第31話 BBQ


 シャルとゾンビ達に手伝ってもらったお陰で、色々な食材が俺のアイテムボックスに集まった。



 せっかくなので一つ一つ、その効果を確かめてみたい。

 単純にどんな味がするのか? という興味もあったが、本来の目的はMPを回復させる食材を発見することにある。



 食材の安全性については、コンソール上で確認済みだ。

 とはいえ、見た目が完全にヤバイのもいくつかあって、ちょっと躊躇う。



 とにかく、調理しないと食べられなさそうなものばかりなので、火を起こすことにしよう。



 でも……その手段が無いぞ。

 その辺で木を拾って来て、摩擦で原始的に火起こしするしかないのか?



 やっぱり、ここはファンタジーな世界らしく、魔法で火を付けたいところ。



 そういえば、俺の特殊スキルの欄に炎獄砲牙ヘルフレイムカノンってのがあったな。

 一応、炎系っぽい感じだけど……名称からして、恐らく……というか間違い無く攻撃系スキルだろうな。



 炎の砲だからファイアボールっぽいのが出そう。



 とにかく、そのまま使ったら火起こしとかいうレベルではなくなりそうなので、出力を十分の一……いや百分の一くらいに絞ってみたらどうだろう。



 実際、使ったことないから、どんなふうになるのかは分からないけど、それでライターの火くらいにはなるんじゃないか?



「よし、じゃあ……」



 いや、待て待て。

 ここは万全を期して千分の一くらいの出力にしておこう。

 用心しておいて損は無い。



「じゃあ、改めて……」



 使い方は……無意識下で理解しているのか、なんとなく分かる。

 多分こうやって……。



 俺は右手を前に突き出し、強欲の牙グリーディファングを現出させる。



 そのまま牙に意識を向けると、そこに向かって流れる魔力を感じ取れる。

 その流れを極限まで絞る。

 あとはその魔力を素直に放てばいいだけ。



 強欲の牙グリーディファングが大きく口を開ける。

 直後、その口から小さな灯火――ではなく、



 巨大な炎の砲弾が放たれた。



 バシュゥゥゥッ



「ぬわっ!?」



 突如巻き起こった爆風と、強い反動で思わず体が仰け反る。

 と同時に轟音と熱風が遠退いて行く。



 前方を見れば、放たれた炎の砲弾によって森の木々が一直線に焼き尽くされていた。

 それは終点が見えない道のように遙か先まで続いている。



「えー……」



 用心して、かなり力を抑えたのに……こんな威力なの??

 ヤバすぎるでしょ……。

 全開で使ったらどんだけ……。



 これはちょっと、滅多なことでは使わない方がいいな……。



 自分のスキルの威力に驚愕していると、俺以上にシャルは呆然としていた。



 そりゃそうだ。

 予告も無しに、いきなり森に向かって炎の砲弾をぶっ放したわけだから。



「あ、あの……魔王様、何を……?」



「いや……今採ってくれた食材をこの場で焼いて食べてみようかと思って。その為の火起しのつもりだったんだけど……ちょっと火力がありすぎたみたい。はは……」



 苦笑いする俺に対し、シャルは目を丸くしていたが、すぐに安堵したような笑みを見せる。



「なんだ、それなら先に言ってくれればいいのに。私に任せて」

「?」



 言うと彼女は、指先で宙にくるりと輪を描いた。

 直後、空中にテニスボール大の火球が出現する。



「お……」



 その火球、よく見るとメラメラと燃えるその内部で、小さな黒い目がパチクリと瞬いている。



 魔物……なのか?



