第118話 計算
遙か彼方の平原で黒煙が上がっている。
ウルトラ金ダライが地上を穿ったのだ。
俺は瞬足くんの足を止めさせ、その様子をモニター上で観察していた。
これは……想像を遙かに超える破壊力だぞ……。
遠目から見ても、とんでもない事になっているのが分かる。
そりゃ、そうなるだろうよ!
それって火炎放射器の説明書きに『蚊も一撃で殺せます』って書いてあるようなもんだ。
間違っちゃいないけど、言い方ってもんがあるだろうよ!
実際は、ぺしゃんこ所の話じゃなくなってそうだけど……。
ということで、現場を確認しておく必要がありそうだ。
多分というか……あれだけの威力だから、そんな事は万の一つも無いだろうけど、勇者が生き残っていたら困るし。
あと、どの程度の破壊力なのかも改めて間近で確認しておきたい。
ウルトラ金ダライの今後の扱い方の指標になると思うので。
そんな訳で、俺は瞬足くんに指示を出す。
「金ダライの落下現場まで戻ってくれるかい?」
「グゲゲ」
返事をすると、彼は一瞬で落下地点に到達する。
相変わらず、速っ……。
そんな彼の目線から送られてくる映像は、息を飲むような光景だった。
足元に直径三十メートルほどのクレーターが出来上がっていたのだ。
所々は未だ煙が立ち上り、燻っている箇所もある。
「……」
クレーターはすり鉢状に窪んでいて、ミルクレープをナイフで切ったような滑らかな地層が剥き出しになっている。
そこに勇者の痕跡は何一つ残っていなかった。
欠片も残らず消し飛んでしまったってことか?
あの爆炎だと、一瞬で蒸発してしまったって感じだろうか……。
想像すると、自分でも恐ろしくなってくる。
画面を見ながらしみじみ考えていると、キャスパーが口を開く。
「大勢の勇者を一度に仕留めてしまうとは……なんというお力……」
彼は感服して、その猫耳を垂れていた。
するとその横でアイルが言う。
「あの時のタライはこの為のものだったのですね! このような大胆な罠をあの段階で計画なさっていたとは思いも寄りませんでした」
「……」
ちょっと待て! ウルトラ金ダライが空に上って行ったまま行方不明になったのを一緒に見てたよね? どうしてそんな考えに至った!?
結果的に勇者達を仕留められたのは良かったが、金ダライは扱いが非常に難しい。
今後の使用で精度を高める為にも、今のうちに威力の範囲を把握しておいた方がいいだろうな。
今回のウルトラ金ダライ、落下速度や高度に比例して威力も高まった可能性があるし。
瞬足くんにクレーターの内側に降りてもらい辺りを見回してもらう。
やはり何も無い。
ウルトラ金ダライは完全に消滅したようだ。
勇者達も装備諸共、塵と消えてしまうくらいだから、金ダライだって残りはしないだろう。
ノーマルやスーパーの金ダライは再利用可能だったが、ウルトラ以上は使い切りになりそうだ。
となると、出来るだけ素材を節約しないとな。
という訳でウルトラは消えて無くなってしまったので、スーパーで実験してみたいと思う。
保険の為に瞬足くんの荷物の中に忍ばせておいたのだ。
アルティメット金ダライとピッタリ重ねられるので収納にも無駄が無いし、持っておいても損は無いかなぁなんて思って入れておいたんだけど、役に立つ時が来た。
しかし……本来は、まずそっちから試すべきだったな……と今更ながらに反省する。
と、そのことはさておき、瞬足くんにスーパー金ダライと床スイッチを出してもらい、地上に設置する。
以前、ダンジョン内で使用した際、スーパー金ダライは床ブロック十個分くらいの範囲に亀裂が走った。
ダンジョンの天井までの高さは約三メートル。
今回はその約三倍である十メートルくらいから落としたら、重力加速によって威力にどれくらいの違いが出るのか見てみることにする。
例によって床スイッチの上にスーパー金ダライが置かれると、ゆっくりと上昇を開始する。
目測なので、およそになってしまうが十メートルくらいの高さに上がったところで瞬足くんに床スイッチを踏んでもらうことにした。
ドスン
金ダライが地面に突き刺さる。
地面の硬さや素材の違いもあるが、亀裂の範囲が広くなった気がする。
確かに高度に応じて威力が増してる感が有る。
この結果を踏まえて推測してみよう。
ブツブツ言い出した俺のことをアイル達が不思議そうに見ていたが、今は気にしない。
さて、ウルトラ金ダライが飛んで行った場所が、人工衛星などが浮かぶ低軌道上だと仮定して、そこまでの高度が地球基準だと約二千キロメートル。
さっきの高さ十メートルでの威力を踏まえて、三メートルとの比率で計算して行くと高度二千キロからの落下では、恐らく被害範囲は……直径約十メートル。
もちろんそれ以外の条件も重なるし、かなり大雑把な計算だけど。
それによって威力範囲が分かれば、金ダライがかなり扱い易くなるはず。
あとは実際に、その結果が出るか試してみたい。
出来るだけ先程と条件を合わせる為に、スーパー金ダライを低軌道上まで上げてみた。
そして瞬足くんに床スイッチを踏んでもらう。
スーパーには追尾機能は無いので、安全な場所に離れて待つ。
数時間後――。
すっかり日も暮れて辺りは真っ暗になっていた。
ウルトラ金ダライが落下してきたのと同程度の時間が経ったと思う。
そろそろ、落ちてきても言い頃合いだけど……。
一向にその様子が無い!
「どうしたんでしょうねぇ……?」
アイルが心配そうに画面に映し出された夜空を眺めていた。
そんな時分、彼女が指を差しながら声を上げた。
「あっ、流れ星!」
夜空に一筋の光が煌めいて消えた。
「綺麗ですね……」
「……」
確かに綺麗だ……。
俺は儚い光の流れに目を奪われる――。
「って……今のがスーパー金ダライじゃね!?」
ウルトラが地上で塵になってしまうくらいだ。
スーパーなら大気圏で燃え尽きてしまってもおかしくはない。
「だよねー……」
やる前に気づけよ俺!
素材と時間を無駄にしてしまった!
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