞬足くんは、やる気を見せるように大きな声を上げた。
モニター上の景色が動く。
方向が変わり、再加速。
段々と視界が低くなって行く。
前方に勇者の一団をロックオン。
段々近付いてくるのが分かるが、まだこちらに気が付いていない様子。
と、思っていたら、一団の中にいるマッチョな勇者が瞬足くんの方を指差しているのが見えた。
だが、もう遅い。
勇者達の表情が凍り付いた瞬間、瞬足くんの視界からは、彼らの姿は既に過ぎ去っていた。
直後、
チュドォォォォォォォンッ
背中側から爆発音と閃光が届く。
確認の為に、瞬足くんに振り返らせると、そこには地上から爆炎が上がっている光景があった。
画面に映し出されたその様子を見ながら、俺は唖然としていた。
「威力、やっ……ば……」
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