「……それは何?」

「ウィル・オ・ウィスプだよ」



「な、なるほど……」



 いわゆる人魂みたいなやつね。

 とりあえず見守ることにしよう。



「ゾンビさん達、薪を集めてー」



 シャルが命令によってゾンビ達が一斉に動き出す。

 それで、あっと言う間に薪が集まった。



 そこへ先程から宙を漂っているウィル・オ・ウィスプが、薪の上を撫でるように飛ぶ。



 ボッ



 それだけであっさりと火が付き、焚き火の完成。

 簡単でいいな。



「ありがとう、助かったよ」

「ううん、別に大したことじゃないよ」



 シャルは謙遜しながらも嬉しそうだった。



「じゃあ何から焼いてみようかな」



 俺はワクワクしながらコンソールを開く。

 肉類、山菜類、果物などが並ぶが……まずは手頃な所でキノコから行こうか。

 先程ゾンビ達が見つけてくれたエビルマッシュだ。



 そいつを選択すると、俺の手の上にキノコが二つ現れる。

 一つは俺ので、もう一つはシャルの分だ。



「シャルも食べるだろ?」

「えっ、いいの?」



 彼女は、まさか自分の分も用意してくれるとは思ってもみなかったようで、目を丸くしていた。



「当然だよ。ここまで一緒に手伝ってくれたんだから」

「そ……そうかな。じゃあ……」



 というわけで焚き火の前に手頃な岩を持って来て、その上に二人して座る。

 そして、適当な枝にエビルマッシュを刺し、炙り焼く。



 数分後。

 中の水分が、表にじゅわじゅわと泡を吹き出し始めたら焼き上がりの合図だ。



 枝を手に取ると、二人揃ってかぶり付く。



「いっただっきまーっす……んふっ!?」



 な、なんだこれは……。

 肉厚の身から染み出す出汁のような旨味。

 そして濃厚で芳醇な香り。

 こいつは……。



「んまい!」



 調味料が無いのでもっと素朴な味がするかと思ったが、全然いける。

 これはいくらでも食べられそうだ。



 シャルはというと、熱いのか「はふはふ」言いながら美味しそうに食べていた。



「なんだか普段のエビルマッシュより、今日のものは美味しい気がする」

「そうなの?」

「うん、多分、魔王様が焼いてくれたからかな? えへへ」



 シャルは照れ臭そうに微笑んだ。

 それは彼女にとって何気ない一言だったのかもしれない。

 でも、俺からしたら殺人級の可愛さがあった。



「……」



 っと、いけない。ぼーっとしてしまった。

 そういや、エビルマッシュの効果を確かめなきゃいけないんだった。

 どれどれMPに変化はあるかな?




 MP:228/3016




 前回の数値が227だったから……。

 ぬわーっ!? やっぱり1しか回復してない!



 なんだよ、どんな食べ物食べても1しか回復しないのか?

 そんなことってある?



 こうなったら、他のもどんどん確かめてみるぞ。



 アイテムボックスから食材を取り出すと、次から次へと焼いては食べてゆく。

 その結果がこれだ。




 コマネ草 MP+1

 マンドラ人参 MP+2

 鬼サルマ芋 MP+1

 猫目茸 MP+1

 オニル葱 MP+1

 ジルジルの実 MP+1

 イエモンペッパー MP+1

 殺人蝙蝠キラーバットの肉 MP+3




 なんだよこれ……。

 +2とか+3のものもあるけど、全体的に少ない。

 全回復するには、どんだけ食べればいいんだよ!



 やっぱり食材によるMP回復は期待しない方がいいんだろうか?



「ふぁー……お腹いっぱい」



 MPのことで悩んでいる俺の横で、シャルが満足そうにお腹をさすっていた。



「さっきも言ったけど、魔王様が焼いてくれると美味しすぎてついつい食べ過ぎちゃうよ」

「そう? 普通に焼いてるだけだよ?」

「そんなことないよ」



 シャルは唇を尖らせて主張する。



「魔王様が焼いてくれるものには優しさが含まれてるの。食べてくれる人に喜んで欲しいとか、そういう気持ち」

「ふーん……」



 もし、そんな気持ちが込められていたとして実際、味に影響するものなんだろうか?



「魔王様はそう言うけど、私は感じてるよ。食べ物とは違うけど、私の不注意で腕が取れちゃった時とか……魔王様は、どうしてくっつけてくれるの?」

「え……どうしてもなにも……」



 確かに何度か彼女の腕がもげたことがあったけど、それに対して別に理由なんてないんだよな。

 落ちたから、くっつけてあげただけ。

 凄くシンプルな理由。



「みんな私の腕とか足とか首とかもげると怖がって近寄ってもくれないんだよ?」



 もげるの腕だけじゃないのかよ!



「なのに魔王様は平然とした顔で、拾ってくれる」

「……そのままじゃ普通にシャルが困るんじゃないかと思って。ただそれだけのことだよ」



「……」



 そこで彼女はどういうわけか目元の辺りをピンク色に染めて、なんだか泣き出しそうな顔をしていた。



「え……え?」



 彼女は否定するように首を振る。

 そして、



「それが優しさだよ」

「……!」



 俺は隣に座るシャルの冷たい体から温もりを感じた。



「当たり前のことをしているだけだから。でも、また腕が取れたら拾ってあげる。それは間違い無いかな」



 そう言うと、普段は青白いはずのシャルの顔が一気に真っ赤になる。

 直後――、



「かはぁっ!!」



 突然吐血して、その場にぶっ倒れた。



「えええぇっ!? ちょっ、大丈夫!?」



 俺は慌ててシャルの体を抱きかかえる。

 すると彼女は淡い笑みを浮かべながらこう言った。



「平気……いつものことだし……えへへ」



 そんなシャルの頭からは★が飛び出していた。


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