第20話 邪炎竜イフドラ
突如、目の前に現れたドラゴンはイリスの姿を確認すると、大きな牙が並ぶ口を開け、話しかけてきた。
「姐さんじゃないですか、こんな場所まで、どうしたんです?」
その凶悪そうな見た目とは裏腹に随分と軽い口調。
そして奴が姐さんと呼ぶのは、もちろんイリスのことだろう。
あんまり姐さんって感じはしないけど。
「ちょっと用事があって。それより貴方に紹介しておく。この方は新しい魔王様」
イリスは俺の方に手を広げ、目の前のドラゴンに対してそう紹介した。
すると、その巨体は驚いたように一瞬、飛び上がった。
「えっ、ええええぇぇっ!?」
尻餅を突くと、ドシンという震動と轟音が山頂に響き渡る。
そのままドラゴンは平伏するように長い首を低く下げてきた。
「こ、これは失礼致しやしたっ! そうとは知らず、ご挨拶が遅れて申し訳ありやせん! あっしはイリス魔団長の下で、この火山の警固に携わっております邪炎竜イフドラと申しやす!」
イフドラは恐縮したように述べる。
ていうか、なんで江戸っ子職人みたいなしゃべり方なんだろうな。
そんなイフドラは側にいたイリスにそっと首を寄せると、小声で愚痴をこぼす。
「姐さんも人が悪いや。前もって教えておいて下さいよ。魔王様と分かっていれば、あんな派手な登場はしやしなかったんですから」
少女に頭を垂れる厳ついドラゴンの絵面に違和感を覚えながらも――
そういえば可愛らしい見た目だからつい忘れがちだけど、イリスはあれでも邪竜を率いる魔団長なんだよな。
――と、改めて感じる。
それはそうと、このドラゴン。
イリスの配下であるのだから俺の配下でもある訳だ。
一応、挨拶しておかないと。
「よろしく、イフドラ」
「い、いえっ、こちらこそ、魔王様の為に全力で頑張らせて頂きやす!」
イフドラは改めて敬服する態度を見せると、遠慮がちに尋ねてくる。
「それで、こちらへは何の御用で?」
「俺は今、魔紅石を探していてね。この火山の深部にそれがあるって聞いてやってきたのさ」
「なるほど、そうでしたか。では早速、あっしが取って参りやしょう」
そう言ってイフドラが腰を上げた時だ。
「待って、それは私が行く」
イリスが彼を制止する。
「姐さんが……ですかい?」
「そう」
「その程度のこと、姐さん自らがやらなくても私が行きやすよ?」
「私が行きたい」
「そこまで言われるんでしたら、あっしは退きますが……でも、大丈夫なんですかい?」
「大丈夫」
「?」
俺は二人の遣り取りが気になった。
どういう意味だろう?
だが、その理由はすぐ判明することになる。
数分後――。
「あわわわ……」
火口の縁に立ったイリスは怯えたように体を震わせていた。
怖いのかいっ!
竜の鱗はマグマの熱にも耐えられると自負していたのに、この有様である。
「そんな無理しなくても……イフドラに任せた方がいいんじゃない?」
「だ……大丈夫……魔王様と約束したから……」
と、言いながらも少々涙目。
ほんとに大丈夫なのかなあ……。
それに魔団長がそんなんで務まるんだろうか……。
ちょっと不安だ。
そんな俺の心の声が聞こえたのか、イフドラが俺の側までやってきて耳打ちする。
「ああ見えて、姐さんは恐怖で怯えてる訳じゃないんすよ。何というか……熱いのが大の苦手でして」
一応、彼なりに魔団長としてのイリスを立てたつもりらしい。
となると、俺も背中を押してやった方が良さそうだ。
「イリス、自分のタイミングでいいから。イリスなら出来るぞ」
そう言ってやると、彼女の表情があからさまに変化したのが分かった。
「……うん」
震えが止まり、落ち着きを取り戻したようだ。
そして、
「行く」
短くそう告げると、彼女は火口に飛び込んだ。
翼を細く伸ばし、真っ逆さまに落ちて行く。
見ているこっちが不安になりそうな光景だったが、しばらくすると――。
ゴゴゴゴォォォン
火口から真っ赤なマグマが噴き出し、それと共にイリスが飛び出した。
「おっ」
思わず感嘆の声が出てしまう。
彼女の手には体の何十倍もあろうかという巨大な岩が担がれていた。
あの細腕で、あんな大岩をよく持ち上げられるもんだ。
そこはやっぱりドラゴンってことか。
イリスは俺の目の前に降り立つと、担いでいた大岩を地面に置く。
と、同時にホッと息を吐き――
「あっ……つつつつ……フーッ、フーッ」
超涙目で両手に息を吹きかけ冷ましていた。
「ご苦労様、ありがとう。これが魔紅石か」
大岩の表面には赤い光を放つ筋が血管のように張り巡らされていた。
俺はさっそくその大岩を
すると、
[素材パレット]
魔紅石×250 NEW!
「おおっ」
一気に250個も取れた。
あの大岩は魔紅石の塊だったっぽい。
やったー、これで色々作れるものが増えるぞ。
そんなふうに期待を膨らませていると、イリスがしょんぼりとした顔で訴えてくる。
「私には……魔王様の作ってくれたお風呂くらいの熱さが丁度いい……」
せっかく目的の物をちゃんと取ってきてくれたのに、悄気た顔をしているなんて勿体ない。
俺はそんな彼女の頭にそっと手をやり、約束どおり撫でてやる。
「頑張ったね。良く出来た」
「……!」
途端、彼女の表情が明るくなる。
そして同時に、イリスの頭から★が飛び出していた。
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