第119話 ラデスに着いたけど?


 スーパー金ダライが夜空でお星様になった翌朝、改めてラデス帝国に向け、瞬足くんを出発させた。



 休憩を適度に取りながら走り続け、彼がラデスの帝都へと辿り着いたのは、丸一日経った頃だった。



 瞬足くんが今、立っている場所は、帝都から少し離れた所にある小高い岩場の上。

 そこからは帝都の町並みを一望することが出来る。



 町並みと言ってもそこに穏やかな雰囲気は無く、堅牢な鉄扉と高い石壁で囲まれた、まるで要塞とでも呼べるような場所だった。



 見るからに息苦しい感じがする都である。



 そんな帝都を見下ろすように、小さな山を背にして建っているのがラデス帝国の皇城だった。



 さて、着くには着いたが……。



 当初の予定では、リリアの死を告げる事と、帝国の調査が目的だったけど……ここに来る途中でラデスの勇者をまとめて倒してしまった。



 せっかくだから、それを出しに脅しをかけることは出来ないだろうか?



 いきなり七人……いや、リリアを含めたら八人か。

 それだけの勇者を失ったと知れば、帝国の戦意を削ぐことが出来るかもしれない。



 しかもだ。

 密かに城内へ侵入し、皇帝の目の前でそれを突き付ければその効果は倍増する。

 城の防衛が無力であると知らしめることになるし、魔王の力を示すことにもなる。



 侵入には、瞬足くんの能力とリリアに書いてもらった城内見取り図、それから所持しているアイテムがあれば充分可能だろう。



 でもその前に、外側から帝都の様子を探っておいた方がいい。

 事を始めてしまってからでは動き難くなるだろうし。



 そんな訳でいつも重宝しているメダマンの超望遠機能を使い、この場から町の様子を覗き見てみることにした。



 まずは、そうだな……。



 帝都への入り口から見ていこう。



 町を囲む高い石壁。その南に城門のように頑丈そうな鉄扉がある。

 そこへズームアップ。



 すると画面に映し出されたのは行き交う人々の姿だった。

 どうやらそこが帝都内へ向かうメインの入り口らしい。



 鉄扉は開け放たれていて、然程往来は多くないが、町の外からやって来る者や出てゆく者の姿が窺えた。



 ただ、そこには門番が複数人常駐していて、人々の手荷物や馬車の中を検めている姿があった。



 石壁の上にも数人の兵士が立っていて、この場所は非常に監視が厳しそうだ。



 リリアの情報によると、このような門は西と東にもあるという。

 しかし、東のも同程度の警備が敷かれているらしく、その場所から入るのは厳しいらしい。



 彼女が言うには比較的警備が手薄の西門がお勧めらしいが、瞬足くんが立っているこの岩場からは残念ながら位置的にその様子は窺えない。

 あとで場所を移動する必要がありそうだ。



「他にここからで確認出来そうな場所は……っと」



 情報を得ようと画面に目を凝らしていると、不意に俺の近くで声が上がった。



「魔王様、あそこ! 瞬足くんに今映った所を見てもらって」



 そう言ってきたのはシャルだった。

 彼女は画面上の一点を指差していた。



「何? そこに何かあるの?」



 シャルの指先にあるのは民家の屋根だった。



 ん? 何の変哲も無い、普通の家の屋根にしか見えないけど?

 そんな場所にも監視の目があったりするのか?

 帝国の警備は、そこまで厳重?



 とりあえず、彼女が指摘する場所を瞬足くんにズームアップしてもらった。



 すぐに画面一杯に民家の屋根が拡大表示される。



 そこに映し出されたのは――。




「ニャ~」




 猫だった!



「……」



 毛色は全身真っ白。

 自分の体を舌でペロペロしていて、丁度、毛繕いの真っ最中。



「あーやっぱり猫ちゃんだ。モフモフのフワフワで可愛いなあ……」



 シャルはうっとりしながら、画面に映る猫の愛らしさに恍惚の表情を浮かべている。



「あー……確かにこれは結構な美猫だね……って、そうじゃないだろうよ!」

「ん?」



 彼女は俺の突っ込みにきょとんとしていた。



「え……今ってラデスの風景を眺めて楽しむ時間じゃないの?」

「違うわっ!」



 確かに瞬足くんのお陰で、世界のお手軽観光が可能になったかもしれないけどさ……。



「フォーッ!!」



「今度は何だ!?」



 突然、俺の背後で変な叫び声が上がって、ビクッとなった。



 振り向くとキャスパーが、らしからぬ興奮の面持ちで画面に釘付けになっていた。

 そして、こう呟く。



「なんと……美しい女性でしょう……。このような胸が締め付けられるような気持ちになったのは、いつ振りでしょうか……」



 恋してたっ!



 まあ……キャスパーも一応、猫獣人ではあるけどさ……。

 ってか、あの猫、メスなんだ……。



「というか、今はそういう時間じゃなくて、侵入経路を確認している所なんだけど……」



 少し慌て気味に言うと、



「あっ……!」



 今度はリリアが驚いたように声を上げた。



「今度は何?」



 彼女は前まで出て来ると、画面にかぶり付く。

 少し様子が変だ。



「魔王様……ここ……ここをお願いします!」



 彼女が指摘してきたのは、先程まで見ていた南門の辺りだ。



 そこに何があるというのだろう。

 ぞろぞろと町へやって来る人の姿があるだけだが……。



 ともかく、その場所を拡大してみる。



「……っ!?」



 そこが表示された途端、リリアの表情が凍り付いた。



 そこには手枷を嵌められたエルフ達が列を成し、帝都へ連行されて行く姿があったのだ。

 皆、沈鬱な表情で俯きながらトボトボと歩いている。



「長老……! ハミル! ケイト! 姉様も……!」



 知っている者達なのだろう。次々と名前が出てくる。

 動揺している彼女の様子から、彼らはリリアの村の者達らしい。



「どうして……こんな……」



 リリアは困惑を深めていた。



 自分の死を伝える前に、どうしてエルフ達がこのような扱いを受けているのか?



 そこで俺は、考え得る予想を呟く。



「恐らく……見せしめだろうな」



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