第215話 ピリピリ


 ダンジョン内がピリピリした雰囲気に包まれていた。

 ラウラがやってきたことで皆の心情に変化をもたらしたようだ。



 そんな中、ラウラ自身は我関せずといった様子。



「それで魔王様の正妻はどの方なのじゃ?」



 彼女は集まっていた皆を見渡しながら言った。


「!?」

「!」

「!」

「!!」

「?」



 何人かが敏感に反応する。



 それはラウラにとって何気ない一言だったのかもしれないが、これが騒動を巻き起こすことになろうとは……。



そもそもラウラとは側室の約束をしていた。

 だから、その発言は間違ってはいない。



 でも、だからといって正妻が存在するわけでもないのが現状。



 なんだかピリピリムードが増してきたな……。

 なんとか、この場を穏便に済ませないと。



「えーと……実は正妻とかそういうのは設けていないんだ」

「なんと!?」



 ラウラが目を丸くした。



「ということは……側室である妾が実質、正妻!?」

「なんでそう思った!?」



 ピキピキ



「そうじゃな……それでいうとプゥルゥとパールゥも同じ条件が当て嵌まってしまうな……」

「そうそう、側室というのは皆仲良く平等にという思いが込められた、ある種の役職名みたいなものなんだ」



 自分でもどうだろうと思うくらいの苦しい言い訳だが……。



「ということは、ここにいる皆が皆、側室ということじゃな」

「そうそう、そういうこと」



 よし! なんかよく分からないが、良い具合にまとまりそうだ。



 ピキピキ



 そんな時だった。



「魔王様」

「ん? どうしたの? アイル」



「平等ということは良い事ですが、私共の中でも、やはり誰かが上に立たねば、統制が取れなくなってしまいます」

「まあ、そうだね。その為の魔団参謀だしね」



 するとアイルの表情が急に明るくなる。



「ええ! そうです! 平等の中にも序列は必要です!」



 彼女は生き生きとし始めて、他の皆に自分をアピールしだす。

 魔団参謀は側室の中でも特別なんだと言いたげな様子。



 アイルが鼻を高くしていると、ラウラもそれに同意するような態度を見せる。



「なるほど、それは確かにそうじゃな。ある程度の序列が決まっていなければ、事が上手く運ばぬこともあるじゃろうし、なにより魔王様に手間を取らせることになるやもしれぬ。四天王というものがあると聞いておったが、それも序列の一つじゃろうな」



 それで四天王達は互いに顔を見合わせた。



「ということは、今回、妾がそこに加わるということは、この機会に四天王及び、魔団参謀の配置の見直しを行った方が良いということじゃな」



「え……」



 アイルは口を開けたまま、ぽかんとしていた。



 他の皆もそんな事、考えてもみなかったのだろう。

 唖然とした様子だった。



「アイル殿は良いこと言ったのお。という訳じゃから魔王様、改めて配下の序列決めをお願いするのじゃ。方法は見た目で分かり易い、模擬戦を希望するのじゃ」

「模擬戦……」



 なんでそんな話の方向に……!?



 しかし、アイルやラウラの言うことにも一理あるのも確か。

 配下に刺激を与えるという点に於いても良いのかもしれないな。



「じゃ……やってみる?」

「まっ、魔王様!?」



 何故だかアイルが大きな声を上げた。

 やる気が漲ってきたのかな?



 というわけで、思い掛けず側室序列決定戦的な戦いが始まることとなった。



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