番外編5 無限の彼方
※注意 ☠ DANGER! ☠
この話だけ、これまでのお話とテイストが異なります。作品のイメージを損なう可能性がある為、御不安な方は本話を読み飛ばすことをオススメ致します。
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――あれから、どれぐらい経ったのだろうか……。
何も無い空間を漂いながら勇者レオは思った。
この場所は時間の概念すら存在していない。
腹も減らなければ歳も取らないし、何かが変化することもない。
ただ自分のという存在が果ての無い空間の中にあるだけだ。
辺りは見渡す限り闇、闇、闇――。
そこには天も地も無く、ただフワフワと浮くのみ。
前に進んでいるのか、止まっているのか、それさえ分からない。
だが、彼もその状況にただ身を任せていただけではない。
この場所に吸い込まれた当初は大声で助けを呼んでみたこともあった。
しかし、声は闇の中に吸い込まれるだけで返答や反応が得られることは無かった。
スキルに頼ろうとしたこともあった。
絶対防御を一点に集中させ、この闇を突き破ることが出来るのではと考えたのだ。
ところが、この場所ではスキルが無効化されてしまうのか、全く発動しなかった。
他にも脱出の為のあらゆる手段を考え、試みたが全てがお手上げだった。
既に希望は潰えてしまっていたのだ。
「ああ……」
無意識に言葉にならない声が漏れる。
無限牢獄に囚われた自分自身のことを客観的に思うと、気が狂いそうになる。
――このまま俺はどうなるのだろうか?
不安と恐怖。
その言葉だけでは表現仕切れない膨大な負荷が心を圧迫する。
途端、体中の血が沸騰したように熱くなる感覚がして吐き気が襲ってくる。
――だめだ……もう、耐えられない……。
この苦しみを拭い去るには、もう――。
――……自害するしかない。
幸い、背腰に差してある短剣はそのまま残っている。
――こいつで腹を掻き切れば……楽になれる……。
レオは短剣を抜くと、躊躇わず自分の腹に刺した。
裂かれた肉から鮮血が溢れ出る。
――ああ……これで、ようやく俺は……。
不思議と痛みは感じなかったが、久し振りに心に平穏が戻ってきたように思えた――。
だが、それは一時に過ぎなかった。
溢れ出た血が巻き戻されるように体の中へ吸い取られて行くのだ。
「な……」
終いには傷口まで塞がってしまった。
ここは腹も減らなければ、老いもしない場所。
――ということは……。
死ぬということも許されない場所なのだと理解する。
それが分かった途端、レオの中で何かが壊れた。
「ふはっ……ふははははははははっ! あーはっはっ、あひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」
唐突に大声で笑い始める。
「おでは……あひゃ! おでは……あひゃ! うふぅ……」
心の全てが何処か遠い場所へ持って行かれそうになる。
そんな時だった。
レオの瞳に小さな光が映ったのだ。
「……」
これまで闇しか存在していなかったこの場所に一点の光。
まさにそれは文字通り、彼にとっても救いの光だった。
「あ、ああ……」
僅かに心を取り戻すと、光がぐんぐん自分の方へ近付いてくるのが分かった。
光は次第に大きくなり、彼の体を飲み込む。
レオはそれに身を任せた。
久しく浴びていない明かりに目の前が真っ白になる。
「……」
視界が明瞭になるまでには、しばらくの時間が掛かったが、ふとこれまでと違う何かを感じる。
それは地面感触と重力の感覚だった。
それを捉えた途端、視界がクリアになる。
眼前に広がっていたのはどこかの森だった。
しかし、生えている植物が見たことの無い形のものばかり。
これまで彼が生きてきた世界とは生物の体系が全く異なっているように思える。
そしてもう一つ、見慣れない生き物が目の前に存在していた。
全身毛むくじゃらで、まるで猿のような見た目をしているが、角や翼が生えており、なんと呼称していいのか分からない生き物。
それが数十匹。
レオの周りを取り囲んでいた。
「ウホウホ、ウホホ」
「……」
「ウホホ! ウホッ!」
「……」
彼らは飛び跳ねたり、手を叩いたりして、まるでレオのことを歓迎しているようにも見える。
これまで長い間、ずっとひとりぼっちで闇の中を彷徨い続けてきたレオにとっては、それが例え獣であっても久し振りに出会った他者であった。
それだけで沸々と嬉しさと生命としての活力が込み上げてくる。
そして――、
「ウホホーッ!」
気付いた時にはそう叫んでいた。
すると、猿擬き達はそれに呼応するように雄叫びを上げる。
「ウホホーッ!」
「ウホホホホホーッ!」
レオは躊躇することなく猿擬き達と肩を組むと、楽しそうにステップを踏み始めた。
「ウーホ! ウーホ! ウーホ! ウーホ!」
それは群れへの歓迎の踊りにすら思える。
半ば宴にも近い、その騒ぎは一晩中続いたのだった。
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次話より4章開始です!
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